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傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第四巻 商人から領主へ ――選ばされた支配

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第157章 飢えの民と、帰還の地獄

フィルードは、まず全ての弓兵を高台から降ろし、奪い取った城壁へ再び登らせた。

隣を歩くエレナの気配が、わずかに緊張を帯びているのが伝わってくる。

――ここからは時間との勝負だ。消耗戦に持ち込む余裕はない。

ウェイン侯爵は戦闘を早期に終結させるため、近接戦闘に秀でた数十人の超凡者を最前線へと配置した。

彼らのほとんどは両手武器を携え、まるで処刑場に向かう殺戮神の群れのように、無音のまま前進を開始する。

すぐに敵と激突した。

一瞬、風が逆流したような圧だけが走り――次の瞬間、敵兵は肉片のように崩れ落ちる。

フィルードは、その中の一人の上級見習いが、巨大な斧を振り下ろし、盾ごと兵士を真っ二つに両断するのを見た。

(……慣性を乗せた一撃か。理屈はわかるが、それでも常人には不可能だ)

冷静に分析しながらも、思わず眉をひそめる。彼らはもはや「兵士」ではなく、「兵器」だった。

北側の城壁も陥落し、続いて南側も――陽が沈む頃には四方の城壁すべてが制圧された。

ウェイン侯爵は攻撃の停止を命じた。

兵士たちには登れる限りの胸壁を封鎖させ、外の軍勢には城門をいくつか封鎖させた。

翌朝、子爵邸への突入が始まったが――そこはすでに業火に包まれていた。

兵士たちは近づくことすらできず、火が弱まるのを待ってから踏み込んだ。

まもなく、ハロルド子爵の遺体が見つかった。

周囲には数多くの遺体が横たわり、そのすべてに剣傷があった。

火事の前に殺された痕跡……抵抗の形跡。

(家族さえ、自ら……か)

フィルードは静かに息を吐いた。

この世界で子爵まで登り詰める者は、例外なく冷酷だ。

――他者の死を踏み越え、ためらいなく同族を切り捨てる覚悟を持つ者だけが、この地位に立つ。

戦利品はほとんどなかったが、ダービー城地区全体を完全に奪還したことには違いない。

500人を駐留として残し、残りは帰路へついた。

二日後、大軍はダービー城に戻り、領地に駐屯していた王国軍も城へ戻った。

フィルードはウェインに別れを告げ、兵士と農奴を連れて領地へ戻る準備をした。

ウェインは名残惜しそうだった。

確かに、この短期間でフィルードは彼に“元帥の面白さ”を味わわせすぎたのだ。

ウェインはダービー城で軍団顧問にならないかと誘い、

上位超凡者への昇進の手助け、年俸2000金貨――破格とも言える条件を提示した。

しかしフィルードは、放浪に慣れた自分が拘束されるのは耐えられないと断った。

(自由であること。それ以上の報酬は存在しない)

それが彼の結論だった。

仕方なく、ウェインは深く惜しむ表情で彼を送り出した。

城内で慎重に6000人の農奴が選ばれた。

ウェインの執事とはすでに親しくなっていたフィルードは、そっと魔石を彼の手に握らせた。

執事は儀礼的に数度辞退したが、結局受け取り、口元には分かりやすいほどの親しみが浮かんだ。

その結果――

彼は“こっそり”2200人もの青壮年をフィルードに回した。

男1200人。

さらに、痩せた壮年を女装させて紛れ込ませるという大胆さまで見せた。

残り4000人は少年と子供。老人はほとんどいない。

(……魔石一つでこれか。安すぎた気すらするな)

フィルードは苦笑して肩をすくめた。

彼はマイクに500人の兵士を率いて農奴たちを領地まで連行し、ケビンに引き渡すよう命じた。

その後、馬車隊を率いて再び食料を運搬することも、すでにウェインと約束してある。

9000人の大軍が食べた分と自分の分――

すべてダービー城が責任を持って輸送する。

フィルードが馬車隊を呼び戻す主目的は、追加の食料調達だ。

今後のリスクを見越して、可能な限り備蓄するつもりだった。

(食料がある限り、領地は死なない)

それが彼の信条だった。

フィルード自身は、500人の兵士を率いて新しい領地――故郷ルビン鎮へ向かった。

500人といえど、一列に並べば相当な迫力だ。

なにより前方の20余名の騎兵は、堂々たる威容を放っていた。

まさに故郷への錦飾りである。

エレナとともに先頭を進む。

だが領地に入った途端、二人は愕然とした。

(……誰も、いない?)

男爵領の配下には大小8つの村があるはずだった。

だが、そのどれもが完全に無人。

町に入っても、人影はほとんどなかった。

男爵城に到達すると、帽子が曲がった王国軍小隊長が駆けてきて、敬礼した。

「団長様、お迎えにあがりました。……城内は人が多すぎます。

軽率に踏み込めば押し潰されるやもしれません。

団長様は、一部の兵を外へ残された方がよろしいかと。」

フィルードは手を振った。「分かった、報告せよ。」

そして自らも城壁に登り、中を覗いた瞬間――言葉を失った。

男爵城はぎっしりと、まるでニシン缶のように人で詰まりきっていた。

積み重なり、身動きもできない。

排泄場所もなく、悪臭が城全体を覆っていた。

エレナが横でむせて顔を背ける。

フィルードも鼻を手で覆った。

「……千人隊長、数名。中に突入し、全員を外へ出せ。前の広場 に集めるんだ。」

指名されなかったことへ安堵しつつ、彼らは苦い顔で命令に従った。

兵士がどれだけ叫んでも、怯え切った住民は動かなかった。

喉が枯れるほど呼びかけても効果はない。

そこでフィルードは一つの策を提案した。

城の近辺に粥の屋台を設置させ、

大量の軍用パンを積ませ、さらに羊を屠り火で炙らせた。

香ばしい羊肉の匂いが城内に満ちる。

痩せ細った住民たちは、次々に頭を出し、匂いへ釣られるように動き始めた。

兵士たちが叫ぶ。

「無料配布だ! 数に限りがあるぞ、早い者勝ちだ!」

その一言で、恐怖は一瞬にして吹き飛んだ。

人々は沸騰した鍋のように一斉に走り出し、

やがて全員が広場に集まった。

彼らは躊躇なく食料へ手を伸ばす。

フィルードはひどく眉をひそめ、手を振った。

「彼らを整理しろ。少し痛い目を見せる程度でいい。壊すな。」

兵士たちは頷き、手近な棒で住民たちを叩いて制御した。

横でユリアンが怒鳴りつける。

「並べッ! 奪ったやつは俺が爪をへし折ってやる!」

広場に響く怒声。

フィルードは静かに息を吐いた。

(……ここからが、本当の再建だ)

PS:ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

次回からはいよいよ――フィルードが正式に故郷へ戻り、

「領地統合編」が本格的に始まります。

ただ領地を受け継ぐだけではなく、

かつての近所の人々、残された自由民と農奴、

そして前任男爵イワンクとの“避けて通れない対面”が待っています。

温かい再会だけで終わる話ではありません。

改革、反発、そして決断。

フィルードが“領主としての最初の一歩”をどう踏み出すのか――

ぜひ見届けていただければ嬉しいです。

ブックマーク・評価・感想・応援も、

これからの更新の大きな励みになります!

どうぞよろしくお願いします。

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