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傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第四巻 商人から領主へ ――選ばされた支配

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第140章 狐が開けた城門

「――君たちは、まず城壁のそばに駐屯していろ。

夜になれば、私が城門を開けて迎え入れる。」

バウアーの声は慎重さを帯びていた。

「この時間帯に城門を開けば、外の敵に勢いで奪われる危険がある。

まだ入っていない者は、先に入らせるな。」

裏切り者のリーダー――イェフは深く頷いた。

その敗残兵の群れの片隅。

誰にも気づかれず身を縮める中年の男がひとり。

他の者とは質の違う革鎧をまとい、

気配は薄く、まるで闇に溶けているかのよう。

――それは、紛れもなくウェイン侯爵本人であった。

この「自ら敵陣に潜む」という決断に、フィルードでさえ驚愕した。

(本来、ただの“賭けの一手”にすぎん作戦なのである。

成功率は五分にも満たない。だが、この男は――自ら嵌まりに行くか)

フィルードと二人の子爵は必死に説得したが、

ウェインは一歩も引かなかった。

“成功率を無限に近づけたい”。

その理由だけで、彼は命を賭けたのだ。

(……この男。俺よりよほど腹が据わっているな)

もし城門さえ開けば、降伏兵が反乱しようと関係ない。

ウェイン侯爵なら、たった一撃の魔法で城門前の敵軍を殲滅できる。

そうなれば、城門は閉じ損ね、反乱兵と味方軍団が一気に雪崩れ込む。

その夜、城壁の上は灯火で昼のように明るく照らされていた。

深夜に入ると――

バタン、と鈍い音を伴って城門が開いた。

降伏兵たちが次々と門内へ流れ込みはじめる。

暗がりからその光景を見ていたウェイン侯爵は、

静かに息を吐いた。

(……決まったな)

ディオの没落を悟り、状況を読んだ者は多い。

門を開けたこと自体が内情を物語っていた。

一方、フィルードたちは城壁の光が届かない場所に潜伏。

城門から一、二里ほど離れた暗闇で、ただ時を待つ。

――そして、城門が開いた瞬間。

(勝った)

フィルードは確信し、即座に軍へ合図を送った。

大軍の突撃音が夜空を揺るがし、

その振動はまるで大地が走る獣の群れそのもの。

城上で見張っていたバウアーも気づき、

悲鳴にも似た叫びを上げた。

「早く!城門を閉じろ!閉じるんだ!

まだ入っていない者は放置しろ、従わぬ者は斬れ!」

だが――すでに手遅れであった。

通路は敗残兵でぎっしりと埋まり、誰ひとり動けない。

しかも奇妙なことに、

入城した彼らは散開せず、城門近くに固まっていた。

そこでようやく、バウアーは“異変”に気づいた。

「イェフ!兵を散らせ!道を空けろ!

敵軍が突撃してきているのだ!」

しかし応答はない。

イェフは人混みの中で“姿を消す術”を使い、沈黙を貫いたのだ。

返事でもすれば弓兵に狙われる。

バウアーはその沈黙を裏切りだと確信した。

「イェフ……貴様、伯国を裏切ったな!

家族がまだ城内にいるのを忘れたのか?

今すぐ命令を出せ!さもなくば全員殺すぞ!」

だが、沈黙は続く。

バウアーはついに激昂した。

「弓兵、二隊に分かれよ!

一隊は城外の敵軍を射撃、

もう一隊は――この敗残兵どもを射殺しろ!」

命令と同時に矢が降り注ぎ、

敗残兵は蜂の巣を突いたように四散した。

規律を失った兵ほど危険なものはない。

事前の指示に従い、

“城壁へ上り援護する組”は即座に梯子へ走り、

偽装した千名の味方兵がそれに混じって突撃した。

残り二千の降伏兵は街へ雪崩れ込み――

彼らの目的は明らかだった。

金、食糧、そして……逃亡。

すべてが一瞬で崩壊し、

バウアーが反応する暇すらない。

城壁に上った兵士たちは、

守備兵と乱戦を開始。

フィルードが大軍を率いて城壁へ突撃し、

その後ろから――

ウェイン侯爵が静かに姿を現した。

腰に手を組み、数十メートルの距離で立ち止まり、

ゆっくりと魔力を解放する。

空気が震え、熱が走る。

瞬間、巨大な火球が複数凝縮され――

「行け」

放たれた。

空を赤く裂いた範囲魔法に、

誰もが戦慄して目を見開いた。

「ひ、範囲攻撃魔法――っ!?」

バウアーは悲鳴を上げ、

転がり逃げながら必死に魔力を展開した。

だが――

階位の差は絶望的だった。

ドスン――!

炎がバウアーを包み、

彼の悲鳴が城壁に響いた。

数十秒後、そこには黒焦げの死体。

側近十数名も同じく焼死し、

残りの守備兵たちは“主将の死”を見て恐慌した。

(親玉が死んだ……!?)

(終わりだ……!)

恐怖は伝染し、城上の士気は一気に瓦解した。

フィルードが城壁に駆け上がると、

農奴で構成された守備兵たちは恐怖に悲鳴をあげ――

「武器を捨てろ!投降すれば殺さない!」

「武器を捨てろ!投降すれば殺さない!」

数千人の声が街全体に響き渡る。

農奴兵は完全に心を折られ、

次々と武器を落として座り込み、震えた。

最後に残っていたのは、

バウアー直下の精鋭千名ほど。

乱戦を続けていたが、

新たな兵が次々と投入され、

超凡者も加わり――

二百が倒れた時点で、戦意は完全に崩壊した。

精鋭兵たちは武器を投げ捨て、投降を選んだ。

こうして、城壁は完全制圧された。

三千人が城壁を守り、

ウェイン侯爵は残り二千を率いて内城へ突入。

内城にはもはや抵抗力はなかった。

弓兵が城下を制圧し、

刀盾兵が梯子をかけて突入。

百名の犠牲を払った後、

城壁は全面的に落ちた。

兵士たちは即座に食糧庫などの要所を確保し、

住民全員を広場へ集めた。

溢れ返る食糧の山――

ディオが長期戦を想定していた証だった。

その物資の点検が終わったのは、翌朝だった。

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