地上まであと、30階
北海道の都市部から、車で約二時間弱、高速を使えば、一時間四十五分で到着する。某ホテルは、地上三十階、地下に関しては現在も拡張中で、なんと言ってもこのホテルの醍醐味は、地下に造られた吹き抜けの会場である。
地上から見下ろす事も出来、地下数十メートルに掘り下げられたホールではいくつもの席が揃えられ、政治家達や資産家が毎晩のようにワイワイ楽しんでいる。
だが、そんなホテルもレジスタンスに占拠され、今では人間が化物に生まれ変わると言った事態に陥り、惨劇が繰り返されていた。
現在、正也達がいる場所は、地下三十階。そして、豪が閉じ込められている冷蔵庫は、地下四十五階。
果たして、彼等の運命や、いかに!
豪 「後半へ続く。」
正也 「いや、まだAパートすらやってないから」
仁志 「何、そんなやり取りしてんのさ、さっさと始めるよ。」
由美 「さっさと冷蔵庫の中、戻れ!」
豪 「あっ、酷い!」
正也の撃った弾丸は、化物の左肩に命中し、化物の腕は地面に落ちた。
だが、化物は気にする事なく、こちらに向かってくる。
「言ってただろ!頭を狙え!」
藤原は、そう言いながら、引き金を引き、向かってくる化物の頭に命中させ、化物は勢い余ってその場で何度も転がった。
「わかってるよ!」
正也は、再び引き金を引き、化物頭は吹き飛んだ。
「・・・さて、さっきの話の続きと行こうか。」
藤原が口を開こうとするが、後ろ方で自動小銃が、発砲する音が鳴り響き、西田が交戦中だと言う事に気付いた。
「正也!お前は、こいつ等を連れて先に行け!・・・後から追いかける!」
「わかった。・・・行くぞ!」
正也の掛け声で、駆け足で正也に付いていく人達。
そんな人の合間を縫って、藤原は西田の元へと向かって行った。
「うわーーーっ!く、来るな!」
西田は、弾を無駄撃ちし続け、後ろからやってくる化物に撃っていた。
「西田!頭を狙え!」
西田に合流した藤原は、向こうにいる化物の数に目を疑った。
「む、無理ですよ。・・頭なんて、当たる訳がない。」
勝手に弾を打ち出す銃は、照準が狂いやすく、初心者には最適だが、急所を狙うのは至難の業だ。
「よし、西田!そのまま弾幕を張り続けろ!」
「は、はい。」
西田は銃を撃ち続け、素早く装填をして銃を撃ち続けた。
その間に藤原は、両サイドにプラスチック爆弾を張り付け、コードを差し込んだ。
コードが切れないように、慎重に伸ばしながら、起爆スイッチに繋げた。
「西田ぁ!走れ!」
「はい!」
西田は後ろを顧みず一目散に走り、藤原は、化物がこちらにやってくるタイミングを見計らいながら、起爆スイッチに手をかけた。
その瞬間、藤原は西田を掴み、ラグビーでトライするかのように、西田を抱え込んで地面に付した。
大きな炸裂音と後ろで廊下の壁が、崩れる音が鳴り響き、化物は瓦礫の下敷きになった。
「ハハ・・・やった。」
「あぁ、よくやった。西田」
年上だと言う事を忘れ、藤原は西田の頭を軽く叩き、西田は照れながら、自分の頭を掻いた。
その時、藤原の眼には、西田の腕の裏側に緑色の発疹が薄っすらと出ている事に気が付いた。
「西田・・・。」
「はい?どうかしましたか?」
「・・・いや、なんでもない。早く合流しよう。」
「・・?・・はい。」
感染してる。だが、まだ症状は出ていない・・・まだ様子を見よう。
なるべく普通に振舞おうとする藤原だが、自然と西田から一歩離れて歩くようになっていた。
謎のウイルスについて、予想だけでもしている人間は、正也以外に、一体何人いるのだろうか・・・?
