第154章 静かなる突破――高級見習への一歩
ブライアンは即座に首を振った。
「それ(価格下落)はありません。私たちは各地で共同経営者を探すことができます。彼らのコストと利益を合理的な範囲で固定し、数量を厳しくコントロールすれば、価格が下落することはないでしょう。」
なるほど、とフィルードは内心で感嘆した。
(この男……前世の商業理論の“原型”に自然とたどり着くとは。こういう直感的な才覚は、学んで身につく類のものではない。もし俺にもっと大きな領地があれば、財務官に据えてやりたいほどだ。)
「兄さんの考えは私の方針と完全に一致しています。あなたの見解に従いましょう。」
フィルードは強く頷いた。
「オークが撤退した後、毎月、私はあなたに石鹸のロットを送ります。あなたはそれを下の行商人に分配してください。もし過程で何か問題があった場合、無理に耐える必要はありません。全部、私に責任を押し付ければいい。危険を冒して財産を守る必要はありません。」
ブライアンは深く息を吐き、安堵の笑みを浮かべた。
「もちろんです。」
二人はその後も杯を重ね、話は尽きず、夜更けまで飲み続けた。
そしてフィルードは、ふらふらと駐屯地へ戻った。
――駐屯地に戻った途端、足がもつれ、思い切り転ぶ。
「……痛っ。誰だ、団長を襲うとは!」
反射的に片手剣を抜き、周囲を警戒した。
次の瞬間、後頭部を軽く叩かれる感触――反射で剣を振り返って放った。
そこに立っていたのは、青いロングドレスを揺らすエレナ。
嘲るように微笑んでいる。
ホッとしたフィルードは剣を収め、少し不満げに言った。
「つまらない悪戯はやめろ。真夜中に寝もせず、人を驚かしに来るとはな。」
そう言って立ち去ろうとしたが、エレナはすぐに追いすがった。
「あなたは団長なのに、自分の隊からこんなに長い間離れて、配置の指示もせず出かけて……しかもこんな時間に帰ってきて。説明は?」
「説明できないなら、侯爵様に報告します!」
(……前世の学生時代の“委員長タイプ”を思い出すな。面倒くさい。)
フィルードは苛立ちを隠さず言い返す。
「俺がどこへ行こうと俺の勝手だ。お前に口出しされる筋合いはない。
お前は俺の妻でもないだろう。告発したいなら好きにしろ。」
そう言い捨ててテントへ戻った。
背後で地団駄を踏む気配がして、少しだけ胸がスッとした。
しかし、テントに戻ってからも、怒りは引かなかった。
(……この女、魔法の階位が高いからって、俺にマウント取りまくりやがって。)
苛立ちを紛らわせるように荷物を漁り、ウェインから褒美として受け取った三本の高級魔薬を取り出した。
既に蓄積は終わっている。
必要なのは“引き金”だけ。
本来なら自然突破を待ち、魔薬は部下のために温存したかった。
だが――
(もう待てる状況じゃない。エレナに一泡吹かせるにも、今が好機だ。)
フィルードは一本目の魔薬を口に含み、噛み砕く。
苦味――だがすぐに腹の底から力が溢れ上がる。
急いで座り、瞑想に入る。
体内で反発し合う魔力の奔流。押しつぶされそうな圧迫感。
魔薬の力が尽きかけた時、まだ何かが足りないと感じた。
(二本目だ……いく!)
二本目を飲み込むと――
“カチッ”
何かの枷が外れる手応え。
フィルードはすぐさま魔晶石を両手に掴み、吸収を加速させた。
魔力の質が変化し、渦のように体内で安定し始める。
瞑想を終え、ふぅと目を開けた。
箱には一本だけ残っている。
「……高いんだぞ、これ。」
顔をしかめつつも、内心は勝利感で満ちていた。
魔力は濃度が上がり、制御も滑らかだ。
最低級魔法なら三十回。
中級の全力なら十五回。
さらに、威力は以前の三割増し――
(これなら……十分だ。)
フィルードはゆっくり立ち上がる。
(反撃の時間だ。月は暗く、風は強い。絶好の条件だな。)
彼は気配を消し、そっとテントを抜け出した。
向かうは――エレナのテント。
巻き上げ戸を僅かに開けた瞬間、エレナが鋭く反応する。
「誰?」
答えず、フィルードは大胆に飛びかかった。
素早く転がって避けるエレナ。
フィルードは魔力で加速し、その身を抱きしめる。
滑らかな感触――
次の瞬間、エレナが叫んだ。
「くそっ!なんで服を着てないの!」
「……は?」
フィルードは思わず手を離した。
エレナは急いでベッド脇に転がり、身体を隠す。
フィルードは顔を覆った。
「見てない、何も見てない。」
「覚えてなさい!今日こそ終わりよ!」
エレナは服を乱暴に着込み、飛びかかってくる。
(ちょうどいい。実力試験だ。)
二人は魔力を激突させた。
衝突は三度。
互角――だが、エレナの魔力が尽きかけているのが分かった。
(俺の瞑想法は通常より一割濃厚。これが差になる。)
汗だくのエレナを見下ろし、顎を掴む。
「どうした。魔力切れか? じゃあ――お会計の時間だな。」
エレナは冷たく鼻を鳴らした。
「あなたの瞑想法、普通じゃないわね。ほんと、つまらない男。女相手に張り合って喜ぶなんて器が小さい。」
フィルードは肩をすくめた。
「お前、見た目以外に女らしいところあるか? 暴力の度合いは男より男らしいぞ。」




