第12章 獣人討伐戦へ、死地への招集
「……わかった。参加する気がないなら、それでいいさ」
フィルードは静かにうなずいた。その瞳には迷いはなく、すぐに続ける。
「ただ、余っている猟弓と半身の革鎧、それに短剣が一本ある。本当は仲間を募集しようと思っていたんだ。もし君がその気じゃないなら、他の人間を探すけど――どうする?」
「……っ!」
ケビンの瞳が一瞬で輝きを帯びた。まるで暗闇に差し込む光を見つけたように。
「それ、本当ですか!? もし本当なら……あなたの仲間になります! 僕が戦に参加できなかったのは、武器が一つも無かったからなんです! 弓は使えませんけど、短剣さえあれば十分です!」
彼の声は震えていたが、それは恐怖ではなく、希望と興奮から来るものだった。
フィルードは口の端を上げ、満足げに笑う。
「やっぱりな。君はそういう人間だと見抜いていた。信じてくれ、君はきっとこの仕事に向いている。……ただ、一つ明確にしておくことがある」
彼の声が低くなり、ケビンも思わず姿勢を正す。
「俺の目的は“真の傭兵団”を作ることだ。今は俺一人だが、君が加われば二人目になる。隠し事はしない。俺は金をほとんど持っていない。だから、戦がない時は毎日6銅フィニーの食事補助しか出せない。戦の間は追加で10銅フィニーだ。……ただし、雇い主からの報酬と戦利品はすべて俺のものになる。その金は傭兵団の建設に使う。近い未来、俺たちは本物の傭兵団になる。――その最初の仲間になる気はあるか?」
「……!」
ケビンは言葉を失った。
フィルードの持つ野心は、ただの若い傭兵の夢物語ではなかった。確かな自信と現実感を帯びている。
胸が熱くなる。彼の全身が震える。
「や、やります! フィルードさん! いま仰ったことが全部本当なら、何でもやります!」
「……天に誓って、本当だ」
フィルードは真剣な眼差しで答え、右手を差し出した。
「黒水傭兵団へようこそ。……未来でも、共にやっていけると信じてる」
「……っ!」
ケビンも同じように手を伸ばし、強く握り返す。
その瞬間、彼の瞳は涙で潤んでいた。
「団長様の信頼を、絶対に裏切りません……!」
フィルードが彼を選んだのは、初めて会った時に彼が不公平に声を上げる勇気を持っていたからだった。勇気、度胸、年齢、育てやすさ、そしてあの真っ直ぐな目――彼は、間違いなく拾う価値のある人材だった。
二人が話している間に、厨房から香ばしい匂いが漂ってきた。
大きな皿に盛られたローストチキンが運ばれてきた瞬間、ケビンの喉がごくりと鳴る。
「ははっ、遠慮するな」
フィルードは手づかみで肉を裂き、豪快にかぶりついた。
その姿を見て、ケビンももう耐えられず、同じようにかぶりつく。
頬を伝う肉汁、噛むたびに広がる塩気と脂の旨味。彼の表情は幸せでいっぱいだった。
その後の三日間、二人は酒場で生活した。
手持ちの金は多くなかったため、食事は肉を一日一度だけに抑えることになった。
「……フィルードさん、少し節約した方がいいです。これからもっと仲間を集めるなら、資金は基盤になります」
ケビンが真剣にそう忠告する。
しかし、フィルードは首を振った。
「駄目だ。俺たちの身体はまだまだ虚弱だ。戦士になるには、肉を食べて体を作らなきゃならない。数日後には激戦が待っている。準備は怠れない」
その言葉に、ケビンは言い返せなかった。
準備のため、町唯一の木工店へ行き、銀貨一枚で簡易盾を二つ注文した。
二日後に完成した品は、あまりにも粗雑で、とても“武器”と呼べる代物ではなかった。
「……まぁ、一応は使えるな」
フィルードはそう呟き、盾を受け取った。
その夜、例の商隊の従業員が酒場を訪ねてきた。
彼の顔は疲れ果てていたが、無理に笑みを作り、告げる。
「フィルードさん……執事に伺ったところ、あなたの雇い代は最大で銀貨四枚までしか出せないそうです。商隊は甚大な損害を受けておりまして……どうかご理解を」
「……なるほど」
フィルードはうなずき、条件を呑む。
ただしすぐに続けた。
「だが、俺には新しい仲間がいる。彼も参戦する。基本装備と弓はある。彼の報酬も、俺と同じにしてもらいたい」
「……」
従業員の視線がケビンへ向けられる。
その鋭さに、ケビンは反射的に胸を張った。
「……まさか、もう一人優秀な戦士を連れてきてくださるとは。ですが……この方は、戦闘経験は?」
「敵を倒した経験はない。だが、敵と格闘し負傷したことがある。それだけで十分に勇敢さを証明しているだろう」
「……なるほど」
ケビンは顔を赤くし、視線を落とす。
従業員は首を振った。
「申し訳ありません。あなたのような一流の傭兵でなければ、この金額は出せません。……彼にはせいぜい銀貨二枚まで」
「では執事に確認してくれ。俺の条件は銀貨三枚。これが最低ラインだ。もし受け入れられないなら、俺は作戦を降りる」
「……! は、はいっ!」
従業員は慌てて飛び出し、ほどなく戻ってきた。
執事が条件を承諾したと告げる。
「明日の早朝、集合場所へお願いします」
「……了解した」
翌朝。
まだ夜明けの空気が残る中、二人は装備を整えて集合場所に到着した。
一番乗りだった。
そこにはすでに一人、背筋を伸ばして待っている男がいた。
立派な服装、鋭い眼差し――商隊の執事である。
その傍らにゾーンが控え、何事かを耳打ちしていた。
執事はフィルードを見ると、満面の笑みを浮かべた。
「おお、あなたが噂の一流傭兵か。自己紹介させてもらいましょう。私はブライアン。この商隊の執事です。どうぞ、ブライアン執事、もしくは“ブライアンおじさん”と気軽に呼んでくださいな!」