その頃、正也達は藤原達に合流しようと、階段の前で小休憩を取っていた。
「仁志?・・・どうかした?」
自分の袖を捲り、腕の裏側を見ている仁志に由美は声をかけるが、仁志は慌てて袖を下ろした。
「ううん。・・・なんでもないよ。」
そう言う仁志の腕の裏側にも緑色の発疹が一つ、出ていた。
「よさ~くは~きーをきる~・・・ヘイヘイホー、ヘイヘイホー・・・・虚しいよ~虚しいよ~。」
空調は切れているが、上のボイラーからは常に新鮮な空気が入ってくる事に気が付いた豪は、とにかく知っている歌を歌いきろうと、サビだけでも歌うが、段々と歌の内容もネガティブになって行った。
「あなたは~・・・もぉお、忘れたかしら~・・赤い、手ぬぐいーマフラ~にして~・・・・二人でいぃた~横丁の風呂屋~・・・一緒に出よおねって言ったのに~」
なんだか歌を歌っている自分を想像するだけで、吐き気を催し、歌を歌うことすら止めた。
「はぁ~、なんで誰も気付いてくれないんだろ・・・」
「いたぞ!保住だ!」
地下で事件が起きている事を知らないブルーソルジャーの隊員は、背が低いのに無駄に横に長く、顔と首が一体化して、ガマガエルのような容姿をした保住大臣を発見していた。
廊下をふんぞり返りながら、歩く保住に隊列を乱さぬまま、隊員は銃を構えた。
「・・フン、まったく。ごみくず以下の分際で、ワシを捕えようと言うのか。」
「黙れ!俺達の要求を飲んでもらうよう。俺達の人質となってもらう。・・・こっちに来い!」
「ゴミめ等が」
隊員の前に、一人の女性が立ちはだかり、右手には大きく反り上がったナイフを手にしていた。
「構わん!撃て!」
隊員は女性に向けて引き金を引いた。銃口から弾が飛び出し、女性に向かって飛んでいく。
だが、女性は、構えたナイフで、その弾丸を全て切り落とした。
何が起こったのかわからず隊員達は、どよめくが、下に転がる二つに割れた弾を見て「化物か」と言葉を出し、再び引き金を引いた。
女性は、今度は弾を切り落とし、弾丸を避けながら、隊員達に近づき、横一線に並ぶ隊員の一人にナイフを突き刺した。
「ば、馬鹿な・・」
最後の隊員がそう呟き、倒れた頃には、壁には血が飛び散り、女性の顔にも隊員の血が飛び散っていた。
「風。帰るぞ、案内しろ」
スキンヘッドの保住は、血まみれの女性の横を通り過ぎ、下に転がる死体をワザと踏みつけるかのように、廊下を突き進んでいった。
保住の態度に風と呼ばれた女性は、全く表情を変えずに、軽く一礼し保坂に付いていった。
「これは一体・・どういうこった?」
築地は、大きな包丁を背中に背負い、会場にやってきたが、見るも無残な光景に目を奪われていた。
「一体全体、どうなってるんだ?」
目の前の光景に、目を奪われながら築地は会場の中央へと進んだ。
「これは・・・・」
下には、緑の肌をした人間の死体や、食い散らかされた人の死体が転がっていた。
「なんじゃこりゃーーー!!・・最っ高じゃねぇか!」
ステージに上がり、胸にナイフが刺さった男を邪魔と言わんばかりに蹴飛ばし、大きな声でそう叫んだ。
「おぃ~なんだよこれ。俺のオンステージって奴か~おぃ。やばいよ、やべーよ。・・・いいねぇ、こういう展開、怖くてスキップしちまいそうだ。」
足取り軽やかに、築地は足踏みし、会場の出入り口へと向かい、扉を開くと緑の化物が群がっていた。
逃げ切れなかった客を喰い散らかし、もはや死体は、人の形すらしていなかった。
「おぅおぅ、やってくれるじゃないの。」
築地の顔には笑みがこぼれ、化け物どもに向かって、怒涛の声を上げながら背中に刺してあった包丁を両手に掴み、切り込んでいった。
「正也、君は生物学を専攻していると言ったね。」
「・・・あぁ、主に細菌やウイルスについて学んでいる。」
二人が、正也達に合流し、再び歩き始める集団で前を歩く正也に、藤原は声をかけた。
「仮にだ。・・・全員が、感染してたとして、何故発症する時間帯がずれる?これは明らかに、見た事がない症状だ。抗体が無い我々にとっては、百%感染するんじゃないのか?」
「簡単な事だ。人間すべてが同じように行動する訳じゃない。・・例えば、肉類を食べた人間と魚類を食べた人間では、発症する時間帯がずれる事がある。もしくは、何らかの行動を行った場合に感染する物だってある。HIVなんかは、主に性行為で感染する。・・・今回のウイルスで発症の危険性がある行為は、食す事だ。あの怪物が常時、共通して行う事は、食事だ。」
