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傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第三巻 商人から支配者へ① ――守るための取引と暴力

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第137章 ウェイン来援

フィルードはマイクの報告を聞いた瞬間、胸の奥がざわつくほどの興奮を覚えた。

――あの女、ついに俺の手の中に墜ちたか。

彼は急いで捕虜のもとへ向かった。女性はすでに上位超凡者の老人によって拘束されており、静かに座り込んでいた。泣き叫ぶでも暴れるでもなく、ただ冷えた瞳で周囲を観察している。その沈着さに、フィルードは逆に興味を覚えた。

彼は彼女の前に立ち、冷ややかな視線を向ける。

「……あの日、俺の兵の首を飛ばしてくれた弓使いだな。どうして今日は、そんなにおとなしいんだ?」

女性――エレナは、ゆっくりと美しい眉を吊り上げ、斜めの視線をフィルードへ送りつけた。

「……来たのですね、“盗賊男爵”。噂以上です。あなたほど卑劣な男を見たことがないわ。

夜襲に奇襲、闇討ちばかり。あなたのやり方は、まるで腐ったハエ。

殺すなら殺しなさい。辱めを受けるくらいなら舌を噛んで死ぬ。」

周囲の部下たちは一斉に怒号を上げた。

「この女っ……!」「ボスを侮辱しやがって!」

フィルードは手をひらりと振って皆を黙らせる。

そしてゆっくりとしゃがみ込み、エレナの目の高さまで視線を落とした。

「ほう……言うじゃないか。だが――」

フィルードは淡々と、彼女の腰のポーチに手を伸ばした。

突然の行動にエレナの息が詰まる。だが、抵抗はさせない。

フィルードが取り出したのは、銅製の小さな魔導鏡――魔力流の乱れで表情を確認するためのものだ。

「鏡か。自分の顔は随分と大切にしてるらしいな。」

エレナの肩がぴくりと震えた。

フィルードは鏡をひらひらと揺らし、無表情のまま言った。

「安心しろ。俺はお前を殺すつもりはない。

だが――それから、お前の体内の魔力を廃して、俺の領地の豚頭族の奴隷に妾として褒美に与えてやる。その時になって、お前の口がまだこんなに固いかどうか見てやろう。」

エレナの瞳から、みるみる血の気が引いた。

女性の瞳に大粒の涙が浮かび、次の瞬間――

「わ、私はディオ伯爵の養女なの! 引き渡してくれれば、伯爵が望むものは何でも差し上げるわ!

さっきの言葉も謝る……!あなたを侮辱したのは、私が悪かった……!」

あまりの豹変ぶりに、フィルードは思わず目を細めた。

――なるほど。肝は据わっていない。見た目と違って、意外と折れるのは早い。

エレナの涙がぽたぽたとこぼれ落ちるのを見ながら、フィルードは低く一喝した。

「泣くな。泣き続けるなら、今すぐ魔力を封じる。」

その声に、エレナはびくりと震えて泣き止んだ。

フィルードは彼女を無言で引きずり、臨時のテントへ引き入れた。

外では老人がにやりと薄く笑う。

「若いってのは、元気でよろしいこった。」

子爵二人は何とも言えない表情をして顔を見合わせ、部下たちはにやにやしていた。

テント内。

フィルードはエレナを床へ放り投げた。

彼女は「きゃっ」と短い悲鳴を上げて転がる。

「……な、何をするつもり……? 暴力はやめて……!

交換条件なら提示するわ……!伯爵に何でも言ってあげる……!」

フィルードは冷たく笑った。

「俺が何をするか? いいや、単純だ。

お前は情報を持っている。だから聞く。

正直に話せば、お前に手を出すことはしない。」

フィルードは布を裂き、エレナの口元に当てて軽く圧を加えた。

「まず叫ぶな。話せば助ける。」

エレナは必死に頷き、フィルードが布を外すと、息を荒くしながら答えた。

「……な、名前は……エレナ……」

「年齢。」

「19……」

フィルードは無表情のまま核心へ踏み込んだ。

「ディオは豚頭族とどんな取引をしている?

人族を裏切る理由は?

お前たちの今回の行動は、獣人とどう連携していた?」

エレナは震える瞳で首を振る。

「し、知らないの……!本当に……!

ただ男爵領を急襲するとだけ……それ以外は知らされていなかったの……!」

フィルードは彼女の魔力循環を軽く触診し、嘘の反応がないことを確認する。

震えはあるが、魔力流は乱れていない。――本当に知らないらしい。

彼は短く息を吐き、

「……使えない。」

と、呟き、無言でテントから出ていった。

外に残されたエレナは、虚ろな瞳で動けずにいた。

その後の一日は、フィルードとディオの“神経戦”だった。

ディオが動けばフィルードも動き、止まれば止まる。

徹底した牽制で敵軍は完全に足を止められた。

翌朝。

ウェイン侯爵の伝令が駆け込んだ。

「フィルード団長! ウェイン侯爵様より伝言です。

王国軍はすでに三十里以内! 昨日の戦果もすべて確認済み。

戦後、最低でももう一つ男爵領を賜るべきと、陛下へ上奏するとのことです!」

二人の子爵も歓喜に表情を明るくした。

フィルードは冷静に状況を整理し、伝令へ言った。

「ディオの鉄甲兵はほぼ全滅。

残るは騎兵と軽装歩兵が中心。

ただし、向こうには上位超凡者が五名いる。

侯爵には“超凡者数名と騎兵の援軍”を希望すると伝えろ。」

伝令はすぐに馬を走らせて去った。

数時間後。

千を超える騎兵が土煙を上げながら到来した。

先頭にはウェイン侯爵。

「礼はいい。ディオはどこだ?」

フィルードは遠方を指差す。

「十数里先です。今なら追いつきます。」

「よし――超凡者と騎兵をまとめろ!

今日、奴を逃がしはしない!」

ウェイン侯爵の号令一下、千騎の軍勢は一斉に駆け出した。

フィルードは背の大黒に跨り、三張の弓を背に追撃戦へ加わった。

――その先には、ディオの運命を決する最終局面が待っていた。

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