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傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第四巻 商人から領主へ ――選ばされた支配

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第156章 鉄火の反攻――戦略が戦場を支配するとき

ダービー城が独立して以来、王国北方で最も重要な戦略拠点は、もはやモニーク城ではなく、このダービー城となっていた。

ここは獣人への抵抗の最前線であり、同時に伯国分裂の象徴でもある。

――つまり、「この地を制した者が北方情勢を制す」。

フィルードは、それを誰よりも冷静に理解していた。

ウェイン侯爵は判断を下した。

北方の重要軍団をダービー城に集結させる――大軍を動かすには、補給が容易で、周辺に影響力を及ぼせる拠点が必要だ。

それを満たすのはもう、ここしかない。

そして彼は再び国王陛下へ書簡を送り、北方への増兵を強く求めた。

文面は驚くほど率直で、現状の劣勢、人員不足を隠さず記していた。

正直さは時に弱みでもあるが、今の北方には虚勢を張っている余裕すらない――そういうことだ。

準備を整えたウェイン侯爵は、ついに反攻を開始した。

ほとんどの騎士領地は布告するだけで平定され、軍は実質抵抗を受けずに進軍していく。

ダービー城周辺を迅速に掃討した後、次の標的は――

ハロルドと、その配下三つの男爵領。

ウェイン侯爵は、彼らに二つの選択肢を突きつけた。

一つは降伏し、王国の奴隷となること。

二つ目は、城が破られた後、一族郎党、誰一人残さず処刑されること。

「選べ」と言われて拒否できる者は少ない。

案の定、二人の男爵は降伏し、抵抗を選んだのは一人のみ。

そして、ハロルドは――言うまでもない。

彼は迷いなく抵抗を選んだ。

勝てば官軍、負ければ賊軍。

その覚悟だけは、評価してやってもいい――フィルードはそう冷静に考えていた。

ウェイン侯爵は、降伏した四千人の兵を呼び出し、彼らに“罪を償わせる”ため、まず抵抗を選んだ男爵の領地を攻めさせた。

戦意の低い兵でも、易しい目標なら十分使える。

この男爵領は小規模で、雲梯を設置するだけで城壁への登攀が可能だった。

フィルードら多くの超凡者が城壁近くで制圧を行い、守備兵は頭を上げることすらできない。

結果、戦いは――一時間。

それだけで終わった。

ウェイン侯爵は容赦なく男爵一家を引きずり出し、老若男女、全て斬首した。

領地の従者たちはすべて奴隷として割り振られる。

そして領地は王国に編入され、二万の大軍はハロルドの子爵領を完全包囲した。

ウェイン侯爵の大声が響く。

「ハロルド! お前は悪を助け、悪事を働いた! 今日の結末を覚悟していたか!

今すぐ降伏せよ!

さもなくば、城が落ちた時――一族郎党、皆殺しと思え!」

城壁上のハロルドは大笑し、言い放つ。

「勝てば官軍、負ければ賊軍だ! 降伏などあるものか!

腕があるなら攻めてこい!」

そして、返答は途絶えた。

ウェイン侯爵が手を振ると、兵たちは雲梯を担いで突撃を開始する。

大量の弓兵も前進し、後方からの制圧を担当した。

弓兵は城壁から五十メートルの地点で停止し、射撃戦が始まった。

フィルードは上級徒弟へ昇格してから、持続力スタミナの向上を実感していた。

数十メートルまで近づき、軟弓で射れば三、四十本は軽く放てる。

さらに魔法攻撃の付与により、その“実質的持続力”は七十回にも達する。

――七十。

彼の正確無比な射は、その七十の矢で六十人以上を確実に戦闘不能にできる。

一人で、百人規模の軍団に匹敵する火力。

冷静に考えても、常識外れだ。

ただし、子爵城の城壁は、先ほどの男爵領のように脆くはない。

東側の城壁では、味方の兵士が上に到達したものの、上層部の精鋭に討ち取られた。

午前中の攻撃で五百以上の死傷者を出し、それでも突破はできず。

しかし敵も同様に数百の損害を負っていた。

両者の出血は深く、長期戦になればどうなるか分からない。

昼になり、ウェイン侯爵は攻撃停止を命じ、対策会議が開かれた。

二人の子爵は「包囲して士気低下を待つ」という案で一致したが――

その瞬間、フィルードは静かに首を振った。

「いけません。この地は獣人に対する最前線です。

時間をかければかけるほど“不確実な要素”が増えるだけです」

冷静な声だった。

「私は城外五十メートル地点に“高台”を築くことを提案します。

そこから弓兵が城壁を直接射撃できるようにすれば、登攀は格段に容易になります。

城壁を間接的に制圧し、我々の弓兵を前進させる――

つまり“蚕食”しながら敵の防御を崩すのです」

優勢を最大化し、敵の利点を無力化する。

単純明快だが、最も効果的な策だった。

三角構造による木塔――

フィルードが説明した瞬間、ほぼ全員がその有効性を理解した。

ただし、子爵たちの面子は潰された。

カールトンが不満げに尋ねる。

「十メートルの城壁に対抗する高台など、どう作る?

木材を組むだけでは崩れる。

土や石では時間がかかり過ぎる」

フィルードは微笑んだ。

「子爵様の指摘はもっともです。

ですが、提案したからには解決策があります。

十分な木材があれば、倒れない“木塔”は作れます」

ウェインはフィルードに得体の知れぬ信頼を寄せており、即断した。

「よし、まずはこの方法で試す。

だめなら別の策を考えればいい」

そこから数日、軍は丸太集めに奔走した。

フィルードの指導のもと、巨大な木塔が次々と建設されていく。

――三角は強い。

前世の鉄塔と同じ発想だ。

一本の丸太の両端をくり抜き、ほぞ継ぎで組み、縄と釘で固定する。

単純だが、堅牢だった。

四日で、南側城壁に木塔十二基が完成した。

各塔には数十人が乗れる。

ハロルドは全てを見ていたが、止められない。

弓兵が顔を出せば即死。

城上は射抜かれ続け、悲鳴と盾の音が響く。

中央の木塔には超凡者が集まり、攻撃はさらに苛烈だった。

盾で守っても、角度を変えた矢が貫く。

やがて――

南側城壁が広範囲で制圧される。

そしてウェイン侯爵が叫んだ。

「総員、突撃!」

兵の士気はこれまでにないほど高まっていた。

梯子がかけられると、兵たちは矢の雨を背にしながら一気に登った。

人数が五百に達した瞬間――

南側城壁は、ついに完全に奪取された。

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