「馬鹿な・・・なら、俺達に餓死しろと言うのか?」
「これは、あくまで推測だ。・・・現に俺だってパーティ会場で飯を食ってた。だが、まだ発症はしていない。」
「なら、このウイルスはどこから来た?ルートはどこだ。」
「わからん。誰かがウイルステロを行ったのかもしれない。・・・どっかの誰かさんみたくな」
正也の嫌味な発言に顔を歪ませるが、藤原はそれを噛み殺した。
「問題なのは、感染ルートだ。」
「感染ルート?どうやって次の人に移すかという事か?」
「あぁ・・・飛沫感染なら、何とか防げる。だが、これは明らかに空気感染だ。防ぎようがない。俺達がいつ発症してもおかしくないんだ。」
「俺達も、そのウイルスを体の中に持っていると言うのか?」
「そうだ。つまり、俺達は歩く病原菌なのさ。歩けば歩くだけウイルスを撒布する」
「そうか・・・なら緑の発疹が出ていてもおかしくはないのか・・・」
意識して距離を置いていた西田に申し訳ないと思いため息を漏らす藤原。
「何?・・・発疹があるのか」
「いや、俺じゃない。西田さんだ。」
正也は、藤原の言葉を聞くと、方向転換し、人だかりを割って行った。
その光景を目にした仁志と由美は、正也の顔が恐ろしくなっている事に気が付き、正也の後を追った。
「西田さん!」
後ろを警戒する西田に、正也は声をかける。
だが、本人が自覚していない事を伝えるのを忘れていた藤原は、正也を止めようとするが、それを振り切って正也は西田に近づいた。
「発疹が、あるんですか?」
「発疹?何の事だい?」
「とぼけないで下さい!」
かなり力の籠った声に西田は驚き、藤原は正也を止めようとする。
「止せ、正也!・・・西田さんは知らないんだ。俺の見間違いかもしれない」
「だったら、今確認しましょう。」
西田は何を言っているのかわからない状態で、藤原に袖を捲ってくれと頼まれ、西田は言われるがまま、袖をまくった。
捲られた腕には、小さかったはずの発疹が、今では楕円形に広がり、手のひらサイズにまで成長していた。
「藤原・・・これが見間違いだって言うのかよ。」
「そんな・・俺が見た時は、虫刺され程度の大きさだった。」
西田本人も、自分の体に異常がある事に今気付き、その場に膝まついた。
「第二症状だ・・・。」
西田がそう呟き、正也は西田から銃を取り上げた。
「西田さん。あなたも医療を専攻してた身だ。・・・俺が今からする事、許してくれますか?」
「・・・・あぁ。・・・あぁ嫌、駄目だ。」
二人の会話に付いていけない藤原。
そして、後ろで西田の腕にある大きな痣を目にした由美は、叫ぼうとする自分を抑え込み、口を抑え、仁志は、自分の痣と同じ症状の出ている事に胸が締め付けられた。
「おぃ、正也。何する気だ。俺にわかるように説明しろ。」
「簡単です。・・・ここで西田さんとは、お別れです。」
そう言って正也は、銃を西田に向けようとする。
その行動に、藤原は思わず正也の構える銃口を上に向けた。
「馬鹿っ!何考えている!」
「このウイルスは、進化型だ!・・・第二症状が出ている奴がいるんだ。一緒に行動する訳にはいかない!」
「進化型だと?何言ってるんだ。」
「このウイルスは、体内に入って変化してるんだ。初期のウイルスは、人の肌を緑にし、化物に変えた。そして、第二症状がこれだ。発症する前に、潰すしかない!体内にいる状態が一番、ウイルスが死滅しやすいんだ。このまま西田さんが、発症でもしてみろ!被害は拡大する!どんな症状が出るかもわからないんだぞ!」
言い争う二人を沈めたのは、西田だった。
「私の体を縛ってくれ。」
「なんだと?」
「私も医療を専攻していた身だ。どのような症状が出たのか、逐一、君達に報告をしよう。」
「どうやってだ?」
「誰かのパソコンとリンクさせる。私の声でメモ書きが出来るように」
西田の提案に、仁志のパソコンと西田のパソコンを繋げ、手足を縛った西田を正也達は、その場に放棄し、先へ進んでいった。
『・・・体の発疹は遂に全体に及んできた。食欲に絶えず襲われているが、手足が縛られているお陰か、まだ意識はハッキリとしている。おそらく、私の推測だが、やはり食べる事が意識を失う最大の分岐点なのかもしれない・・・・あぁ、最悪だ。化物がやってきた。』
