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傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第四巻 商人から領主へ ――選ばされた支配

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第149章 深淵への誘い ― 俺が仕掛けた罠

ウェイン侯爵は一切ためらわず、即座に行動を開始した。

フィルード、ライドン、エレナ――そして40名余の超凡者を率い、静かに隊列から進み出る。

斜面の風が頬を打つ。

俺は弓を引き絞りながら、わずかに呼吸を整えた。

「距離、150……今だ。」

次の瞬間、矢の雨が放たれる。

イナゴの群れのように飛び交う矢が、獣人の騎兵たちを貫き、地面に叩きつけた。

突如として襲った死の雨に、獣人たちは一瞬、何が起きたかも理解できなかった。

斜面の最前列で、獣人兵が塊のように崩れ落ちていく。目視で数十名――上出来だ。

ウェイン侯爵も魔弓を手に取り、次々と矢を放つ。だが命中率は甘い。

それでも、彼なりに戦場の熱に取り憑かれているらしい。

俺とエレナの矢は、正確に急所を穿っていく。

「……いい腕だな、エレナ。」

「あなたこそ。」

冷ややかに言いながらも、彼女の口元にはわずかな笑みが浮かんだ。

だが、相手は獣人の中でも精鋭部隊。

ボア・マン戦士千名、その馬も特殊な強化品種――重量に耐えながらも速度を失わぬ“鉄の獣”だ。

俺はすぐに地形を見渡し、脳内で戦況をシミュレーションした。

――まずいな。この斜面、長期戦には不向きだ。

「撤退だ。ここは長く持たない!」

獣人が反応し、山肌を駆け上がってくる。

土煙の中で、彼らの目が怒りに燃えていた。

ウェイン侯爵はなおも笑い、矢を放ち続けている。

「侯爵様、撤退します!」

俺はその腕を掴み、強く引き寄せた。

「このままでは包囲されます!」

ウェインはようやく現実に戻ったように頷き、「うむ……だが、もう一つ贈り物を」と呟いた。

魔力が一気に膨れ上がり、火球が生まれる。

――ドンッ。

爆炎が獣人の突撃線を飲み込み、ボア・マンたちが燃え上がる。

悲鳴と肉の焦げる匂いが夜風に混じった。

「お前たち忌々しい獣人を焼き殺せ、ハハハハ!」

……やはりこの男は、戦場に立つと狂気に近い。

冷静な時は聡明で人心を読む才もあるが、刃の交わる瞬間に理性を失う。

俺は静かに目を細めた。――戦争熱狂症、か。

だが、今は彼を止めるより、利用するほうが早い。

獣人側も超凡者を前に出し、反撃を開始した。

矢が唸りを上げ、岩を跳ねる音が絶え間なく響く。

俺は大黒の盾で二人を庇い、矢を受け止める。

「エレナ、次の矢を。――落ち着け、照準を外すな。」

彼女は冷たく鼻を鳴らしながらも、確実に矢を放ち続けた。

ウェイン侯爵も、貴族らしからぬ執念で後方に踏みとどまっている。

その姿に、俺は少しだけ見直した。

……この男、熱狂していなければ、悪くない。

しかし、戦線はじわじわ押され始めた。

敵の超凡者が近づき、一人の下級見習いが胸を貫かれる。

血が噴き上がり、戦場に赤い霧が漂った。

ウェインはすぐに撤退命令を出した。

前方には緩やかな斜面。

ロバたちが積んだ補給品を守りながら、一気に駆け抜ける。

30分足らずで、俺たちは山間の隘路に到達した。

予想通り、獣人軍は執念深く追ってくる。

「来たな……」

俺は短く息を吐いた。

隘路を抜けた直後、山上から岩が落ち始める。

轟音が谷に響き、獣人たちが人馬もろとも押し潰される。

俺たちは立ち止まり、再び矢を放つ。

二重の攻撃。

火と石、そして矢の雨。

地獄のような光景だった。

ボア・マンたちは次々と倒れ、獣人の頭領はようやく撤退命令を出す。

「逃がすか。」

俺は合図を出し、人間兵士たちが一斉に斜面を駆け下りた。

追撃戦。

逃げ遅れた獣人たちは容赦なく斬られ、血飛沫が岩肌を染めた。

ようやく敵が再編を終えたところで、俺は撤退の号令をかけた。

ウェイン侯爵は興奮のあまり肩を震わせていた。

「見事だ、フィルード! これほど痛快な戦は初めてだ。

我々の損害は二桁にも満たず、敵は数百を失った。これは大勝利だ!」

俺は軽く首を振った。

「侯爵様、これは“始まり”にすぎません。

敵はまだ四倍の兵を残しています。我々が勝つには、血を流させ続けることが必要です。」

ウェインの笑みが消え、真剣な表情に変わる。

俺は続けた。

「三百の兵を分け、先行して次の伏撃地点を探させます。

険しすぎる地形は避け、動かせる岩の多い尾根を選ぶべきです。

我々は一度で勝つ必要はない。何度も、少しずつ削ればいい。」

「なるほど……お前は本当に将の器だな。」

ウェインは深く頷いた。

やがて、三百名の先遣隊が山奥へと消えていく。

俺は彼らを見送りながら、静かに息を整えた。

――この地形、この敵、この速度。

俺の計画通りに動くなら、獣人たちは逃げられない。

その夜、谷に残ったのは死体と、俺たちが奪い取った戦馬だけだった。

ウェインと共に、俺はそれらを回収し、負傷兵を片付けた。

獣人たちはただ、黙って見ているしかなかった。

突撃しても無駄、退いても狙われる。

俺は岩陰で空を見上げ、微かに笑った。

「――次は、もっと深く刺してやる。」

PS:ここまで読んでくださった皆さん、本当にありがとうございます!

第149章でようやくこの山岳戦編も大きな区切りを迎えました。

フィルードたちの「逃走と逆襲の駆け引き」は、書いていて自分でも手に汗握る展開でした……!

もし少しでも「面白い」「続きが気になる」と思っていただけたら、

ブックマーク、評価、感想で応援してもらえると本当に嬉しいです!


あなたの一つの反応が、この作品を次の章へと動かす力になります。

これからもフィルードたちの戦略と成長を、どうぞお楽しみに!

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