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傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第四巻 商人から領主へ ――選ばされた支配

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第158章 冷徹なる統治者、領地改革を告げる時

群衆は、鍛え上げられた兵士たちの怒号に怯え、すぐに静まり返ると、長い列を作り始めた。

フィルードは、一人ひとりに粥をよそいながら、静かに人々の顔を観察した。

(飢えた目だ。……だが、まだ絶望しきってはいない。統治するなら今が最適だ)

住民たちは何も持っていないが、木椀や粗い陶器の椀だけは手放していない。乞食に落ちても椀だけは命綱。そんな彼らの暮らしが、痛いほど分かる。

一人あたりの配給は、パン半ポンド、麦粥一杯、そして薄い羊肉一枚。

だが――満腹になった彼らはようやく顔を上げ、フィルードに気づいた。

「小フィルードじゃないかい!? 出世したって噂は聞いてたけど、なんで急に戻ってきたんだい!」

叫んだのは、かつて彼に平気で高値のパンを売りつけた、あの太った商人の女性だった。

隣の痩せた中年男も驚いて言った。

「間違いない。あのボロ家を買ったのは私だ」

ざわめく群衆を前に、フィルードは堂々と歩み出る。

「皆さんの言う通り、私が小フィルードです。今日からこの町は――私の管轄になります」

その一言で、群衆は一気に騒然とした。

「黒パンすら買えなかった小フィルードが、貴族様に!?」

「軍功で領地を賜ったんだな……!」

歓声と困惑が入り混じる中、老人が声を上げた。

「小フィルード、俺たちはみんな昔からの近所だ。自由民の税金はどうなるんだ? 免除ってのは……」

(来ると思ったよ。故郷の厄介さは、こういう “馴れ馴れしさ” にある)

フィルードは顔を曇らせ、手で静粛を促した。

「免除は不可能です。この町の治安を維持しなければなりませんからね。以前の税は、自由民が六割、農奴は八割。ですが、今日からは両方とも一割引きます」

その瞬間、群衆は一斉に歓声を上げた。

しかしフィルードは、そこに残る“期待以上を求める目”を見逃さなかった。

(欲望は際限がない。統治するには、甘さと厳しさの線引きが必要だ)

「農奴は左、自由民は右に並べ」

兵士たちが迅速に動き、群衆は二つに分けられた。

自由民は千人未満。農奴は二千人。しかし予想より千〜二千人少ない。

(逃げたか、隠れたか……。まぁいい。後で徹底的に洗う)

フィルードは帰郷命令を出し、兵士を領内へ散らせ、農奴の捜索を開始させた。

エレナには告示を書かせ、領地の賦役を掲示し、自由民募集に利用した。

さらに優遇政策――

開墾した荒地は三年間免税。ただし届出が必須。

(税の緩和は“餌”だ。だが、主導権は常に俺が握る)

続いて土地改革。

農奴も自由民も関係なく、全員に二ムーの食糧供給地を割り当てる。

所有権は領主府に残し、耕作一年度ごとに回収し再分配。

流民や新たに来た農奴にもすぐ二ムーを与え、初年度は免税。種子は領主府が供給。

(“土地の配分権”を握る。それは人心を握るのと同じだ)

耕地の測量を命じると、領地は前任の男爵より遥かに豊かだと分かった。

三つの騎士領を没収したことで、良質な耕地の大半が手中にある。

(この土地……俺が思っていた以上に価値があるな。ならば、利用し尽くすだけだ)

農奴に男爵邸の清掃を命じ、一日かけて悪臭を洗い流す。

その後、フィルードは地下牢に向かう。

そこには、前任の男爵イワンクが監禁されていた。

暗い通路を抜けると、牢には二百人以上が詰め込まれていた。

男爵、三人の騎士、その家族、百人以上の衛兵。

(これだけの人員……“戦力”としての価値は十分だ)

イワンクの前に歩み寄り、笑みを浮かべて言う。

「イワンク男爵。あなたが戦争で無実だと知っています。しかし沈黙は不忠と同義です。あなたの境遇には遺憾の意を示しますよ。私は以前、あなたの領地の自由民でしたから」

憔悴したイワンクは顔を上げる。

「あなたが新しいフィルード男爵ですか……。戦争のことはご存知でしょう。私は巻き添えです。全てはハロルドの老いぼれのせい。私は反乱に従っていません。ただ、領地が名目上、彼の管轄だっただけ……。あなたは私を処刑しに来たのですか?」

(正直に言えば、“殺す方が楽”だ。だが――それでは利益がない)

フィルードは首を振った。

「私はあなたに恨みがありません。それに、今のあなたは私の奴隷であり、財産の一部。しかもあなたは超凡者。価値ある“資源”です。そこで提案があります」

イワンクの目に、生への渇望が浮かんだ。

「私は今あなたの奴隷です。要求は何でもおっしゃってください。ただし侮辱以外なら……。侮辱するなら、死んでも従いません!」

(見込みはある。奴隷でも、心が折れていない者は使える)

「私に十年間仕えてください。そうすればあなたと家族に自由民の身分を与えましょう。ただし、その間は私のために戦ってもらいます。死傷は避けられませんが」

イワンクはほとんど間を置かず頷いた。

「問題ありません。若くはありませんが、まだ剣は握れます。一生仕えても構いません。ただ……子どもたちを奴隷の身分から解放してください。それだけは……!」

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