ちょっとしたスリル
あらすじに書かれていた高校生がようやく登場します。
豪 「ようやく、冷蔵庫の外に出られたと思えば、この様だよ・・・」
築地 「にしても、お前強いな。俺と殺り合おうか。」
豪 「えっ、・・い、いえ、俺、男とやり合うなんて、興味ないんで」
由美 「えぇ~それ嘘でしょ。いつも淳とデレデレしてたじゃない」
豪 「違う!あれは、じゃれ合ってただけだ!変な誤解するなよ!」
正也 「いや、あれは俺達から見ても、結構進んでるように見えてたぞ。」
豪 「そんなぁ~・・・正也~」
築地 「つーか、お二方、横やりを入れるようで申し訳ないが、誰?」
二人 「どちらかと言えば、そちらこそ・・・だれ?」
築地 「豪、どういう事だ~?」
豪 「知らないっすよ・・・」
先を行っていた集団も、武装をしバリケードを作り、敵を追いやっていたのだろう。
そのため、バリケードは健在だが、内部で発症者が出たらしい、地面には人間の物と思われる肉片や骨が転がっていた。
「第二症状の発症者が出たのかもしれない。・・・俺達も気をつけないと。」
正也の言葉に全員の気持ちは引き締まり、下に転がる銃やナイフを拾い集め、集団にいる大体の男達に武器が手渡された。
これまで数度、化物に襲われはしたが、今の所、被害者は西田一人と快調な滑り出しで、正也達は地上へと向かっていた。
だが、問題点は、いつ誰が、再び第二症状を発病するかだった。
正也と藤原は、内密に周りに注意を配り、発疹が出ている物がいないか、見回っていた。
そんな中、一人集団から離れた仁志は、誰もいない事を確認し、自分の腕裾を捲りあげた。
発疹は、かなり広がり、右腕全体を覆うのも時間の問題だと、そして、隠し切れるのもそろそろ無理だと、自覚し始めていた。
「仁志?大丈夫?」
心配してやってきた由美のに驚き、仁志は再び袖を戻し、由美に振り返った。
「どうしたの?顔色、悪いよ・・・」
「ううん、大丈夫だよ。・・・ちょっと汗疹が酷くてさ。痒いんだよ。」
「ふ~ん、まるで子供みたいね」
「そ、そうだね。・・さぁ、そろそろ出発するみたいだ。俺達も行こう」
仁志は、由美の横を通り過ぎようとし、そんな中、由美は仁志の耳元でこう呟いた。
「私、言わないからね。」
「えっ?何を?」
「仁志の腕に、緑の発疹が出ている事よ。」
由美の言葉に体全体に鳥肌が立つ仁志。
「今の正也に言ったら、きっと仁志が相手でも、置いてきぼりにされちゃうでしょ。」
「で、でも・・・」
「大丈夫、私が庇ってあげるから。豪と淳がいない時は、いつも私が仁志の守り神だったからね」
思い悩む仁志に笑顔を見せ、正也達に呼ばれ由美は集団の方へと歩き出した。
そんな由美も、集団の方へ向かう途中、小さな咳を数回こぼしていた。
~数十分前~
手足を縛られた西田は、化物に取り囲まれ絶体絶命の大ピンチに襲われていた。
「や、やめてくれ・・・」
西田の顔にもすでに発疹は行きわたり、体は完全に緑色に変色していた。
だが、西田は自我をハッキリと持ち、目の前に自分を囲みこむように、立つ化物に怯えていた。
手足を縛った布を外そうと試みるが、がっしりと縛られ、自分できつく縛りあげるように要求した事を深く後悔していた。
化物たちは、一斉に西田に飛び掛かり、西田は悲鳴を上げた。
「ゴルアァァァァ!」
人間離れした掛け声と共に、飛びかかろうとする化物達の上に飛び上がって来たのは築地だった。
両手に持った大きな包丁で、いきなり二体の化物を真っ二つに切り裂き、その光景に化物達も築地に目を奪われた。
「さぁさぁさぁさぁ、次に死にたい奴は!だれ~だぁ?」