仁志のパソコンには、西田の悲鳴が最後に聞こえ、音信は途絶えた。
「感情なんて、ここでは無意味さ・・・。」
「あし~たが、あるっさ明日がある。若い~僕に~は、夢がある・・・とく~にないよ。意味~がないよ。れい~ぞうこの中だから~・・・いい加減出しやがれ!」
遂にブチ切れた豪は、後ろにある壁に思いっきりパンチを喰らわせた。
冷蔵庫の外にも届くような音が響き渡り、調理場にいたある男が、その音に気が付いた。
「あぁ!もう、いい加減、俺だって怒るぜ!・・・なんで二話以上も冷蔵庫に籠りっぱなしなんだよ!・・・つーか何、二話って!何の事!?」
豪の叫び声は、冷蔵庫を虚しく木霊し、何の事?という言葉が、印象的に鳴り響いた。
「あ~、俺はもうここで死ぬんだ!・・今年で二十の大台を超えると言うのに、その前に俺は死ぬんだ~。」
『死を求めるか。生を求めるか。』
豪の心の中に誰かの声が響き渡る。
「なんだ?遂に幻聴まで聞こえるようになっちまったか?」
『生を求め、死ぬも又良しか』
「いやいや、良くないだろ。」
『ならば死してもなお、生を求めるか。』
「ん~どうだろうな。死んでみないとわからねぇからな・・・」
豪の答えに、頭の中の住人は「フフフフ」と笑い始める。
『死してから答えを求めるか、それもよかろう。』
「俺って心の中で、なに哲学気取ってんだよ。・・恥ずかしっ」
心の中からの返事はそれ以降なく、再び替え歌を歌い始めようとする豪だが、冷蔵庫のドアノブを誰か触れる音が、聞こえた。
「えっ、マジ?」
ようやく冷蔵庫に誰かが、食材を求めてやって来たと思い、料理人の誰かが現れるものだろうと考えていた豪。
それが、例え巨人兵築地であったとしても、今のこのテンションであれば、喜んであなたに、ケツの穴を向けよう!・・・ごめん、それは嘘。
ガチャ・・・ギィィィ・・
「助かりました~。本当にありがとうございます!」
洋式のホラー映画で扉が開かれたにも関わらず、豪は頭を深々と下げ、頭を上げるとそこに立っていたのは、調理服姿の誰かではなく、黒いレインコートを頭から被る築地よりも大きな男だった。
「あ、あの・・・助けてもらって、言うのもなんですが、ここって関係者以外、立ち入り禁止なんですけど・・・」
頭からかぶったレインコートの下から見えた彼の顔は、緑色の肌をし赤い瞳が、豪の姿を見てニヤリと笑っていた。
「ま、まぁ・・・もしかして、迷子みたいなものですかね?自分も、ちょっと自信がないですけど、道案内くらいは、しますよ。・・・って、暗!」
当たりの電気は落ち、ある光と言ったらやけに大量にある非常灯の電気ぐらいだった。
「ほぉ、私の姿を見ても動じずか・・・」
男の言葉に、肩をすくませる豪。
「だったら、俺の顔の傷を見て、何も言ってこない、あなただってそうでしょ。」
「フフフ・・そうだったな。」
心の中で聞こえた幻聴と同じ笑い方をする人だな・・・
豪は首をかしげながら、男の姿を見て黒いレインコートに何やら液体が付着している事に気が付き、目を凝らし始める。
「んん?」
黒いカッパにこの暗さ、うまく見る事が出来ないが、昔、自分の学生服が血まみれになった事を思い出し、男のカッパに付着している液体が、血だと言う事に気が付いた。
「これ・・・血ですか?」
豪の問いかけに「フフフフ」と笑いだす男に、不信感を抱き始めた。
じっくりと見ようと豪は、カッパに顔を近づけ、目を細める。
そんな中、男は豪に顔を近づけ、匂いを嗅いできた。
「フフフフ・・・いい匂いだ。」
「えっ・・・」
築地といい、今回の男といい、自分には、そっち系の男が群がりやすい体質なのだろうかと心を痛める豪。
「ハッ・・・まてよ。」
先ほど、もし築地だったらケツを向けると言った事を思い出し、体を強張らせる豪。
「フフフフ・・何を怯えている。」
「えっ・・・何ってそりゃ・・。俺、そっちには興味ないんで・・」
「フフフフ・・何を言っている。」
そう言いながら、男は豪に歩み寄り、豪は思わず後ろに後ずさりし始める。
「いや・・・・ケツだけは勘弁して・・俺は、掘られるよりも別の性別を掘る方が興味あるんで・・」
下に置かれた段ボールに足を取られ、転ぶ豪。
そんな豪を見下ろす男は、レインコートの中をモゾモゾと探り始める。
えぇっ!まさか、おもちゃ携帯!
