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マキシマムフライヤーの奇跡

作者: 春藤 あずさ

 私はこの飛行機に乗るのを、心の底から楽しみにしていた。

 世界最大の飛行機、M380。通称マキシマムフライヤー。

 3階建てで、1階は車も乗せられる。2階が客室で、800席。3階には飲食店や、託児所なども併設されている。

 全幅98.7m、全長96m。エンジン8機、最大離陸重量750t、明白に世界最大の飛行機だ。


 今回は成田からアメリカへのフライトだ。正直言って、飛行機マニアの私にとっては、アメリカ観光より、マキシマムフライヤーに乗れるということの方が重要だ。

 本屋で取り寄せてもらった、『マキシマムフライヤーの全貌』という雑誌みたいな本をシート前のポケットに挟む。もう全部読んでしまったが、この飛行機の中で読むことにこそ意義があると感じている。本にキャビンアテンダントさんの制服が載っていたから、頑張って再現して着てきた。こういう時ばかりは、自分が女で良かったと感じる。


 機内放送に従ってシートベルトをして、しばらくするとランディングだ。ゆっくりと滑走路に向かい、しばし待つ。

 ゴォォォとエンジン音がした後、離陸に向けて走り出した。

 体にかかるGを楽しんでいると、ふわりと−Gを感じた。離陸したのだ。

 手を叩いて大喜びしたいのをグッと堪え、窓の外を見る。広い成田空港はもう見えず、緑の山や市街地が見えるが、どんどん小さくなってゆく。雲の上に出るまで、あっという間だった。飛行機から見る雲海と、それを照らす太陽が美しい。しかし、ずっと見ていられるようなものでもないので、私は1枚写真を撮ると、『マキシマムフライヤーの全貌』を手に取った。


 ポーン

『お客様にお知らせいたします。ただいま、前方に積乱雲が発生しており、当機は避けて航行いたしますが、揺れが予想されています。お座りのお客様は、シートベルトを腰の低い位置でしっかりとお締めください。』

 流石ジャンボを超えるマキシマム飛行機、ここまで揺れは全く感じなかった。今どのあたりなのかと座席前の画面をいじると、太平洋のど真ん中だった。何にもないから、航行経路を見ていても面白くない。私はまた『マキシマムフライヤーの全貌』をパラパラとめくった。

 オカルトの章はちょっと雑じゃないか?車庫には航行中幽霊が出るとか、マ○ドナルドの奇跡だとか、生産中謎の死者が出たとか……気が引ければなんでもいいんだろう。

 揺れはしたものの、正直なところ普通の飛行機に比べればほとんど揺れていないのと同じようなものだった。だがその直後、不意に右側のエンジン音が止まった。


 ポーン

『お客様にお知らせいたします。ただいま、エンジンが2機停止いたしました。航行は可能ですが、先ほどより揺れが予想されますので、座席に座り、シートベルトを腰の低い位置でしっかりとお締めください。』

 エンジントラブル?

 マキシマムフライヤーはエンジン8機積んでるから、2機止まったぐらいならまだ航行できるだろうけど……


「ちょっと君、いいかな。」

 通路を進んできたであろう男性に、いきなり話しかけられた。

「え?私ですか?」

「それ、『マキシマムフライヤーの全貌』だろう?ちょっとやらなきゃいけないことがあるんだ。それ持って着いてきてくれないかな。」

 尋ねてはいるが、それは拒めない口調だった。

 仕方なく雑誌を持って着いていく。3階の方に向かっているようだった。

「その本、全部読んだか?」

「はい、一応。」

「変なこと書いてあっただろう。」

「えぇ、まぁ……幽霊だとか、奇跡だとか……」

「奇跡!ってことはそれはマ○ドナルドの奇跡も載っている初版か!」

「え?どういうこと……あれ本当なんですか?!」

「そうだ。マ○ドナルドの奇跡。マキシマムフライヤーが航行不能になった際、自動で不時着してくれるシステムだ。エンジンが2機止まったと言っていたが、俺は右のエンジンが全て見える位置に座っていた。右のエンジンは全て止まっていたよ。混乱を起こさない為、2機とアナウンスしたんだろう。このままでは航行不能で墜落する。」