襲いかかる化物を次々と切り刻む、築地。
「ハーハッハッハハハハ!」
化物を切り刻むのをまるで楽しむかのように、築地は笑い声を上げ、最後の敵を切り崩した所でようやく、西田に気が付いた。
「ん~・・・拘束プレイを楽しんでる所、申し訳ないが、出口はどっちだ?」
目の前で起きた光景に唖然とする西田。
そして、そんな西田の手足を縛っている布を築地は包丁で切った。
「き、君は・・・感染していないのか?」
「訳がわからん。・・その肌の色ぉ、お前も化物の仲間か~?」
「ち、違う。私は・・・」
そう言う西田は、今の自分が人食行動に移らない事に気が付いた。
「まさか・・・食欲が収まった・・・。」
自分の体の異変に気が付き、今の状態をパソコンに収める西田。
「か、観測を開始してから、約三十分、襲われ続けていた食欲が低下した。今の所、体の肌が緑色以外には、異常は発見されない。・・・しかし、何故だろう妙に体か軽い」
西田は腕に付けたパソコンに今の現状を報告するが、正也の友人のパソコンとの通信が付かなかった。
「・・通信が切れてしまったのか?あぁ・・そうだ、君も一緒に。」
パソコンに目を取られていた西田は、助けてくれた恩人に行動を共にしようと話しかけるが、築地の姿はどこにもなかった。
~現在、調理場~
「だぁあああぁあっ!いてぇな!チキショウ!」
意識を取り戻した豪は、蹴られた腹を抑えながら、勢いよく状態を起こした。
「・・・・あり?」
何か鳩尾に強烈な何かを喰らった覚えはあるが、いつのまに冷蔵庫から脱出できたのか、謎だった。
しかも、薄暗い調理場は、鋭利な刃物で切り落とされたかのように、綺麗に崩れおちていた。
「・・・・何が起きたんだ?」
しかし、照明が落とされていると言う事は、営業が終了したのかもしれない。
「もしかして、俺・・・忘れられてたとか?」
辺りに人の気配は、感じ取れない。どうやら本当に自分を忘れて営業を終了したらしい。
「でも、普通・・最終確認するよな・・・でも、忙しかったからな。そんな気力がなかったのかも・・」
目の前には、壊された台所や食器が散らばっていると言うのに、豪はなるべくネガティブな発想はしないでおこうと、心に誓った。
「さてと・・・じゃぁ俺も、帰りますか。」
下に転がる破片などを、足でどかしながら、豪は薄暗闇の中、ロッカールームへと向かった。
廊下の足元と天井に薄っすらと光る非常灯を支えに、豪はロッカールームに向かい、自分のロッカーを開くと同時に、幸助達のロッカーも開いた。
ロッカーには、まだ彼等の荷物が残っており、何かが起きた事は間違いなかった。
豪は、とにかくこの動きずらい服を自分の服と交換しようと、自分のロッカーの前で上着を脱ぎ始める。
調理場の温度と湿気はかなりの物で、白い上着の下は、黒いランニングシャツのみで筋骨隆々をまるで見せつけるかのように、豪は着替えを始めた。
ゴトッ・・・
だが、その時、何やら物音が聞こえた。
「ん?」
豪は、バックからペンライトを取り出し、物音の聞こえた方へと歩いていく。
「誰か、いるのか?」
今はペンライトの明りのみが、豪の視界でちょっとしたスリルを味わっていた。
「もしかして、ネズミか?」
遊び半分で言ったつもりだった。
「チ、チュゥ・・・」
「ネズミが、はいそうです。って返事をするか!」
豪は地鳴りを起こしながら、足をすすめ、チュウと答えた方を目指した。
ペンライトは、下を照らし、両サイドのロッカーの下部分を映し出しながら、豪の視界は進んでいく。
そんな中、ロッカーから明らかに女性の物と思われるスカートが扉の下からはみ出ているのに気が付いた。
