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傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第三巻 商人から支配者へ① ――守るための取引と暴力

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第109章 血煙の谷 ―冷徹なる守護者

翌日。

フィルードは、獣人たちが今日こそ攻城を開始するだろうと踏んでいた。

だが、彼らはなお陣を固め、粗末な梯子を組み立てているだけだった。

「……ふむ。焦っていないな」

それは敵が余裕を持っている証でもあった。

フィルードは冷静に判断し、兵士たちへと短く命じた。

「石と丸太を、可能な限り城壁の上へ運べ。時間を惜しむな」

彼の声には一切の焦りがなかった。

むしろ、獣人たちの“待機”に対して、別の可能性を予測していた。

――やはり、まだ終わりじゃない。

 この静けさは、嵐の前触れだ。

正午。

遠方に土煙が再び立ち昇る。

フィルードは峡谷の両側の高台に登り、鋭い眼差しで見据えた。

「……増援か」

視線の先にいたのは、六百を超える獣人たち。

その中には百を優に超えるボア・マンの姿があった。

すでに外の部隊と合わせれば、二千近い。

しかも精鋭のボア・マン戦士は三百を超えている。

「これまでで最強の敵軍だな」

冷たい声で呟きながらも、内心の奥で小さく笑う。

――数が増えれば、それだけ死ぬ数も増える。

 こちらの城壁を越えられない限り、奴らはただの餌だ。

二つの獣人部隊は合流したが、依然として動かない。

その様子はまるで、何かを待っているかのようだった。

「……まだ援軍が?」

一瞬、フィルードの眉が僅かに動いた。

やがて午後。

四方の地平線に同時に土煙が上がる。

六つの中規模部族――それぞれ三百から四百の兵を率いた連合軍。

合計で二千を超える新たな軍勢が集結した。

「……ようやく、獣人族も本気を出したか」

これまでフィルードが容赦なく討ち滅ぼしてきた中規模部族たち。

その報復として、獣人の上層が一致団結し、“瘤”である彼の領地を切除しに来たのだ。

だが、フィルードは笑みを浮かべる。

――この俺の領地を包囲した?

 ならば、逃げ場のない狩場を自ら作ってくれたようなものだ。

そして、戦が始まった。

突進してきたのは、使い捨ての中規模部族たち。

攻城梯子を担ぎ、怒涛の勢いで走る。

だが、弓兵たちが弓弦に手を掛けた瞬間、フィルードの短い声が響く。

「まだだ。矢は無限ではない」

その冷静な判断が、兵士たちの心を引き締める。

敵が十数メートルまで迫った時、彼は静かに右手を上げた。

「……投げろ」

ヒュン、と空気を切る音。

次の瞬間、獣人たちはまるで草を刈るように次々と地に伏した。

無数の悲鳴と血飛沫が上がる。

――これでようやく、攻城戦らしくなってきたな。

だが次の瞬間、空気が一変する。

後方から三百を超えるボア・マンが現れ、重い甲冑をまとい、巨大な斧を手に進み出た。

「……来たか。主力だ」

その圧倒的な殺気に兵士たちが息を呑む。

だが、次の行動は誰も予想できなかった。

ボア・マンたちは突如、自軍の後列へと斧を振り下ろしたのだ。

「なっ――!?」

腰から両断された獣人たちが悲鳴を上げ、血と臓腑が地面に飛び散る。

生きながらにして絶叫を上げる姿に、兵も一瞬手を止めた。

フィルードは眉をひそめ、呟く。

「……腰斬り、か。想像以上に残酷だな」

やがてボア・マンの首領が雄叫びを上げた。

通訳がその言葉をすぐに伝える。

「全ての部族戦士たちよ、退く者はこの者たちのように斬り捨てる!

 この砦を攻め落とせ。怯えるなら、お前たち首領が先に突っ込め!」

叫び終えた彼は再び大斧を掲げた。

その威圧に、豚頭族たちは青ざめ、押し合いながら前進する。

地獄のような圧力が戦場を支配した。

「……いい。来い」

フィルードは城壁の上から冷静に見下ろし、再び命じる。

「投槍、再装填。第二波、投下開始」

無数の槍が空を裂き、密集した敵を貫く。

地面が血で染まり、峡谷はまるで巨大な挽肉機のようだった。

やがて、ボア・マンの首領が焦り始める。

通常の獣人兵を投入し、全軍を総動員した。

城壁の下は瞬く間に獣人で埋め尽くされ、

梯子が立てられるや否や、次々と登ってくる。

フィルードは声を張り上げる。

「ケビン! 奴隷兵と獣人奴隷を使って丸太を運べ!

 空いた場所をすぐ埋めろ!

 ユリアン、部下を率いて梯子を倒せ!

 ブルース、長槍兵を警戒配置だ。逃げ上がる者を刺せ!

 マイク、弓兵は制式装備の獣人だけ狙え。雑兵は無視しろ!」

その命令の正確さ、冷徹さに兵たちは震えながらも従った。

丸太と石が降り注ぎ、悲鳴が夜空に響く。

夕暮れになる頃には、峡谷は屍の山と化していた。

城壁の五分の一の高さまで死体が積み上がり、血が川のように流れる。

角笛の音が鳴る。撤退の合図。

残った獣人たちは狂ったように後方へ逃げ出した。

梯子にしがみついていた者までが、自ら飛び降りて走り去る。

その様子を、フィルードはただ静かに見つめていた。

「……これが戦か。いや、ただの虐殺だ」

指先が震えていた。

だがその震えは、恐怖ではなく、戦略が完璧に機能した手応えだった。

――これが、“俺”のやり方だ。

城下を見下ろすと、死体の数は数えることもできない。

少なく見積もっても五百は超えていた。

「……報酬を出せ。羊肉を全員に半ポンドずつ追加だ」

疲弊した兵士たちの顔に、ようやく僅かな笑みが戻る。

そのとき、チェリルが駆け寄ってきた。

「団長様、夜襲部隊、準備完了です! いつでもご命令を!」

フィルードは静かに頷いた。

「よし。――次は、俺たちの番だ」

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