さぁ、殺し合いの始まりだ。
「会場にいる皆さん。我々は、協力的な方には危害は加えません。ですが、邪魔立てする方には、我々は容赦はしない。」
会場のステージにライトを当て、ブルーソルジャーの幹部だと名乗る男は、保住と鷲田の娘に出てくるように言ってきた。
武装集団は、テーブルクロスの下に誰かが隠れていないか探し、事実隠れていた奴は、中央に行けと指示していた。
「おぃ、やばいって・・・こっちにもそろそろ敵が来るぞ」
ホテルボーイの三人は、汚れたテーブルを片づけるふりをしながら、呟く。
「おぃ、お前等・・・そこで何をしている。」
銃を携帯した男が、こっちへとやって来た。
「いや~、俺達アルバイトの身でして、汚れたテーブルを片づけないと、上からきつく言われるもんで・・片付いたら、そっちに行きます。」
「そんな事はどうでもいい、さっさと中央に行け」
「そうは、言われましても・・・」
銃を突きつけられ、後ずさりする正也。
そして、後ずさりをする際に、テーブルに足がぶつかり、机の下から「ヒィ」と言う声が漏れてしまった。
「なんだぁ?」
「あぁ、馬鹿!」
男は正也を突き飛ばし、テーブルクロスを引き上げた。
「ひぃ、お願いだから撃たないでぇ!」
机の下に隠れていたのは、私服姿の仁志だった。
「なんだ、男か・・・お前等もさっさと中央に行け」
男はそう言うと、四人の前から去って行った。
「はい~。」
正也が、男に適当にそう答えながら、中央に移動し始める。
「案外、うまくいくもんだな・・・。暗闇だからってさすがに、あいつ間抜けだな。」
正也の呟きに「さすが演劇部」と冗談を吐く幸助。
「いや、俺も演劇がこんな所で開花するとは思わなかった。・・でも、一番開花したのは仁志だな。お前、演劇部はいらねぇか?」
「冗談でしょ。僕のあれは素だよ。」
「けど、仁志・・・お前、私服の上に制服着てて暑くなかったか?」
「えっ?だって着替えるの面倒でしょ。」
「まぁ今回はそれに救われたけどな・・・。大丈夫だ、由美。救助が来るまでの辛抱だ。」
白いドレスをテーブルの上に敷き、仁志の制服に身を包んだ由美は、正也の励ましに黙ってうなずいた。
「保住を発見しましたが、逃げられました。」
「なんだと、何をしていた!」
ステージに走ってやって来た部下に怒鳴り散らす幹部。
「それが、保住の部下が武器を所持していて・・・こちらに被害が出ました。」
「部下か・・・何人だ。」
「ひ、一人です。・・・それがかなりの使い手で、死者が四名、負傷者は八名です。」
「一人だと・・・。お前はそれで逃げて帰って来たと言うのか!」
「それが、残りの小隊で追跡を試みましたが、音信が途絶えました。」
新たな小隊を追跡に回せ!と部下に怒り、厨房からカートに大量の食べ物を載せてやってきた部下に怒鳴っていた。
「なんだ!その料理は!」
「い、いえ、料理を作っている奴が一人いまして、冷めちまう前に喰えって言われて、俺一人じゃ無理なんで、皆さんもどうかなって思いまして・・・」
「そこに置いておけ!それから、その料理人もこっちに連れてこい!」
部下は命令に従い、会場から駆け足で去り、幹部は「ったく、使えん奴等だ」そう言ってタバコを取り出し、火をつけた。
一服する幹部は、煙を吐き出すと同時に小さな咳を出した。
幹部が、咳を出したほぼ同時刻、中央に集められた人達にも数人。咳をし始める奴等が出てきた。
それは、幸助も同じだった。
「おぃ、どうした?幸助」
咳き込む幸助を心配し、正也が声をかけるが、「いや、大丈夫だ」と答えた。
「もうすぐだ。・・・地獄が始まる。フフフフ・・・ハーッハハハハハ!」
黒いレインコートを身にまとった男は、会場を見下ろすように下を覗きこみ、足元にはブルーソルジャーの死体がいくつも転がっていた。
