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傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第三巻 商人から支配者へ① ――守るための取引と暴力

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第104章 伯爵デライヴンと北方の元帥

フィルードの馬車には、ぎっしりと麻縄が積まれていた。

 その用途は言うまでもない。捕らえた奴隷を縛るためだ。

 ――念のため、余分に積んでおいたのは正解だったな。

 この先、どんな状況になるかは分からない。だが、想定外を想定するのが“戦略”というものだ。

 翌日の午後、軍団は中規模の獣人部族と遭遇した。

 フィルードは迷いなく即座に包囲を命じる。

 「……降伏の機会を与えるのは二十分钟間だけだ。それ以降は、全滅させる。」

 淡々とした声だった。だが、その言葉には冷たい鋼のような圧があった。

 部族の首領は超凡者――つまり、少なくとも中級以上の存在。

 しかし、彼は家畜を外に追い出し、命乞いの代わりにそれらを差し出そうとした。

 ――命の値段を家畜で払おうというのか。交渉材料としては悪くない。

 だが、俺が欲しいのは“屈服”であって“取引”ではない。

 フィルードは冷然と時計を見つめた。刻限が過ぎると同時に、攻撃命令を下すつもりだった。

 だが、それを待たずして、首領は部族の騎兵隊を率い、無様に逃走した。

 「……やはりな。こうなると思っていた。」

 追撃の指示は出さず、フィルードはすぐに突入を命じた。

 首領を失った部族は一瞬で瓦解。組織という支柱を失えば、ただの獣に等しい。

 まともな抵抗もなく、フィルードは奴隷と家畜をすべて掌握した。

 ――無駄な血は流さず、最大の利益を得る。

 勝利とは、敵を殺すことではなく、敵を“利用できる状態”に変えることだ。

 中規模部族が一つ滅ぼされたという報せは瞬く間に広がり、

 周辺の大小の部族は夜を徹して移動を始めた。

 結果、行軍は驚くほどスムーズに進んだ。

 本来五日かかる道のりを、四日強でモニーク城へと到達する。

 2000名を超える獣人奴隷と家畜の群れが、軍団の前列を押し立てて進む光景は、

 誰の目にも圧巻であり、また恐怖でもあった。

 その威容がモニーク城の上層部を即座に刺激した。

 巨大な城門がゆっくりと閉じられていくのを見て、フィルードは一瞬だけ眉をひそめた。

 ――なるほど。捕虜の群れを見て、敵と誤解されたか。

 だが、警戒されるのは悪くない。強者とは、常に恐れられるものだ。

 手を上げると、兵士たちは即座に反応し、大きな円陣を組み、捕虜たちを座らせた。

 完璧な統制。それこそが信頼を築く力。

 「ブラックスウォーター傭兵団の全傭兵が、自由民の義務を果たすために参上した!」

 声を張り上げて宣言すると、城壁の上からざわめきが走った。

 やがて数名の兵士が現れ、身分確認を行った後、

 「兵は城外に駐屯し、団長のみ入城を許可する」と告げてきた。

 ――想定の範囲内。これだけの軍勢を城内に入れるわけがない。

 問題はない、むしろ理性的な判断だ。

 フィルードは単身で城に入り、まっすぐ伯爵邸へ向かった。

 迎えたのは、モニーク城伯爵デライヴン。

 初対面ながら、彼の視線には興味と警戒が同居していた。

 「ブラックスウォーター傭兵団団長フィルード、伯爵様にお目にかかります。」

 フィルードは恭しく一礼した。

 だがその背筋は、あくまで“従う者”ではなく、“並び立つ者”のそれだった。

 デライヴン伯爵はゆっくりと頷き、微笑を浮かべる。

 「実に見事な若者だ。たった一年足らずでこれほどの部隊を築き上げるとは……。どうやって成し遂げた?」

 ――答えは一つ。“情報”と“資源”の最適化。

 だがそれを口にするわけにはいかない。貴族の耳には響かぬ言葉だ。

 「運が良かっただけです、伯爵様。ここに来たのも、カール中隊長の招待を受けたためです。

 さもなければ、ダービー城のディオ伯爵と同行していたでしょう。」

 その言葉にデライヴンは軽く目を細め、納得の意を示す。

 「ゼール子爵との件は聞いている。彼には厳しく叱責を与えた。

 今は獣人との大戦の最中だ。この件はここで終わりにしてほしい。」

 「承知しております。彼が再び私に手を出さない限り、私から仕掛けることはありません。」

 ――大局を見誤る者は、駒止まり。

 俺が欲しいのは駒ではない、盤そのものだ。

 その時、外から騒がしい声が響いた。

 「侯爵様、このように押し入っては困ります! ただいま伯爵様は来客中で――」

 「どけ! 私は伯爵に急用があるのだ!」

 デライヴンは眉をひそめたが、すぐに外へ出た。フィルードも後に続く。

 そこに立っていたのは、重厚な威圧感を放つ壮年の男。

 「これは殿下、お越しでしたか。失礼を――」

 デライヴンが頭を下げる横で、フィルードは無言で男を見据えた。

 ――感じる。圧倒的な魔力の波。間違いない、超凡者……それも上位。

 「彼はウェイン侯爵だ。国王陛下の叔父にして、北方防衛軍の元帥でもある。」

 フィルードは即座に片膝をつき、一礼した。

 「侯爵様、お目にかかります。」

 ウェインは軽く頷き、面白そうに口を開いた。

 「若いな……中級魔法使いの徒弟か。どうやってそこまで到達した?」

 ――やはり、そこを突かれるか。

 フィルードは心中で小さく息を吐き、用意していた“虚構”を口にした。

 「数年前、森で二体の魔獣の死骸を見つけました。牛型と狼型です。

 それを食したことで、体内の魔力が高まり、瞑想法の効果が変化したのです。

 その後、商売と傭兵活動で資金を得て魔石を吸収し、今の段階へと至りました。」

 ウェインは笑みを浮かべながらも、明らかに信じていない目をしていた。

 しかし、追及はせず、ただ静かに言った。

 「なるほど、面白い話だ。だが、それもまた“運命”の導きだろう。

 中級超凡者が一人増えるのは、人族にとって喜ばしいことだ。」

 ――見逃したか。だが、それでいい。今は“信用”より“利用価値”を見せる時だ。

 ウェインはデライヴンに向き直る。

 「外の獣人捕虜の件だが、あれは君が討伐したのか?」

 デライヴンは即座に否定する。

 「私ではありません。この均衡を破ることは、王国にとって損ですから。

 その捕虜たちは、この小勲爵――フィルードが得たものです。」

 ウェインの視線が再びフィルードに向けられる。

 「……ほう、君がか。」

 その目は、評価と好奇の入り混じったものだった。

 「君はどの名義で参加している? 兵は何人だ?」

 「開拓勲爵および自由民部隊として志願しました。兵数は八百名余です。」

 ウェインは頷き、満足げに言った。

 「民間勢力にしては十分な数だ。

 王国が自由民を徴集したのは、防御施設建設のため。

 実戦投入は稀だが……君のような存在なら、状況を変えうるかもしれん。」

 ――望むところだ。

 この戦乱の中で、俺は“傭兵団長”の枠を超えていく。

 いずれは、盤上の王にすら届く存在へと。

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