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傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第三巻 商人から支配者へ① ――守るための取引と暴力

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第122章 大黒、覚醒の咆哮

フィルードは少し間を置いてから、三人を見渡して静かに言葉を続けた。

「それに、君とライドン、ローセイの三人はチーム全体の中核を成す力だ。その時になって、私が彼らに君たちを解放してほしいと言っても、非常に難しいだろう。下手をすれば、君たちは秘密裏に処刑される可能性もある。」

その声には、冷静さと共に確固たる決意が宿っていた。

――だからこそ、今のうちに心を決めておけ。

命を軽んじる忠義など、ただの愚か者の自己満足だ。

「君たちは私とずっと一緒にやってきた。私の心の中では、もう手足も同然だ。たとえわずかな可能性でも、私は君たちを安全に連れ帰るつもりだ。」

「もし本当にどうしようもなくなって捕虜になったとしても、必ず生き延びる方法を考えろ。私の裏切りになるようなことをしても、私は君たちを責めない。」

「最終的には、一時的に帰順を選んでもいい。命さえあれば、いくらでも挽回できる。」

そこで一拍置き、フィルードは低く言い放った。

「覚えておいてほしい。――命を第一に考えろ。ただし、あまりに容易く膝を折るな。領地の秘密の一部を渡すのは構わない。だが、全てを明け渡してはならない。」

彼の視線は鋭く光り、三人は息を呑んだ。

「もし最後の最後まで彼らが君たちを解放しなかったら――その時こそ、私フィルード、そしてブラックスウォーター傭兵団全体が彼らと不倶戴天の敵となるだろう!」

言い終えると、彼は軽く息を吐いた。

「さて、話はここまでだ。事態はまだ取り返しのつかないところまで行っていない。私たちは引き続き山の奥深くへ進む。領地の方向には絶対に戻るな。あそこは伏兵の巣だ。」

仲間たちは感極まった面持ちで頷いた。

――貴族が平民のために命を懸ける。

その事実だけで、彼らの胸に熱いものが込み上げた。

この恩義は、一生かけても返しきれないだろう。

やがて一行は、休む間もなく山を進んだ。

逃亡に「正しい道」などない。

だからこそ、道筋を失うことが最も安全な逃走路になる。

自分でさえ行き先を知らなければ、追っ手がどうやって包囲できるというのか。

――だが、その瞬間、違和感を覚えた。

大黒の息が荒い。速度を落としても変わらない。

次の瞬間、彼の両目が赤く輝き、体を震わせて地面に倒れ込んだ。

「大黒!?」

フィルードは思わず声を上げ、背中から振り落とされた。

大黒は地面を転げ回り、体から漏れ出す魔力が激しく明滅している。

――これは……突破の兆候か。

野獣が魔獣へと進化する、あの瞬間。

「君たちは先に行け! 大黒が昇級する!」

フィルードはマイクたちに叫んだ。

「見習い段階への突破なら時間はかからない。すぐに追いつく!」

部下たちは顔を引き締め、無言で頷いて駆け出した。

残されたフィルードは、大黒を守るように周囲を警戒した。

「……焦るな、落ち着け。突破は命懸けだが、これは好機でもある。」

己に言い聞かせながら、フィルードは矢を構え、草むらの影を一つひとつ射抜く。

十分ほど経った頃、大黒のもがきが止まった。

そして、重い息を吐きながらゆっくりと立ち上がる。

「よく耐えたな、大黒。」

フィルードは彼の背のバッグから星魔草を取り出し、どっさり与えた。

魔草を食べた大黒は、まるで笑うように鼻を鳴らし、さらに欲しそうに見つめてくる。

「……まるで犬だな。」

思わず苦笑しつつ、もう一束を投げ渡すと、三口で食べ終えた大黒はようやく満足げな表情を見せた。

再びその背に跨がり、フィルードは木陰に身を潜めた。

昇級後の大黒を改めて観察する。

筋肉の密度が上がり、全身に魔力の循環が感じ取れる。

まだ成体ではないが、時間が経てば――あの野生の黒牛をも超えるだろう。

四十分後、敵影が現れた。

フィルードは冷静に弓を構え、矢を三本放つ。

音もなく三人が崩れ落ちた。

すぐに大黒を走らせ、姿を消す。

だが、追撃は止まらない。

――さすがだな。あの女が後ろにいる限り、簡単には退かないか。

再び立ち止まり、弓を引く。

三人を射倒し、また走る。

それを十数分繰り返し、ついに敵の足を鈍らせた。

その時、大黒が低く唸った。

「……何かいるのか?」

魔獣の感知能力は人間よりも遥かに鋭い。

つまり――強敵が近い。

「待ち伏せ中止。突っ切る。」

フィルードは即座に判断し、弓を仕舞って盾を構えた。

大黒が地を蹴る。

昇級後の脚力は凄まじく、風圧が頬を切るほどだった。

すると、草むらから青い服の女が現れた。

「この小泥棒め、警戒心の塊ね……! あれ、あの黒牛――魔獣に昇級した!?」

フィルードは女の声を背に受けながら、山の中腹まで走り抜けた。

ここは見晴らしがよく、岩が多い。

――よし、利用できる。

彼は山稜に登り、地形を確認した。

一つの岩がやや緩んでいる。

すぐに山腹に戻り、往復して偽の痕跡を残した。

追っ手を誘導する罠だ。

そして再び山頂へ戻り、岩の陰で息を潜めた。

十分も経たないうちに、追っ手が姿を現した。

青い服の女が隊列の中心にいる。

やはり、先ほどの射手だ。

――読めている。ここで仕留める。

女が岩の下に達した瞬間、鋭く視線を上げた。

フィルードはわずかに息を呑み、同時に大黒と共に岩を押し出す。

轟音が山を裂いた。

岩は斜面を転がり、女めがけて落下する。

驚愕の表情が彼女の顔を掠めた。

「危ない!」

女は地面を転がり避けるが、隣にいた隊長は間に合わなかった。

巨岩に叩き潰され、崖下へ転げ落ちる。

五、六人の親衛兵も同時に巻き込まれ、全滅。

――一撃で六人。上出来だ。

フィルードは冷ややかに状況を見下ろした。

その瞬間、女が怒りに満ちた顔で弓を引く。

「チッ!」

矢の音が風を裂く。

即座に盾を構え、「ドスン」という鈍音と共に矢が突き刺さった。

だが、距離が遠い。致命傷にはならない。

「無駄だ。」

そう呟き、大黒の背に飛び乗る。

黒い巨体が矢のように飛び出し、瞬く間に視界から消えた。

女は地面を踏み鳴らし、怒号を上げる。

「五人を山の下に回せ! 生存者を確認! 残りは追え!

 この忌々しい傭兵の頭……! 三人の隊長を殺した。必ず捕らえる!」

だが、山の奥ではすでに、黒き影と共に風を切る音だけが響いていた。


PS:ここまで読んでくださってありがとうございます!

フィルードと大黒の逃走戦、少しでも「面白い」と感じていただけたら、

ぜひ【☆ブックマーク】と【感想】を残してもらえると嬉しいです。

あなたの一言が、次の物語を紡ぐ力になります。

これからもよろしくお願いします!

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