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傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第三巻 商人から支配者へ① ――守るための取引と暴力

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第118章 選別と同盟

フィルードは無言のまま、椅子に腰を下ろしていた。

静寂が会場を支配する中、ただ一人、体格の良い青年が勇気を振り絞って口を開く。

「その……フィルード団長――いや、子爵様。ひとつお尋ねしたいのですが……。この新たに編成される軍は、どの王室の命令に従うのでしょうか? 元のアモン王国か、それとも新設されたカーマック伯国の方ですか?」

場の空気が一瞬で張り詰めた。

愚問だ、とフィルードは内心で呟く。だが、この質問が出た時点で、彼らの不安は読めていた。権威に縋る者ほど、独立した判断を恐れる。

彼は静かに青年を見据え、薄く笑みを浮かべた。

「……私は、先ほどもはっきりと言ったはずだ。この軍の目的は、この領域を防衛すること。それ以上でも、それ以下でもない。」

冷徹な声が響いた。

それだけを告げると、彼は青年を無視して全体へと顔を向ける。

「時間だ。――選べ。」

その言葉が落ちた瞬間、空気が凍りついた。

数十秒の沈黙の後、ようやく人々が動き出す。

結果は――予想外だった。

護衛隊への参加を選んだのは、わずか四十二人。

残りの二十九人は、まるで根が生えたようにその場から動かない。

「……どういうつもりだ?」フィルードは眉をひそめた。

「同意もせず、反対もせず――傍観か? それとも、私の正当性に疑いを持っているのか?」

先ほど質問した青年が慌てて手を振る。

「ち、違います! ただ……子爵様がどちらの勢力に属しておられるのか、それを明確にしていただければ、我々としても安心して決断できるのです!」

「はっ。」

フィルードは乾いた笑いを漏らした。

「私がどちらを選ぶか――それが、君に何の関係がある? 君に私の選択を問う資格があるのか? 参加したければすればいい。したくなければ帰れ。ここで駆け引きは不要だ。」

冷ややかな声が、会場の全員を貫く。

だが青年はなおも怯まず、慎重に言葉を続けた。

「子爵様……あなたは、王国側の方ですよね? 任命状は全て王国からのものでした。ディオという老いぼれ盗賊を追わない限り、私は――全てあなたに従います!」

その瞬間、彼の背後にいた十数名の准男爵たちが、一斉に頷いた。

……思わぬ展開だった。

フィルードは心中でほっと息をつく。

彼自身、王国寄りの立場を捨ててはいない。ただ――今は、旗を掲げる時ではない。

彼は口調をやや和らげた。

「もちろん、私は王国の指揮下にある。だが、ディオ伯爵もまた私の上司の一人だ。繰り返すが、この治安隊の目的は、あくまで地域の安定維持であり、政治ではない。参加は自由意志に任せる。――だが、私の忍耐は限界だ。」

その語尾に込められた圧力は、刃よりも鋭かった。

青年は即座に黙り込み、後ろの者たちを手で促した。

やがて、さらに十六の開拓領が左側に移動し、残った十三が右側に留まる。

フィルードの視線が鋭くなる。

(……裏切るか。)

右側に残った十三の開拓領主――その顔ぶれを、彼はよく知っていた。

かつて木寨建設を命じた者たち。恩を忘れ、牙を隠していたとは。

彼の胸に、冷たい怒気が静かに積もっていく。

(スパイだと思っていた者が忠臣で、信頼していた者が裏切る。――まったく、面白いものだな。)

「退席して構わん。」

その声は氷のように冷たかった。

「これから治安についての協議を行う。参加しない者は、ここにいる必要はない。」

十三人の顔から血の気が引く。

しばしの沈黙の後、彼らは歯を食いしばって立ち上がり、無言のまま天幕を去った。

フィルードは彼らの背中を見送りながら、心中で占った。

結果は一様に「凶」。印堂は黒く曇り、近いうちに獣人に領地を滅ぼされる運命だ。

……救えるものなら救ってやろう。だが、それは彼らが自らの愚を悔いた後だ。

彼は残った者たちに向き直り、ゆっくりと告げた。

「君たちは賢明だ。私は君たちを見捨てない。だが、規律なき同盟は瓦解する。参加した以上、途中離脱は許さない。裏切りは敵対と見なす。――異議がなければ、この契約に署名を。」

その言葉に、開拓領主たちは列を作り始めた。

多くは迷いなく署名したが、数名は筆を止めた。

それも当然だ。これは一種の服従契約――事実上の従属宣言。

最終的に、二十九の領のうち二十一が残り、八が去った。

だが残った者たちは皆、骨のある開拓者だった。平均百人規模の領地を持ち、その半数を抽出しても千を超える兵を動員できる。

フィルードはわずかに口元を上げた。

「君たちは私の同盟者だ。私は君たちの木寨建設を援助する。三領で一組、共同で発展せよ。帰還後、全員領地を南部へ移転すること。北部は、獣人部族に任せる。我々の最初の防壁となる。」

その後、彼は具体的な砦の建築方法を詳細に説明し、人々は一様に頷いた。三領合わせれば三百人。十分な規模だ。

やがて人々が去ると、フィルードは深く息を吐き、倉庫に向かった。

長年蓄えた木材の在庫を再点検する。――問題なし。十分だ。

その間にも雪は降り続き、外では牛に引かれた荷車が絶え間なく往来していた。

フィルードは峡谷の崖を登り、建設中の物見櫓に立つ。

北風が頬を刺し、塔が微かに軋む。

(この寒さこそ、北境の現実だ。……だが、ここからが始まりだ。)

彼の視線の先、白銀の荒野の果てに――新たな秩序の灯が、微かに瞬いていた。

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