第107章 獣人掃討戦 ―冷徹なる采配
一箇所を滅ぼすのはまだ容易い。だが、複数を同時に殲滅すれば、余計な警戒を招く恐れがある。最悪、彼らが連合を組んでこちらに牙を剥く可能性もあった。
俺――フィルードは、利害を天秤にかけながら静かに結論を出す。無闇な虐殺は得策ではない。だが、牙を抜かぬまま放置するのも愚かだ。
ゆえに、今回は「試練」を与えることにした。獣人たちを徴集し、その力と忠誠を測る。もし期待に応えられれば、見返りも与えよう。
――彼らが“使える”と証明するなら、俺は食糧貿易の一部を解禁し、部族の発展を支援してやるつもりだ。だが、もし反旗を翻せば……その瞬間、灰になるまで叩き潰す。
ローセイを呼び寄せ、彼の配下であるジャッカルマンたちを通じて命令を伝達させた。
対象は領地直下の甲等部族八つ、乙等部族十二。各部族に最低三十名の戦士を徴集させ、戦闘の補助にあたらせる。報酬は、部族ごとに百ポンドの麦酒――獣人にとっては十分すぎる額だ。
さらに、犠牲者一人につき補償を行う。人を使うなら、対価は明確でなければならない。奴隷ではなく「兵」として扱う方が、忠誠は長持ちする。
手配を終えた俺は、再び毒性ドングリの研究へと戻った。
魔導実験と同じだ。結果が出るまで何度でも試す。最も効率のよい解毒法は、鍋で煮て水を数回入れ替えること――それだけで下痢の症状は防げた。だが、わずかな毒素は残る。
俺は腕を組み、湯気の立つ鍋を眺めながら思考を巡らせた。
「もう一工程……そうだ、川に浸すか。」
殻を剥いたドングリを一ヶ月川に漬け、その後二度煮て乾燥させ粉にする。
この手法を確立し、ケビンに渡した。奴隷たちを使い、全工程を厳守させるよう命じる。
十日後。
領地の外には、黒々とした影のように獣人戦士たちが集結していた。大半はジャッカルマン、豚頭族はごく少数。
統計を取ると七百を超える獣人戦士、そして騎兵二十四。
だが、彼らの隊列は無秩序そのもの――まるで戦よりも宴を開きに来たかのような有様だ。
獣人特有の強烈な獣臭が風に乗って漂い、俺は思わず眉をひそめた。
「……戦う前に、まず洗わせるべきか。」
それでも、いないよりはましだ。利用価値さえあれば、臭いなど些末な問題だ。
俺はケビンに指示を出し、獣人全員に赤い布を配らせた。味方識別用だ。
同族同士の戦では、誤射が最も多い。無駄な損耗は許さない。
進軍開始。
黒水傭兵団が先頭、獣人軍が続く。隊列は数マイルにも及び、まるで地を這う黒蛇のようだった。
食事の時間になれば、獣人どもは我先にと群がり、配給を待つ。
騎兵の多くは小部族の首領であり、己の馬を駆ることしか頭にない。手下など眼中にないのだろう。
人と獣の混成軍――その異様な行進は、周囲の部族や開拓者を震え上がらせた。
だが、峡谷領地の旗を見て彼らは安堵し、俺の名を囁く。
「フィルード様の軍だ」と。
二日後、最初の中級部族に到達。
包囲された部族首領は蒼白になり、牛と羊を差し出して命乞いをした。
だが俺は、微動だにしない。
「交渉の余地はない。」
合図一つで突撃が始まる。
獣人戦士たちは雑然と前へ押し寄せ、人間兵士たちは整然と後続した。
敵の首領は逃げを試みたが、矢の雨がそれを許さなかった。
俺は魔弓を手に取り、馬上の首領を狙う。矢に魔力を流し込み、静かに息を整え――放つ。
「ブスッ」
矢は肩を貫き、首領は落馬した。
俺の弓技はすでに中級見習いの域。矢に込められる魔力量は増し、威力は三割上昇。
だが、全力射撃は五発が限度。効率と威力の両立――それが今の俺の課題だった。
首領を失った敵軍は即座に崩壊した。
同族相手では、降伏への心理的障壁も低い。次々と武器を捨て、膝をつく獣人たち。
俺は淡々と命じた。
「全員拘束しろ。負傷者は後で処理する。」
捕虜の首領はミイラのように縛り上げられた。
中級部族は消滅し、その地は空白地帯となる。
水と草に恵まれた良地――放棄するのは惜しい。俺は捕虜の一部を再教育し、ローセイ配下の小首領を配置して支配地に組み込むことにした。
「反乱を起こす芽は、芽のうちに摘む。それが管理というものだ。」
隊列は再び進軍。領地から常に二日分の距離を保ちながら、周囲を旋回するように進む。
半日も経たぬうちに、また別の中級部族を発見した。
今回は豚頭族。しかも、先ほどとは違い、首領は逃げる気配もなく陣を敷いて待ち構えている。
「ほう……多少はやる気があるらしい。」
退屈していた俺は思わず笑みを浮かべた。
ローセイに命じる。
「お前が各小首領に伝えろ。手下を率いて正面から攻撃だ。私は人族兵で側面を固める。お前のジャッカルマンは支援に回れ。」
「了解しました!」
ローセイが隊を率いて前進していく。
俺は高台に立ち、その戦場を見下ろした。
「さて……俺の“部下たち”が、どれほどの戦いを見せてくれるか。」
獣人連合軍は一斉に吠え声を上げながら突撃する。
相手もまた部族としてまとまり、緩やかな陣形を維持していた。
距離十数メートル――
こちらの獣人たちが石斧を抜き放ち、汚れた毛皮のローブを翻して、対峙する敵へと投げつけた。
その瞬間、俺は胸の奥で小さく笑った。
「いい。これでこそ、“掃討戦”の始まりだ。」




