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第13話 赤ちゃんライフ

「よしよーし、いい子いい子」


 全身を優しく抱きかかえられている感覚がする。

 身体の半身が柔らかい物に包まれていて、長い黒髪からお花のような匂いがふわっと香ってきた。揺すられているのか、身体がゆさゆさと動いている。


(いい揺れだ。んぅ……いや、寝るな俺! 確か、狙撃されてそれで、どうなったんだ?)


 意識を強く保とうと、俺――真昼は首を横に振り、目に力を込めてなんとか瞼を開いた。


「あえ?」

「ん? なに? まだおねむじゃないのかな?」


 目の前に美夜子の整った顔が見てとれた。


「えうお? なぁなぁ?」


 うまく喋れない。

 なんだ、これ……『美夜子? なんで?』と言っているはずなのに声がふにゃふにゃしていてうまく喋れない。それになぜか美夜子に抱っこされてるし――ふにっ。

 身じろぎすると豊満な胸に腕が沈んだ。美夜子が着ているのはゆったりとしたTシャツだから柔らかい感触がすごく伝わってくる。


(いい感触だ――って、え!? でかい! 美夜子のおっぱいでかくなってる! なんで!?)


 俺はびっくりして目を見開いた。

 胸が俺の上半身くらいあるぞ。それに対し、俺の腕はやけに短いというか、小さかった。


「えうえう!? ううんぅぅぅんっ! (なにこれ!? ウソだろおおおっ!)」

「なに、どうしたの? 眠る前に運動したいのかな?」


 両手を震わした俺を見ると、美夜子は首をかしげながら俺を畳の床に下ろした。


「はぁい、それじゃあハイハイしましょうねー」


 美夜子め……俺を赤ちゃん扱いして、と思うが改めて自分の身体を見るとベビー服を着た赤ちゃん体型だった。

 部屋を見渡してみる。


「…………」


 広い。十畳の和室だ。高級感がある漆塗りの座卓が中央に置かれ、障子の先をぐるりと縁側が囲み、ライトアップされた日本庭園が見える。どこかの旅館のようだ。

 ハイハイしていると部屋の隅に化粧台を見つけた。


(鏡だ! あれなら今の姿がちゃんと見れる!)


 俺は部屋の隅に向かう。だが、化粧台の椅子には今の身体じゃ高すぎてのぼれない。


「うーっ! うーっ! だぁだぁうぅぅぅぅー……(このっ! このっ! ダメだこれじゃ鏡が見れない……)」

「どうしたの? 鏡が気になるの?」


 化粧台の椅子にしがみついていると、美夜子が俺を抱きかかえてくれた。


「あ……」


 美夜子に似た赤ちゃんが鏡に映っていた。

 赤いメッシュが入った黒髪は短い。ぷっくりとした頬は赤ちゃんらしいが、困惑した表情を浮かべているから感情が豊かそうな印象だ。


「きゃー! やっぱり私の赤ちゃん可愛いわ、マジ天使!」

「ばぶっ!? あーあ、うーうんうーん!? (ええっ!? 俺、美夜子の子供なの!?)」

「ヤバい! ビックリしてる顔もめっちゃ可愛い!」


 黒いショートパンツに包まれた足で興奮気味に小さく足踏みすると、美夜子は俺をあやすように揺すってくる。


「うーうおとあおお、あーあうー、ううおおうーうあああばぶばぶっ!? (ということは俺、あのとき、死んで美夜子の子供として転生したのか!?)」

「見て見て、パパ。あなたの子、今めっちゃ喋ろうとしてて可愛いよぉー」

「ばばぶっ!? ばぶっ! うーうあーあばぶばぶあああ! (パパだと!? 誰だっ! 俺の彼女をママにした野郎は!)」

「うん、元気だねぇ。じゃあその元気な姿をパパに見せましょうねー」


 俺が怒りの咆哮を上げると、美夜子は踵を返して部屋の反対側に歩んだ。

 そこには仏壇があった。

 両開きの扉で、金色の装飾が眩しい立派な物だ。仏壇の中央に遺影が飾られている。

 クリーム色の癖毛に優しそうなタレ目。その顔立ちは温和な感じで、スーツ姿と相まって頼りになるお兄さんに見えるが、微笑んでいるその男は――


「あ……」


 俺だった。


「センセ、あなたの息子は元気に育ってるよ。だから、安心して私に任せてね」


 仏壇前の座布団に座ると、美夜子は俺を抱っこしたまま優しく語り掛けた。

 どうやら俺は、あの狙撃で死んで俺と美夜子の息子として生まれ変わったようだった。


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