第143章 隠された真意と思惑の火種
「さて、話を戻そう。」
ウェイン侯爵は気を整え、視線を机上の木箱へ向けた。
「今回の戦利品には、二十株以上の高位魔薬が含まれている。
そのうち半数は“魔力成長系”だ。
君は三株持っていくといい。
ただし、魔力が一定段階へ達するまで決して使ってはならない。
それと……君の領地には“資質査定用の水晶玉”が無いだろう?
ディオの府庫から六つ見つかった。
一つ持っていきなさい。」
フィルードの目が一瞬で輝いた。
(本気か……? これほどの上物を、ただの忠誠ポーズだけで?)
前世で“処世術の達人”がなぜ出世するのか理解できなかったが、
今はよく分かる。
王侯貴族が欲しているのは、理屈ではなく“姿勢”。
味方か敵か、その一点だ。
「侯爵様、この寛大なる褒賞、心から感謝いたします!
今後も北境の安寧のため、命を懸けてお支えします。」
ウェイン侯爵は手を軽く振った。
「これは君の“忠誠”への褒美だ。
私は望む。
君がどれほど高みに登ろうとも――
王国を決して裏切らぬことを。」
激情が込み上げたのか、
侯爵は近くのテーブルを叩き割り、
荒々しい魔力が周囲を震わせた。
フィルードは身をすくめつつ、
内心では侯爵の“本心”を冷静に計測していた。
(やはり、ディオの裏切りが相当堪えている……
今の侯爵は、感情と理性の境界が揺らいでいる)
長い沈黙の後、
ウェイン侯爵は深く椅子にもたれ、語り始めた。
「昨日、ディオ一族の者を厳しく尋問した。
そして、彼の息子たちの口から、今回の事件の全貌を知った。
……ディオは確かに人族を裏切った。
ただ、獣人が提示した条件は我々が思っていたほど大きくはない。
意外だったのは、獣人が“契約巻物”まで使っていたということだ。」
上位魔獣の毛皮が必要で、成功率は極めて低い。
今ではほぼ人工育成頼りの希少素材。
つまり、獣人側は大きなコストを払っていた。
「交換条件は単純だ。
ディオは王国を離脱し、獣人がモニーク城を奪うのを援助する。
獣人は代わりにディオの領地維持を保証し、
六十年間モニーク城周辺には手を出さない……と。」
フィルードは静かに頷いた。
「侯爵様の仰る通りです。
この契約は、指導者個人を縛る魔法。
獣人の指導者が死ねば拘束力は消えます。
ディオもそれを理解していたはず。
おそらく条件には“高位魔薬”の支給など、
実利的なものが含まれていたのでしょう。」
ウェインは重々しく頷いた。
「その通りだ。
数株の上位魔薬は、獣人がディオに渡したものだ。
だが、それでも同族を裏切る理由にはならん!」
拳を握りしめ、
「この件は周辺王国にも公表する。
ディオの名を“裏切りの象徴”として永遠に残すためとな!
北境の貴族もこれを教訓にすべきだ。」
フィルードは慎ましい顔をつくって頷いた。
「心に刻みます、侯爵様。
私は大きな野心など持ちません。
貴族として名を立て、数名の佳人を囲めれば、
それだけで十分です。」
女性の話題に変わった瞬間、
ウェイン侯爵は妙に意味深な笑みを浮かべた。
「……ところで、君が捕らえた“女性超凡者”。
あの娘は大きな背景を持っている。
ディオが獣人に魔薬を要求したのも、あの娘のためだ。
幼い頃に養女として迎え入れられたが、
実の両親はディオに密かに処刑されたそうだ。」
(なるほど……才能が異常に高いとは思ったが、そこまでの血筋か)
「このまま成長すれば、上位超凡者は確実。
老齢には高位魔法使いの可能性すらある。
……で、聞いたのだが。
君が彼女に強引な尋問をした、という噂は本当か?」
フィルードの頭が高速回転し始めた。
(まずい。ここは“扱いきれない上位戦力を手放したがらない男”の
自然な言い訳で押すしかない)
フィルードは深く息を吸い込み、
わざと顔を赤らめ、言葉を詰まらせた。
「も、申し訳ございません……!
彼女は捕縛直後も強気で、
こちらの質問を全て拒否しておりました。
私も長年戦地におり、女性との接触はほとんどなく……
強圧的に追及しすぎ、彼女を怒らせてしまいました。
大罪にございます。
どうか処罰を……!」
もちろん、性的な意味ではない。
フィルードは“尋問のやり方を誤った”という方向へ巧妙に誘導した。
(この女を手放す気はない。俺に必要な切り札になる)
ウェイン侯爵は呆れたように目を見開いた。
「……本当か?カールトンたちの報告では、
君は彼女を尋問のためにテントへ連れていき、
数分後に戻ってきたと言っていたが。」
フィルードは必死に作った“恥ずかしがる顔”で頭を下げた。
「し、しかし……侯爵様。
これは……その、経験不足ゆえでして……
短時間で収拾がつかなくなり……。
どうか、この件は外部に漏らさぬよう……
名誉に関わりますので……。」
ウェイン侯爵は怒りと呆れの混じった表情で、
最後は深いため息をついた。
「……もういい。
何千もの兵をまとめる君の軍に、
上位超凡者が一人もいないのは確かに不自然だ。
あの娘は、
“君の指揮系統下”に置くのが最も安全でもある。
彼女を君に任せよう。
ただし、彼女を脅迫してはならない。
従うかどうかは彼女自身の意思だ。」
そして机から羊皮紙を取り出し、書き始める。
「任命書を作成する。
彼女の戦犯としての立場を赦免し、
“北境東部地区治安団・副団長”として任命する。
君の副官だ。
……彼女を留めたいなら、そこからが勝負だ。」
フィルードは深々と頭を下げた。
(よし……これで俺の手の中だ)
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今日は試合を観ていたら更新が少し遅くなってしまいました、ごめんね……!
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