「あ、あの・・・」
豪の問いかけに、スカートは一瞬ビクつき、再びロッカーから音をたてた。
「頭隠して尻隠さずってのは、まさにこの事だな。」
そう言うと、ロッカーは、下に出ているスカートを引っ張り、中に入っていった。
「いや、もう無理だって・・・」
「む、無理じゃない!」
「もぅ答えちゃってるじゃん!」
豪はそう言うと、ロッカーの扉を開いた。
すると、バランスを崩した女性が、ロッカーから転がり出てきた。
「キャァ・・・」
「あぁ、ごめん。大丈夫?・・・って高校生?」
仰向けにドンと倒れ、近くの高校の学生服を着た女性は、豪の顔を見た途端、立ち上がり豪を睨みつけてきた。
「この・・・レジスタンスめ!」
そう言って、女性は両手を前に構えると、豪の顔に蹴りを入れてきた。
「ちょ、ちょ、ちょ、ストップ!」
豪は、飛んでくる蹴りを手で止め、「問答無用!」と彼女はさらに攻撃をしてくる。
「わ、・・ちょ・・ちょっと!・・・って、誰がレジスタンスじゃ!」
「何言ってんのよ!その顔はどうみても、レジスタンスじゃない!極真空手三段を舐めんなよ!」
確かに、彼女の体さばきは、かなりの物で、豪は防ぐ事で精一杯だった。だが・・・
「俺だって柔道三段じゃ!舐めんなよ!」
豪はそう言って、彼女の胸倉を掴むと、大きな体を生かし、彼女の片足を弾くとそのまま大外刈りを喰らわせた。
彼女は再び仰向けに倒れた。
「いやーーー襲われるーーっ!」
彼女は、上にいる豪を両足で蹴り飛ばし、豪は後ろによろめいた。
彼女は、再び立ち上がり、豪に向かい構えた。
「馬鹿!俺はレジスタンスじゃない!・・よく見ろ。俺は料理人だ!」
そう言って自分の白いズボンをペンライトで照らした。
「・・・・あれ?」
「あれ?じゃない!・・・なんなんだ、いきなり!人を突然、レジスタンス呼ばわりして、あれ?の前に、言う事は?」
「えぇっと・・・・ごめんなさい?」
「そう。・・・で?なんでここに高校生がいるんだ?ここ高校生はバイト雇ってないぞ。」
「それは・・・その、年齢偽ってて・・。ここの自給いいし・・」
「年齢偽ってるのに、学生服?」
「遅刻しそうだったの!まぁ実際、遅刻しちゃったんだけど・・・ってそうじゃない、レジスタンスは?」
「だから、さっきから何言ってんだ。レジスタンスがホテルに泊ってるとでも言いたいのか?」
「・・・・えっ?もしかして、何も知らないの。」
「んん?」
彼女が言うには、急ぎ更衣室にやってきた途端、会場の方で癇癪玉が弾け飛ぶ音が聞こえ、それと同時に、銃を構え目だし帽をかぶった男達が、男子更衣室から飛び出し、向かいにある小休憩を取る部屋に入り、レジスタンスを名乗り、従業員を拘束し、会場の方へと連れて行ったと言うのだ。
彼女は物陰に隠れ、見ていると照明まで落とされ、これはただ事で無いと感じ取った彼女は、男子更衣室の空いているロッカーに隠れていたと言うのだ。
「なんで、あえて男子更衣室なの?」
「そりゃ、彼等が隠れていた場所だもの。もう一度、廻ってくる事はないでしょ?」
「うん・・・確かに、頭いいな。」
「まぁね。」
「ところで、名前は?」
「人に名を尋ねる前に」
「自分から名乗れってか・・」
「そう」
「俺は、真西豪。大学生だ」
「私は、上条・・高校生です。」
「ん?下の名前は?」
「・・・下の名前は嫌いなの。」
「えぇ~いいじゃん。教えてや」
大学生のノリに少々戸惑う上条。
「嫌、絶対に笑うもん」
「わかった。面白ければ、一生懸命笑おう。」
「普通、笑わないって言うと思うんだけど!」