「もうすぐだ・・。もうすぐ、極め切れる!」
築地はそう言いながら、素早く料理を作り、一人残ったブルーソルジャーに出来上がった料理を喰わせていた。
「もうこれ以上、喰えねぇよ!」
「やかましい!料理ってのは、食べきってようやく完成なんだよ!」
「そう言って、俺に何皿、チャーハンを喰わせた!たまにはデザートも出せ!」
声を荒げるブルーソルジャーも小さく咳を洩らした。
その頃、下にうずくまり、救助を待つ豪もまた、小さく咳をしだした。
「ぶぁっくしょい!あぁ!こんチキショウ・・。」
勢いよく、くしゃみをし、鼻を啜る豪。
「風邪引いちまうじゃねぇか・・・。」
体を折り曲げ、寒さを耐えしのぐ豪。
「おぃ、幸助・・・本当に大丈夫か?顔色が悪いぞ」
咳き込む回数が次第に増え、額からは脂汗がにじみ出し始める幸助。
「あぁ・・・ちょっと気分が悪くてな。」
そう言って前かがみになる幸助。
そんな幸助を心配し、背中をさすりながら声をかける正也。
咳き込むのは幸助だけではなく、客やブルーソルジャーの中にも数人、出始めていた。
「ねぇ、なんかおかしいよ。・・・幸助以外にも、咳き込む人がいる」
「そんなの関係無いだろ。・・・こんな状況なんだ、気分を悪くする奴だっているさ。」
心配症の仁志にそう伝える正也
「悪い・・・なんか腹減ってきた。」
「腹?・・・だったら、さっきブルーソルジャーの奴が持ってきた料理でも喰えばいいんじゃねぇか?」
幸助の顔色は、すでに血色を無くし、青白いと言うよりも緑がかっていた。
「そうだな・・・ちょっと俺、喰ってくるわ。」
ふらつきながら幸助は会場の隅に置かれたカートの方へ歩いて行った。
「あいつ・・気分悪いってのに飯なんて食って大丈夫なのか?」
正也と仁志が顔を見合わせる中、由美は顔を下に俯いたまま体を震わせ、その由美に気付いたブルーソルジャーが声をかけた。
「おぃ、そこの!」
「やば・・・」
さらに体を震わせる由美。
近づこうとするブルーソルジャーの前に正也と仁志が立ちはだかる。
「いや、違うんですよ。こいつ、こうホテルの仕事に慣れてなくて・・ちょっと具合が悪いだけで・・」
二人を銃先で払いのけ、男は、由美の前に立ち、「顔を上げろ」と強い口調で言ってくる。
上げるな・・・と心の中で、思う二人。
由美は、恐る恐る顔を上げ始め、男はそんな由美の顔にライトを向けた。
ガシャーン・・
会場で、食器が大量に割れる音が鳴り響き、由美にライトを向けていた男は、何事かと音が出た方にライトを向けた。
そこには、幸助が食べ物を食べに、行った場所で、他にも食料を食べに向かっていた人が群がり、カートを倒していた。
「な、なんだよ・・あれ。」
地面に転がる食べ物を手でかき集め、乱暴に口に放り込む。
それは、幸助も同じだった。
「お前等!何している!」
男は銃先を、向け、食料をあさる人達に、中央に戻れと指示を出すが、全く聞き入ろうともしなかった。
男は、見せしめに銃を上に向けて威嚇射撃をしようとするが、群がる人の中に仲間がいる事に気が付いた。
明らかにおかしいと感じ始めた客からは声が出始める。
「おぃ、どういう事だ!・・俺達にはなにもしないって言ってただろうが!」
会場のステージに向けて声を飛ばすが、ステージに立っていたはずの幹部もまた、喉を押さえて苦しんでいたのだ。
「ハーッハハハハハ!!」
会場全体が恐怖に押し込められる中、ステージの上から黒いレインコートを身まとった男が飛びおりてきた。
「地獄だ!地獄の始まりだ。」
男は笑いながら、喉を押さえ苦しむ幹部の元へやってきた。
「お前の苦しみ方は、まだこいつ等には早い。」
そう言うと、大きなナイフを取り出し、幹部の胸に男は突き刺した。
悲鳴が会場全体を、包み込み、ブルーソルジャーの人達は、男に向けて発砲する。
