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傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第三巻 商人から支配者へ① ――守るための取引と暴力

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第138章 追撃の号砲

フィルードが魔弓を試し撃ちした瞬間、口元が自然と吊り上がった。

――これは、想像以上の代物だ。

弓全体が高純度の魔素材で構成されており、以前は強化魔力矢が五射、通常矢が九射が限界だったのに、

今は強化魔力矢が六射、通常矢なら十一射も撃てるようになった。

威力も射程も明確に底上げされている。

軍団にいた上位超凡者二名の推定評価は――

“少なくとも金貨二千枚以上の価値”。

しかも、王都でも滅多に入手できない逸品。

(……二千金貨の弓を、あの女は平然と背負っていたのか。いい拾い物をしたな。)

フィルードの頬が緩む。

さらにエレナの身体から発見した魔石六枚。

思わず抱きしめてキスしたくなるほどの戦利品だ。

騎兵隊は一路、敵軍の残党を追って疾駆した。

わずか三十分足らずで、ディオ軍の背中が土煙の向こうに見え始める。

ディオは振り返り、黒雲のように押し寄せる騎兵の群れを見た瞬間、顔色を失った。

――終わりだ、と悟った表情だった。

先頭に立つウェイン侯爵は、全身を魔法の気配漂う鉄甲冑で固めている。

フィルードはその威容を見るたび、羨望と野心が胸を刺した。

(あれほどの装備……一体、どれだけの資源を注ぎ込めば手に入る?)

侯爵の後方には王家の象徴たる獅子旗が翻っている。

その姿はまさに王国最強軍の威光そのものだった。

ウェイン侯爵は魔力を声に込め、戦場全体に響く咆哮を放った。

「ディオ!

お前は高位にあり、王国から厚遇されてきたはずだ。それを裏切るとは何事か!」

ディオは怨嗟のこもった笑い声を上げた。

「厚遇?笑わせるな。

伯爵である私ですら、毎年王国に三割の税を納めている!

配下の小貴族に至っては四割だ!

我々の地域が北方防衛の最前線で、何度も獣人の侵攻で疲弊していることを、

お前たち中央の連中がどれほど理解している!」

そして毒を吐くように続けた。

「ウェイン!

お前は中級魔法使いだからよかったが、もし魔力が弱ければ、

今頃、お前の骨は北方の吹雪に晒されていたことだろう!」

ウェインは静かに目を閉じ、苦渋の息を吐いた。

「……王国にも事情がある。

北方は穀倉地帯だ。南部からの輸送だけでは賄えない。

だが、だからといって“獣人と結託する理由”にはならない。

お前たちは種族そのものを裏切ったのだ。」

ディオは激しく歯ぎしりし叫んだ。

「結託?証拠を出せ!

歴史は勝者が好きに書き換える。

私が裏切ったとお前たちが騒げば、それで済む話だろう!」

ウェイン侯爵は視線を下げ、懐から一枚の巻物を取り出した。

「……陛下の命令を伝える。

本日をもって、ブラント家の爵位はすべて剥奪。

成人男性は処刑。

女性はすべて奴隷籍へ落とす。」

巻物を広げる音は、断罪そのものだった。

ウェインは表情を沈め、最後の問いを投げた。

「ディオ。最後に言いたいことはあるか。」

ディオは肩を震わせ、乾いた笑い声を漏らした。

「……ふん、勝者の裁きか。好きにするがいい。」

次の瞬間、彼は剣を高く掲げ、叫び声を上げた。

「全軍突撃!

敵の騎兵一人につき金貨十枚!

奴隷も農奴も……全員解放してやる!」

しかしすでに士気は地に落ちている。

兵たちは動揺し、半数は立ち止まったままだ。

わずか数百名が前へ進もうとしたが、すぐに後続の混乱を見て足が止まった。

ウェイン侯爵は魔力を使って再び叫んだ。

「兵士たちよ!

武器を捨てれば命は助ける!

だが抵抗すれば、農奴は奴隷に、自由民は農奴に落とす!

反攻軍は一万を超える。

降伏以外の道はない!」

敵陣が一斉にざわめいた。

動揺した兵士たちは次々と足を止める。

ディオは怒号を張り上げた。

「役立たずどもが!!突撃しろ!!

立ち止まる者は一族すべて処刑だ!!」

しかし、もう誰も彼を見てはいなかった。

ディオの傍らにいた上位超凡者が肩を掴み、低く叫んだ。

「ディオ!

もう無理だ。お前だけでも逃げろ!

我々が殿を務める!」

そう言って、彼は鞭でディオの馬を叩きつけた。

馬は悲鳴を上げて駆け出し、ディオは振り返る間もなく遠ざかっていった。

助太刀に来ていた二名の上位超凡者は互いに視線を交わし、

そのまま背を向けて走り去った。

残されたのはディオ家の三名の上位超凡者のみ。

彼らは覚悟を決め、騎兵を率いて続いた。

ウェイン侯爵は目を閉じ、小さく息を吐いた。

そして振り返り、二人の子爵へ命じた。

「歩兵の武装解除を監視しろ。後続が来たら拘束せよ。」

侯爵は残りの騎兵を率い、全速力で追撃を開始した。

フィルードもその背後に加わる。

両軍の距離は一気に縮まり、

フィルードは大黒の背で短弓を構えた。

――ヒュッ。

矢は一直線に飛び、敵の騎兵を馬上から引きずり落とした。

二射、三射。

大黒の揺れを完全に殺し、狙いを外さない。

この光景に、ウェインは目を見開いた。

(……乗馬しながら“直線射撃”だと?

この世界で、それをやれる人間が何人いる……?)

ウェイン侯爵の驚愕の視線を受けながら、

フィルードは次の矢をつがえ、冷静に言い放つ。

「侯爵様――追撃はここからが本番です。」

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