「大丈夫だ。くだらなけりゃ、絶対笑わないから。」
「し、下の名前は・・・仁」
恥ずかしがりながら上条は、自分の名前を呟き、豪はそれに対し、納得したかのように首を縦に振った。
「そっか・・・上条は、男だったのか・・」
「ほら、絶対言うと思った!」
「冗談だよ。・・・そんな可愛い顔した男なんている訳ないだろ」
上条の反応を見て、笑いながらそう言うと、思わず頬を赤く染める上条。
「それは・・言われた事なかった」
「あ?何だって?」
「何でもない!」
「じゃぁ、よろしくな。仁」
「よろしくって何に?」
「何ってここから脱出するんだよ。俺も運がいい事に、ここに来るまでにレジスタンスに会っていない。もしかしたら、目的の物を見つけて、レジスタンスがいなくなってるかも、しれないだろ?」
「ねぇ、聞きたいんだけど、真西豪は・・」
フルネームで言い始める上条に、豪は「豪でいいよ」と答え、上条は改めて聞きなおした。
「豪は、いままでどこにいたの?」
「・・・・れ、冷蔵庫の中に閉じ込められてた」
アルバイト中に、冷蔵庫に閉じ込められた経緯を話し終えると、上条は腹を抱えて笑いだした。
「うっそ、あり得ない!・・・ばっかじゃないの?」
「うるせぇ!遅刻してきた奴に言われたくないね」
「ところで、大学生とか言ってたけど。どこの大学?」
「ん?北ノ大学だけど」
「ゲッ・・・私の志望校じゃん・・ちなみに学科は?」
「教育・・・」
「冗談でしょ!なんでよりにも寄って、同じ学科なのよ!その顔で先生にでもなるつもり?」
「わ、悪いかよ!そっちこそ、そんな捻くれた性格で、先生になるつもりか!」
「私は、幼稚園の方だもん!」
「それこそ、最悪だ。子供に悪影響だ!」
「うるさいっ!」
「ハハハッ・・・凄い、素晴らしい。・・観察を開始してから一時間が経過した。肌は完全に緑色に変色してしまったが、自分の体が嘘のように、動く」
西田は、腕に付けたパソコンに現状を報告しながら、前から向かってくる化物に飛び掛かっていた。
襲いかかる化物を片手で抑えつけると、西田を喰おうと口を開き前に大きく出す化物。
そんな化物の口を両手で抑えると、化物の顎を上下に引き裂いた。
「凄い、まるでマジックテープを剥がすかのような感覚で、敵を倒す事が出来る」
自分の性格が変わってしまった事には気付かず、西田は藤原達の後を追いかけた。
誰一人被害者が出なかった正也達にもついに被害者が出た。
第一症状が発症した女性が、目の前にいた男の喉元に食らいついたのだ。
男は、首から大量の血を噴き出しながら、大声で叫び、その場に倒れた。
その光景を目の当たりにした一人の男性が発狂し、男の肉を喰い散らかす女性に引き金を引いた。
素人当然の男が、銃を撃てば何が起こるかわからない。
まさにその通りで、銃の衝撃で銃口は上に上がり、関係のない人達にまで弾が当たった。
藤原は、それでもなお引き金を引き続ける男の側面から体当たりし、男を地面に倒した。
「馬鹿野郎!・・・銃はなるべく使うなと言ったはずだ!」
「もう駄目だーーーぁ!俺達は、このウイルスに喰われるんだ!俺はこんな化け物には成りたくない!」
男は、上に乗る藤原を蹴飛ばすと、集団から数歩離れ、自分の顎下に銃を持ってくると引き金を引いた。
後ろの壁には、男の血が飛び散り、引き金を引いた男は、後ろに反りかえりながら倒れた。
二つの惨劇に恐怖し、中央で再び動き始めようとする女性を見て恐怖にかられた人達は、散り散りに走り出した。
「駄目だ!全員、戻れ!」