男は目にも止まらぬ速さで、飛んでくる弾丸を全て交わした。
「なんだこいつ・・・」
男の異常さにソルジャー達は銃を撃つのをやめた。
「いいか!よーく聞け。ここにはあるウイルスが充満した。そして、初期の症状は咳、そして過剰なまでの食欲。そいつ等はすでに喰う事しか考えられない。」
ステージに立つ男は、大声で言い放ち、姿を消した。
「そして、こいつ等はすでに喰う事しか考える事が出来ない」
次に男が現れたのは、喰い物をあさる人達の前だった。
「この食材が、費えれば次に向かってくるのは、人間・・・お前達だ。」
男はそう言って幸助の首元を掴み、持ち上げた。
「幸助!」
正也が叫ぶが、その声は男には届いていなかった。
幸助は、男に首根っこを掴まれたと言うのに、苦しむ事はなく、なんと男の腕に噛みついていた。
そんな幸助の異常さは、行動だけではなく、顔色は完全に緑になり、目はどこを向いているのかわからなくなっていた。
「こいつ等は、四肢を切り取られようが動く。・・・お前達に助言してやろう。この化け物を殺す方法はなっ!」
男は大きな鉈をレインコートの中から取り出すと、大きく振り上げた。
「やめろーーーっ!」
正也が叫び、仁志は目を覆い隠した。
「首を切り落とす事だ!」
男はそう叫び、鉈を幸助の首元目がけ、振り下ろした。
「なぁ、早くしてくれよ。料理まだかよ」
野菜を切り刻みながら「もうすぐだ」と築地は呟き、顔色が緑に変わりつつある男は、料理の完成を待ち望んでいた。
その男の足取りも、ふらつき、立っているのがやっとの状態だった。
肉の塊を、包丁で砕き、築地は「極める」と言う単語を繰り返していた。
そして、料理を完成させた築地は「極めたぁ!」と大声で叫び、料理を男の足元に投げた。
男はそれに食らいつき、マナーも関係なく犬食いでその料理を喰い散らし始めた。
「遂に極めた・・・。もう料理なんてしなくていいんだよな。オィ・・・次は何にしようか?」
築地は自分の満足感を満喫しながら、へらへらと笑っていた。
「駄目だよ。おぃ・・・それはやばいって。俺ってヤバイって・・でも、我慢できねえ」
調理場に置かれた中国包丁を手に取り、飯にがっつく男の首根っこを掴み、調理場に男の顔を叩きつけた。
「次に極めるのはな・・・」
「お、おぃ・・なん考えてやがる。」
まな板の上に男の顔を乗せてる築地の目は完全にいかれていた。
中国包丁を高高くあげ、叫び声を上げる男に関係なく包丁を振り下ろした。
銀色の台所は、男の血で赤く染め上がり、築地は痙攣を起こす体を乱暴に投げ「まだ、考えなくていいや。」と呟き、料理場から出ていった。
会場には、恐怖の悲鳴が響き渡り正也は、首を切り落とされた友人を見て恐怖に叫びながら、その場に腰を下ろした。
「いやーーーっ、幸助!・・幸助!」
由美は、指の隙間から幸助の首が飛ばされるのを見て、ヒステリックを起こし、仁志は完全に目をつぶり、その場で頭を抱え込んでいた。
「さぁ、人間。俺から言えるのは以上だ。頑張って生き残れ。」
男はそう言うと、「楽しい殺し合いの始まりだ。」と言葉を残し、姿を消した。
男の言葉を合図に、中央で怯えていた人達は出入り口へと、走り出した。
ブルーソルジャーも自分の持ち場を離れ、走り出し、数人が持ち場を離れるな!と叫ぶが、事態の収拾が無理だとわかり、逃げ出す人達に混ざって行った。
「正也!由美!・・俺達も逃げよう!」
ヒステリックを起こし、その場で硬直する二人を無理に立たせ、仁志達も逃げ惑う人達の集団の後を追った。
その頃、何も知らない豪は、自分を勇気づけようと、24時間で100キロを走る人を勇気づけるために歌う歌を歌い
「なんで、俺が24時間も走らなくちゃ、いけないんだよ!」
