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傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第三巻 商人から支配者へ① ――守るための取引と暴力

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第135章 ベッド・ヌーの打撃

言い終わるやいなや、あの老人は恐れおののいたように馬から飛び降りた。

すぐに背中の特製の盾を引き抜き、全身に魔力を爆発させて防御姿勢を取る。

次の瞬間、水球が――まるで意志を持つかのように――その盾に直撃。

「ドォン!」という鈍い衝撃音が響き、水の塊は砕け散った。

老人は衝撃で何歩も後退しながらも、すぐに体勢を整える。

……ただの迎撃でこの威力か。

フィルードは遠目からその光景を見て、思わず息を呑んだ。

本に記されていた「魔力による攻撃」の記述は、ほんの一文にも満たなかった。

だが実際の威力は、想定の数倍――いや、桁が違う。

その間に老人は片手に盾、もう片方に巨大な斧を握りしめ、魔法使いへ肉薄していた。

老魔法使いは即座に馬を操って距離を取り、逃走する。

他の二人の上位超凡者も馬上で交戦していたが、数合交えただけで、馬が魔力の圧に耐えきれず倒れ込んだ。

あの筋力と魔力が同時に解放される瞬間、地を震わせるほどの力が発揮されている――。

少し体力を取り戻した俺は、再び弓を構え、矢をつがえた。

狙うのは敵の騎兵隊。

先ほどから俺の矢は正確に敵を削っており、その数はすでに数十に及ぶ。

さらに、上位超凡者たちの戦いが敵陣を混乱させ、結果として三百騎が瓦解した。

右側の騎兵は援軍として向かっていたが、仲間の壊滅を目にして撤退を余儀なくされる。

数名の上位超凡者も戦場を離脱した。

だが安堵は許されない。

進軍を再開して間もなく、後方に控えていた敵の騎兵が再び突撃してきたのだ。

その中に――見覚えのある影。

青い服の女。あの弓使いが、この隊に紛れている。

しかも今回は上位超凡者が五人。

五百騎が一糸乱れぬ陣形でこちらに迫る。

地を蹴るたび、重騎兵の蹄音が胸骨を叩くように響いた。

「弓兵、構え!」

俺の号令と同時に、無数の矢が夜空を裂く。

敵陣に降り注ぐ矢雨の中、時折、悲鳴と共に騎兵が地に落ちた。

俺自身は魔石で魔力を満タンにし、体力もほぼ回復。

陣内を絶えず移動し、位置を変えながら狙撃を続ける。

――あの女に位置を特定されるのを避けるためだ。

だが、どうやらそれも長くは持たなかった。

「卑怯な闇撃ちしかできぬ下郎め……今日は逃がさぬ」

冷たい声と共に、鋭い矢が飛来した。

「……っ!」

反射的に盾を構える。

が、衝撃は来なかった。

恐る恐る顔を出すと、そこには巨大な斧を担いだあの老人が立っていた。

歯が一本しか残っていない口を、満足そうに歪めて笑っている。

「……助かった」

思わず笑いが漏れそうになったが、慌てて真顔に戻り、頭を下げる。

「老人様、ありがとうございます。あの女の一撃を防いでくださって」

「ふむ……お前の弓の腕は悪くないな。十数人は仕留めておる」

そう言って、老人は軽く鼻を鳴らした。

「だが、まだ上級見習い止まりだ。あの娘は一つ上の境界にいる。今の矢をまともに受けたら、骨ごと砕けておったぞ」

そう言うと、骨の箱を開け、小さな果実を取り出した。

「これは体力を即座に回復させる薬果だ。お前の階位なら一口で効果がある。原価は……500金貨だ」

……一瞬で石化するとは、こういうことを言うのかもしれない。

俺の中で老人の印象は「隠遁の賢者」から「ぼったくり薬師」へと変わった。

それでも、上位超凡者の機嫌を損ねるわけにはいかない。

「……お心遣い、痛み入ります」

その時――また風が鳴った。

あの女だ。

俺は反射的に盾を上げたが、老人がため息をついて手斧を振るい、矢を叩き落とす。

「これ以上は庇えん。自分の身は自分で守れ」

言い残すと、老人は隊の側面へと駆け去った。

そこへ、二人の子爵が駆け寄ってくる。

「フィルード団長、敵の上位超凡者は我々の倍です。これでは持ちません!」

「護衛付きの者たちが多く、我々の戦力では突破が……!」

……確かに、正面からでは分が悪い。

だが、俺にも最後の切り札がある。

声を潜めて言った。

「お二人には秘密にしていましたが、今回――禁制の兵器を持ち込んでいます」

二人の顔に一瞬、理解の色が浮かんだ。

そう、俺が用意した十数台の《ベッド・ヌー(弩床)》を。

「使ってください」

カールトンが短く答えた。「非常時には非常手段を」

……そうだな。王国の禁令など、この状況では贅沢だ。

俺はマイクを取り、叫ぶ。

「ベッド・ヌー、弦を張れ!」

弩床部隊が一斉に動く。

俺もその一台に駆け寄り、青い服の女を照準に入れた。

「――放て!」

魔力を注ぎ込んだ瞬間、十数本の弩矢が雷鳴のような風音を立てて飛び出す。

空気が裂け、世界が一瞬、静止した。

上位超凡者たちの瞳孔が狭まる。

避けること自体は容易だろう。だが、彼らの隣にいる普通の騎兵たちは――逃げ切れない。

俺は小さく息を吐き、つぶやいた。

「これが……人間に対して使うべきでない“兵器”というやつか」

【PS】

ここまで読んでくださって、ありがとうございます。

今回の135章は、ベッド・ヌー(弩床)使用の回――いわば「戦略×禁忌兵器」の見せ場となりました。

こういう兵器描写は書いていても緊張しますね。

もし気に入っていただけたら、【ブックマーク】【評価】【感想】で応援してもらえると嬉しいです。

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