「えぇ、でもあんな方法で、しかも自動で不時着してくれるなんて、信じられません。」

「そうだな。だが本当なんだ。本当の非常事態に対処できることを、一般の人にわかるものに書いてはいけないと、初版以降は削除されたんだろう。」


 話しているうちに、3階のマ○ドナルドに辿り着いた。従業員も従業員用座席にシートベルトをして座っている。

「あの、どうされたんですか。」

「非常事態だ。マ○ドナルドの奇跡を使う為、ポテトを拝借したい。いいだろうか。」

「え、あれって本当なんですか?確かにマニュアル通り、M型のポテトと10cm以上のポテトは分けて置いてありますが……」

「それはよかった。エンジンが2機止まったとアナウンスしていたが、実際は右翼のエンジンが全て止まっているんだ。拝借していくよ。」

「えと……構いませんが、お気をつけて。」


 ポテトを紙袋に入れ、走り出す。

「お嬢さん、車庫への道はわかるかね。」

「確かこの辺に……ありました!わかります。」

「どんどん高度が下がっている。急がねば。案内は頼む。」

 誰もいない商業エリアを抜け、従業員用扉を開けると、そこには階段があった。誰もいなかったが、従業員用扉に入る時に躊躇わなかったのは、キャビンアテンダントの衣装のお陰だ。

「車庫の中にマ○ドナルドの杯があるはずだ。その場所もわかるか?」

「車庫の地図を見ます!あ、ここを降りて結構近くにあるみたいです。案内しますね!」

「頼んだ!」


 2人は階段を降りると、車庫の中を走った。辿り着いた先には、傾斜のキツイ坂があった。その3mほど上に、金色の杯が置いてある。

「ここか……やらねばな。」

 男はポテトを入れた袋を片手に、四つん這いになって坂を登り始めた。私もパンプスを脱ぎ、坂を登る。

 やけに滑りやすいし、傾斜もキツすぎる。25度はあるんじゃないか?私はストッキングを脱ごうとしたが、体勢を変えたことで下まで滑り落ちた。男も靴と靴下を脱ごうとして、同じ目に遭っていた。

 それぞれストッキングと靴下を脱ぐと、また坂上りの始まりだ。一歩一歩、確実に、しかし急いで登っていく。不意に飛行機が傾き、2人して右側に滑った。しかし幸い、下まで滑り落ちることはなかった。

 掴まる窪みもないので、手と足の指にしっかりと力を入れて登り進める。緊張と揺れで冷や汗が出て、ちょうどよく滑り止めになってきた。


 永遠にも思える坂上りもやり遂げ、金の杯の前まで辿り着いた。

「ふう……なんて場所に設置したんでしょう……」

「ここにポテトを入れればいいはずだ。」

「そうだ、重ならないようにしなきゃいけないんです。」

 2人で杯の上にポテトを入れると、上からゆっくり金色の光が降り注いだ。光に混じって、白い人の影が杯に降りてきた。人影はポテトを見て、喜んだような動きをし、ポテトを食べ始める。長いポテト、M型のポテト、長いポテトと順番に食べ進め、全てのポテトを食べ終えた。その時、機械音声が流れた。


 ポーン ポーン

『当機は航行不能に陥りましたので、ただいまより、自動安全着陸動作に入ります。当機は航行不能に陥りましたので、ただいまより、自動安全着陸動作に入ります。シートベルトをお締めください。シートベルトをお締めください。』

「よし、成功だ。おぉ、あそこにおあつらえ向きに座席があるぞ。あそこに座っておこう。」

「これ、私たちが独断でやってよかったんでしょうか。」

「あんまり良くはないが、このマ○ドナルドの奇跡は乗組員も知っている人が少ないらしい。俺は初版の『マキシマムフライヤーの全貌』を読んだのだが、家に置いてきてしまってな。」

「なんで乗組員があまり知らないんですか?」

「眉唾物だとでも思われているのだろう。教えることだって、もっと大事なことがたくさんあるだろうしな。実際、この奇跡を発動させたのはこれが初めてのはずだ。」

「なるほど……あの人影ってなんだったんでしょう。」

「あの本に書いてあっただろう?生産中に亡くなった人だろう。フライドポテトが好きだったんじゃないか?」

「そんなことあります?いや、あるのか……」


 マキシマムフライヤーは多少揺れながらも、安定して高度を落とし、太平洋に着水した。

 夢で見た話を小説にしました。

 夢ではもっと色んな人が出てきて荒唐無稽だったんですが……添削しました。

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