第19章 冥想法を手に入れる
――必ず、超凡者になる。
心に刻んだ誓いを胸に、フィルードは杯を置いた。
気づけば、隣のブライアンが彼をじっと見つめている。
その眼差しは、ただの酔っぱらいのものではなく、長い歳月を旅商人として生き抜いてきた者の眼だった。
「構わないさ。君にこれらの昔話をさせてくれたのは、君の才能だろう。」
ブライアンは手を振りながら、赤らんだ頬で言った。
「君は本当に素晴らしい若者だ。この長い商売の旅で、私は常人にはない人を見る目を養ってきた。君はきっと将来、非凡な人物になる!戦争に対する鋭い感覚も非常に優れている。これからもぜひこの道に進むべきだ!」
その言葉を真正面から受け止め、フィルードは力強くうなずいた。
「ご指導ありがとうございます。心に刻んでおきます。……ブライアン管事、以前あなたが才能を調べてもらった場所は、今でも存在しますか?」
ブライアンは意味深な笑みを浮かべる。
「やはり聞いてきたな。君が尋ねなくても、教えるつもりだったよ。ただ――慎重になるんだ。あの場所は王都にある。ここから十数日もかかるし、地下の闇市場組織の管理下にある。検査費用は金貨50枚。……法外に高い。そのお金があるなら、君の傭兵団の建設に使ったほうがいい。強くなってからでも遅くはない。」
その一言に、フィルードの胸の高鳴りは半分ほど冷めた。金貨50枚――今の彼には到底出せる額ではない。
「……なるほど。今は深入りしないでおきます。」
話題を変え、彼は周囲の政治や地理、人々の暮らしについて質問を始めた。ブライアンは饒舌に答え、フィルードはスポンジのように知識を吸収していった。
気づけば、二人は酒を酌み交わし、打ち解けた口調に変わっていた。
「ブライアン兄さん、本当に魔獣を見たことがあるんですか? 攻撃されなかったなんて、運がいいですね!」
「もちろんだとも!」ブライアンはすっかり酔っ払っていた。「あんなに怖かったことは、生まれて初めてだったさ。十数年前、子牛ほどの大きさの灰色オオカミに出くわしてな……幸い腹いっぱいだったらしく、私たちをじっと見ただけで立ち去ってくれた。」
その話に、フィルードの目は輝いた。――この世界には、まだまだ未知の存在があふれている。
酒に潰れかけのブライアンを部屋に運び、毛布をかけてやると、フィルードはふと窓の外に目をやった。雪国の夜は深く、吐く息は白く消えていく。
(もっと知りたい。強くなるために、この世界のことを……)
胸の奥で小さな炎が燃えていた。
「……フィルードよ。」
背を向けかけたとき、酔いににじんだ声が呼び止めた。
「君が超常的なものに興味を持っているなら、私が集めた魔法の本をいくつかやろう。今となっては価値も薄れた代物だがな。その中で最も使えるのは二つの修練法だ。一つは戦士の鍛体法、もう一つは汎用的な冥想法だ。ただし……鍛体法に手を出すな。魔石や魔力を含む物がなければ、命を落としかねない。だが冥想法は安全だ。心を落ち着け、思考を整理するのに役立つ。」
「……! 本当ですか!」
思いがけない贈り物に、フィルードは歓喜を抑えきれなかった。
「兄さん、いくらですか? ただで受け取るわけには――」
「金などいらん。」ブライアンは急に真剣な顔をした。「大した価値のないものばかりだ。若い頃の好奇心で集めただけだしな。私はもう歳を取った。だから、君に託す。だが……深入りしすぎないようにな。」
胸が熱くなった。
「……ありがとうございます、ブライアン兄さん。このご恩は必ず返します!」
その夜、フィルードは羊皮紙を開いたが、文字が読めないことに気づいた。説明を請うと、ブライアンは根気強く教えてくれ、短時間で大まかな意味を理解できた。
「なるほど……これが、冥想法か。」
彼は何度も羊皮紙を撫で、心の底から感謝を込めて礼を言った。
翌朝、冷たい空気の中で目を覚ましたフィルードは、羊皮紙を胸に抱きながら深呼吸した。
(これで……俺も一歩前に進める)
静かな決意を抱え、彼はケビンの部屋へ向かう。
ケビンは敬礼し、ポケットから銀貨11枚を取り出して差し出した。
「団長、こちらが今月分です。」
フィルードは受け取りつつ、そのうち1枚を彼に返す。
「ケビン、これは家に送ってやれ。団の立ち上げには金がかかるが、家族を蔑ろにするわけにはいかない。」
だがケビンは真剣に首を振った。
「いいえ、団長。行軍を含めて二日しか働いていません。元々は銅貨20枚の約束でしたし、それすら不要です。食事の方がよほど価値がありますから。今は一刻も早く資金を貯めて、団を拡大すべきです。」
「……君は真面目すぎるな。」
フィルードは銀貨を無理やり握らせた。
「家を出て何も持ち帰らないのはよくない。今回の戦利品で肉干しを百斤手に入れた。これでしばらくは食いつなげる。傭兵団のことは任せろ。」
ケビンは観念して頷き、その銀貨を大切にポケットへしまった。
――それは彼にとって、人生で最も大きな報酬だった。
夢のような数日間。その実感が、ようやく心に染み込んでいった。