「これをお前に託そう。」
男はそう言うと、豪の足元に漆黒の色をした日本刀だった。
「私にも抜く事が出来なかった。代物だ。・・・さぁ、手に取ってみろ。」
「・・・えっ?」
「答えを探してみろ」
「答え?」
「そうだ。」
足元に置かれた刀は、黒々と光り輝き、周りの光を吸い込むかのように暗黒を現していた。
しかし、何故だろう。先ほどから妙に体がだるかったが、刀を目にすると、体が軽く感じられる。
刀からは異様に魅力を感じ始め、豪は気付かない間に刀に手を伸ばしていた。
「その刀は、人の魂を喰らう。主はどうだ。喰われるか、喰い散らすか。」
男の言葉は耳にも入らず、刀に魅了され、我を忘れていた。
豪は、刀を手にし、柄の部分を力強く掴んだ。
「ヌッ・・」
柄を掴んだ途端、豪の体の中に、何かが流れ込んでくる気がした。
豪の柄を掴んだ右手を放そうとするが、手は離れず、手には毛細血管までが肌の上に浮き出し始めた。
痛みに豪は耐えようと声を洩らし始める。
浮かび上がった血管は、次第に腕から体全体に回り始め、声を耐え忍んでいた豪は、体中に走る激痛に声を荒げた。
「だぁああああぁああぁぁーーー!!」
苦しむ豪を見て、男の笑みはさらに深く刻み込まれる。
「さぁ、答えを探せ。そのためには一度死ぬ事だ。」
豪は、叫び声を出し続け、体をくの字に折り曲げ体の激痛に耐えようとする。
だが、豪の心の中に入り込んでくる人の叫び声、そして恐怖、痛み、どんなに耐え忍ぼうとそれを防ぐ事は出来なかった。
「だぁあぁああああ・・・アッハハハハハハっ!」
豪の叫び声は、次第に笑い声へと変わり始めた。
豪の反応を見て、男は眉をひそめた。だが、豪の高笑いに近い笑いに男も笑い声を出し始める。
「フフフフ・・・苦痛を笑いに変える男か、面白い」
男は、コートの袖から二丁の銃を出し、両手に構えた。
笑い声の止んだ豪は、しばらくの間、仰向けに倒れたまま動く事はなかったが、一度体をビクンと大きく痙攣させると、まるで糸に吊るされるかのように、両手をダラリと垂らしたまま、豪は立ち上がった。
豪の顔からは表情を読み取ることが出来ず、男の方に振り返った豪は掴んでた刀を勢いよく横に引き抜いた。
「ヘッ、へへへ・・・」
豪の口からは乾いた笑い声が聞こえ始め、男は豪に向けて銃を構えた。
「さて・・・初期状態の貴様で、俺をどこまで楽しませてくれるだろうか・・」
男は、銃の引き金に力を込めた途端、豪は刀を両手に構え、冷蔵庫の中から飛び出した。
引き金を引く前に、襲いかかってくる豪に男は、横に飛び退き、その際に豪に向けて銃口を向け引き金を引いた。
豪は、飛んでくる弾に目もくれず、刀を数回振るうと、金属同士がぶつかり合う音が数回、調理場に鳴り響き、豪の足元には弾丸が落ちた。
「ヒャッハァっ!」
豪の口を引き裂くような笑みを作りながら、男に向けて走り出す。
男は向かってくる豪に向かって銃弾を撃ち込むが、それを全て見切り、豪の間合いに男を捕えた。
豪は調理場の狭い道で刀を大きく振るい、横に置かれたキッチンや調理器具を切り崩しながら、男に襲いかかった。
「素晴らしい。この刀を抜ける以外に、戦闘技術もある」
男もカッパの下で、豪の強さに喜びを感じ、笑みをこぼす。
豪の攻撃を全て見切り、台所の上や部屋を縦横無尽に使う男。
だが、豪は邪魔な物を全て切り崩し、男の後を追った。
「だが、まだ初期では甘いな」
壁に追い込まれた男はそう呟き、突き出される刀を伏せて交わした。
刀は、壁に突き刺さり、男は豪のがら空きの腹にひざ蹴りを喰らわせた。
「がっ・・・」
「俺を喰うには、まだ早い」
豪は力を無くし、その場に倒れ、男は「いいの物見つけた」と呟き姿を消した。