第17章 血と怒号の戦場
だが、猪人族の少年たちもすぐに激しく抵抗を始めた。
粗末な棍棒や槍を振りかざし、必死にテントから飛び出してくる。背後にはわずかな正規戦士が控え、少年たちを支えながら必死に戦線を繋いでいた。
「来るぞ――!」
フィルードは弓を素早く構え、狙いを定める。
――ヒュッ!
矢は空気を裂き、一人の猪人族戦士の胸に深々と突き刺さった。戦士は短い悲鳴を残し、無様に崩れ落ちる。
「オオオオッ!」
ブルースが獣じみた咆哮を上げ、両手剣を振り下ろして突撃する。鋼の刃は少年の武器をまとめてへし折り、そのまま肉を裂いた。次の瞬間には、また一人が地に沈んでいた。
その勢いに、数人の戦士が慌ててブルースを取り囲む。
「させるか!」
ユリアンは大盾を構え、正面から体当たりを仕掛ける。
ガンッ! 鈍い衝撃音とともに猪人族の戦士がよろめき、そこへ片手剣が容赦なく突き刺さる。血を吐きながら地に叩き伏せられ、戦士は動かなくなった。
一方マイクは、まるで闇夜の狩人だった。冷徹な眼差しで矢を放ち続け、わずかな間に四人の少年が命を奪われた。
フィルードの矢と仲間の猛攻により、正規の戦士はすぐに全滅する。
それは少年たちの心を容赦なく打ち砕いた。だが――震えながらも彼らは逃げなかった。石を拾い、棒を構え、血まみれになってなお必死に立ち向かってくる。
「……っ、子供でも……最後まで戦うのか」
フィルードはわずかに目を細める。その勇気に驚きを隠せなかった。
戦いは苛烈を極めた。泣き叫ぶ声、肉を断つ音、血飛沫が戦場を覆う。やがて三十分以上の戦闘の末、部落に立つ猪人族は一人として残らなかった。
――すぐに、家畜小屋も制圧される。
奪われていた四台の馬車は無傷で残っており、馬も無事に閉じ込められていた。
「三人の首領には、部下を監督してもらいたい。死体をまとめて隠し、テントを立て直すんだ。できる限り部落を元通りに見せかけろ」
フィルードの冷静な指示に、首領たちは頷きすぐに動き出す。
短時間で部落はほぼ元通りになった。とはいえ、テントに残る血痕までは消せない。
鹵獲したのは駄馬二頭、牛八頭(大牛五、子牛三)、羊は二百近く。だが大きな羊は数十頭だけで、大半は子羊だった。さらに肉の干物が千ポンド近く、牛皮二十六枚、羊皮三百余。だが多くは既に加工され、価値は低かった。
死傷者は精鋭傭兵に戦死者なし。一般傭兵は二名戦死、五名が負傷という損害で済んだ。
「さすがだ、フィルードさん!」
ブライアンが興奮した面持ちで駆け寄ってくる。「大勝利だ!戦利品も莫大だ。しかし……私は撤退を提案する。奴らの戦士が戻るのは時間の問題だ」
「駄目です」
フィルードは即座に否定した。「もし戻った彼らが部落の惨状を知れば、狂ったように我々を追撃するでしょう。町や村に被害が及べば、地元の貴族から責任を追及されます。だからこそ元に戻させた。戻ってきたところを叩き、徹底的に危険を排除するためです」
首領たちもすぐに同意する。「ブライアン殿、ここで片を付けるべきです!」
ブライアンはしぶしぶ頷いた。
そして正午、外に出ていた猪人族の戦士たちが帰還する。彼らは何も疑わず部落へ足を踏み入れた。
その瞬間――
「今だ!」
待ち伏せしていた傭兵たちが一斉に石を投げつける。怒号と混乱。隊列が崩れたところへ、フィルードとマイクの矢が突き刺さる。二人の戦士が胸を射抜かれ、崩れ落ちる。
「突撃だぁぁ!」
五十人の精鋭傭兵が咆哮と共に飛び出し、猪人族に襲いかかる。
異変を悟った戦士たちは血に染まったテントを見てすべてを理解した。部族は皆殺しにされたのだ。悲痛な叫びとともに、人間へ突進してくる。
「うおおおおッ!」
ブルースは剣を振り下ろし、一人を斬り倒す。しかし背後から猪人族に抱きつかれ、そのまま肩へ牙を突き立てられた。
「ぐっ……があああああ!」
血が噴き出し、ブルースが絶叫する。ユリアンがすぐさま駆け寄り、剣を振るった。首を斬り落とすまで、猪人族は食いちぎるのをやめなかった。
マイクは弓を捨て、剣を手にして戦場へ飛び込む。フィルードは冷静に状況を見極め、誤射の恐れがない時のみ矢を放った。
「今だ! 一般傭兵も突入しろ!」
フィルードの号令に、待ちわびていた傭兵たちが怒声を上げて突撃する。
数の優位を得たことで、猪人族の戦士たちは一気に劣勢へ追い込まれた。普通の傭兵たちが数人がかりで押さえ込み、精鋭がとどめを刺す。
戦場は、もはや勝敗の決した地獄絵図と化していた――。