藤原の声は誰にも届かず、女性の頭を撃ち抜いた正也と脂汗を掻く仁志、そして由美、腰を抜かして動けなかった人が四人残っただけだった。
「チッ・・・馬鹿が。一人になって何が出来るってんだ・・」
正也の非常な言葉に、由美がキレた。
「ちょっと、そう言う言い方、あんまりなんじゃないの!」
「だったらどうするよ!散り散りになった奴等を探しに行くのか?あぁ?・・・俺は絶対にごめんだね!」
言葉に詰まる由美に対し正也は言ってはいけない言葉を言ってしまった。
「大体、お前のせいで、淳がいなくなったんだ・・・」
呟いてしまった言葉に我に返る正也。そして、その言葉を言ってしまった正也を見つめる仁志。
「・・・それ、どういう事?」
「何でもない!」
「何でもない訳ないじゃない!淳がいなくなったってどういう事よ!・・・・じゃぁ、豪は?ねぇ豪は?」
「・・・うるせぇ!俺はな、餓鬼の頃から俺達に付きまとうお前が、大っ嫌いだったんだよ!」
「そ・・・そんな事、思ってたの!」
「あぁ!俺達は五人で仲良くやってたんだ。それなのに、お前が入ってきて、仲間はバラけちまったんだよ!」
二人の争いを聞きたくないと言わんばかりに、仁志は両耳を塞いで、その場に腰を下ろした。
「二人ともいい加減にしろ!」
仲裁に入ったのは、藤原だった。
「悪いが二人の口げんかに付き合ってられるほど、ここは安全じゃない。・・そんなに続きがしたいなら、俺が二人を撃ち殺す」
自殺に使われた銃と自分の持っていた銃を両手に構え、二人に照準を合わせる藤原。
力による仲裁に二人は、黙りこみ再び歩き出した。
そんな中、正也はある事に気が付いた。
「・・・仁志?」
落ち着きを取り戻した正也が辺りを見渡すが、仁志の姿はどこにもなかった。
「おぃ、嘘だろ・・・仁志!どこ行った!」
藤原が声を抑えるように言うが、関係無く騒ぐ正也のパソコンに仁志からのメールが届いた。
『ごめん・・・俺も第二症状が出てたんだ。でも、怖くて言いだせなかった。もう、隠しきれないまで、症状が出てるんだ。だから、一緒にはいられない・・・ごめんね』
「嘘だろ・・・仁志!お前一人で何が、出来るってんだ!戻ってこい!何か解決策があるはずだ!」
正也達の集団から先ほど抜け出した仁志は、廊下の隅に蹲り、正也の声が聞こえるたんびに、胸が痛んだ。
「か、観測を開始してから一時間と十五分・・・。階段には地下20階と書かれている。藤原君や正也君達は無事だろうか?・・・だが、私にも再び食欲が芽生え始めた。抑えきれないくらいだ・・・」
西田は、階段を壁を手で抑えながら上っていた。
「だが、・・良かった事に、周りには食べ物らしきものは、転がっていない。私の理性は、まだ保たれている。・・だが、私は今、藤原君達を追っているのだが、それは、助けるためなのか?・・・もしかしたら、食べ物を追っているのか・・今の私には理解できない」
口ではそう言っているが、足はどんどんと正也達の方へと進んでいく。
「だが、何か物を喰ってしまうと、意識を失うと言う事は、この症状を見ても明らかだろう・・・」
西田は、ふとある事を思いつき、パソコンに自分の言葉を入れ始めた。
その頃、正也達は今まで見た事がない化物と対峙していた。
いつもは、人の形をした四足歩行の緑の化物だったはずが、今回は、両足で立ち、緑色の出来物からは緑の液体がにじみ出て、体格はやけにゴッツく三角筋が発達しすぎて、猫背のように曲がっていた。
「第二症状の奴か!」
正也と藤原は、正面に立つ化物に銃口を向けた。
化物は、手に持っていた人の頭を正也達に放り投げた。
思わず目線をそっちに取られてしまった正也達。
その瞬間、正也の横にいた男の体から、大量の血しぶきが舞い上がった。
胴体を両断された男は、何が起こったのかわからないと言った表情で、上半身は地面に倒れた。
あまりにも突然の出来事に、下半身の筋肉は硬直し立ったまま倒れなかった。
その下半身の前に移動していた化物は食らいついた。
「うわぁぁぁぁぁ!」
正也の叫び声に銃を持つ人達は、一斉に化物に向けて引き金を引いた。
化物はそれを物ともせず、体に出来た緑色の吹き出物に弾が当たり、緑の液体をまき散らすだけだった。
「くそっ!死にやがれ!」
正也も、ライフルを化物に向けて、引き金を引くと、正也の銃弾は化物の腕に当たり、弾丸は化物の肘を抉り取りながら、貫通した。
「ぎゃおおおおおぉぉぉ・・・」
化物は、腕を抑えながら濁った悲鳴を上げ、ぶらついていた腕を引きちぎった。
「くそっ・・・」
頭に当たらなかった事に正也は、悔しさをにじみ出し、再び化物に銃口を向けるが、そんな正也を化物は、生き残っている腕で、壁に吹き飛ばした。
壁にぶつかった正也は「ガッ」と声を洩らし、意識を失い倒れた。
その光景を遠くの物陰から見守る仁志は、自分にはどうする事も出来ないと悲観していた。
「・・・君、正也君の友達だね。・・・ここに私がまとめた記録が残されている。取っておいてくれ」
仁志の横に、新たな緑の化物が登場し、返事もしない間に、仁志の足元にパソコンが置かれ、男は、化物の方へと走って行った。
「だぁぁぁぁーーー!!」
藤原に襲いかかろうとする化物に、化物は飛び掛かりながら、空中で蹴りを入れ、化物を蹴り飛ばした。
「大丈夫ですか?藤原さん。」
濁った声でその場に腰を突く藤原に声をかけるが、再び化物へと向かって行く化物。
「・・・まさか、西田さん。」
仰向けに倒れる化物の上に跨ると、西田は化物の首根っこを両手で鷲づかみにすると、そのまま地面に何度も叩きつけた。
化物は、悲鳴を上げ、それでも西田は化物の首を締め上げながら、地面に何度も叩きつけた。
振り回される化物は、何とか抵抗を見せようと、足で西田の顔を蹴り、西田は両手を放してしまった。
地面に倒れる西田に今度は化物が跨った。
口を大きく開き、西田の首元に食らいついた。
「ぐあぁぁ!」
西田の首元からは、緑と赤が入り混じった液体が傷口から噴き出し、西田も負けじと化物の首に食らいつき、引きちぎった。
「ギャオーー!!」
化物は、西田から離れ、地面に崩れてのた打ち回っていた。
そして、西田は口の中に入っている化物の皮と肉を喉に通してしまった。
西田は地面でのた打ち回る化物の頭を足で抑えつけ、力を込めた。
メキメキと顔が音を出し、堪え切れなくなった頭は、パキョンと高い音を鳴り響かせながら、スイカのように砕けた。
「西田・・さん?」
化物を倒した西田の異変に気付き藤原が声をかける。
西田は、顔を歪ませ唸り声を上げながら、ポケットから録音機を取り出した。
再生ボタンを西田が押すと録音機は、ノイズを出しながら再生を行った。
『ザー、ザザ・・・えぇ・・これが再生されていると言う事は、藤原君達に辿りついてしまったんだね。・・・お願いだ。おそらく今の私は、・・君達を食べ物と認識してしまっている。この再生ボタンを押せている間・・・私の理性が保たれている間に、君達の手で葬り去ってくれ、頼む』
「グルルルルル・・・」
西田は、苦しみながら頭を押さえ、再生ボタンを押し続ける。録音記録は、何回も繰り返され、藤原は、壁の横で意識を失う正也から銃を取ると西田に銃口を向けた。
「すまない、西田さん」
苦しむ西田にそう呟くと藤原は、ライフルの引き金を引いた。