と自分に突っ込みを入れていた。
西暦20XX年、バブルが弾け経済不況に陥るのを合図に、中央政権は地方分権を名乗り、責任転換を行った。
道州制がスタートし、地方は各々の判断で、育児や教育、消費税やなんとやらの課税方法を組み換え、国民は、住みやすい場所に移動を開始した。
ほとんどの人間は、安い方、住居の数が多く、住みやすい方を目指し、中央へと移動した。
始めはそれでよかったかもしれない。だが、年月が経つにつれ、中央は付けが回り始め、衰退の一途をたどり始めた。
原因は食料自給率である。人が集中しすぎ、海外や中央外からの輸入に頼っていた中央では、次第に物価が上昇し、キャベツ一つがなんと2千円にまで上った。
その分、所得が上がりはしたが、食材の高さに、主婦達は家計のやりくりをしなければならなかった。
そんな中、中央のお偉いさんが、高い水や高い食材をまるで、普通の喰い物かのように、自分のペットや自分で食べる映像を取られ、経済格差の廃止を求めストライキを起こした。
下が動かねば、上はどうする事も出来ない。
中央の経済力は一気に落ちた。
さらに追い打ちをかけるかのように、北海道と北東北地方が協定を結び、中央を捨てて、自分達で輸出入を繰り返すと言った経済対策を取った。
中央の物価はさらに上昇し、記事になったお偉いさんは、海外に逃げ、中央の崩壊は秒読み状態となった。
北の地方を合図に、四国や九州、沖縄までも中央を見捨て、経済の安定を志した。
中央は、すでに衰退し、中央にいた国民は、地方に逃げようとするが、どこの地方も受け入れを拒否し続け、中央にいた人間は人間以下の生活を余儀なくされた。
中央では、それに付け込んだマフィアやヤクザに支配され、暴力が支配し始めた。
中央政権の時代は、経済不況の狼煙を合図に、終了した。
北と南に分けられた日本。そして、中央に置き去りにされたゴースト達。
ゴースト達は、武器を持ち、レジスタンスとして北と南に、解放を求めるよう、活動を開始した。
今回、ホテルを襲撃したブルーソルジャーも、関東で旗を掲げ、南や北関係無く、襲い続けていた。
小学生の頃は、そんな事になっているとは知らず、高校に入り豪達もそれを学んだ。
そして、由美の父親も実は、中央から逃げ出し、北にやってきた事は高校生になってからようやく気付いた。
「はっ!」
昔の思い出を懐かしむ余裕のある正也がようやく意識を取り戻した。
「正也、ようやく気が付いた。」
仁志は、正也を背負い、集団の後ろの方を走っていた。
「・・・ここは?」
辺りは我先に、逃げ惑う人達ばかりで溢れかえり、仁志の横には由美の姿もあった。
「電気が入ってないから、エレベーターも全部駄目になってるんだ。・・・とにかく地上に出ないと。」
仁志は、意識を取り戻した正也を下ろし、「少し休憩」と腰を下ろした。
「正也。・・・煙草持ってない?」
「持ってる訳ないだろ。」
「私、持ってるよ。」
そう言って由美は、煙草を取り出し仁志に渡そうとするが、二人は目を丸くして由美を見た。
「女性の奴しか持ってないけど・・・・どうかした?」
「い、いや、意外だなって思って・・・。」
「そぉ?私は、仁志が吸ってる方が意外だったけど。」
「まぁ、こいつの家は全員、ヘビースモーカーだからな。」
正也はそう言いながら「意外だ」と呟き、仁志は由美から煙草を受け取った。
「これ・・・夢だよね。」
煙草を口に咥えながらさっきあった出来事を思い出していた。
「あの後、全員が動き出すと同時に、緑色になった奴等が襲いかかって来たんだ。・・・正也を背負って逃げれたのも、奇跡だよ。」
「それに・・・幸助の死体も・・誰かが食べてたわ・・・。」
由美はそう言いながら、その光景を思い出し思わず口を抑えた。
「幸助・・・。」
「よし、ここにいる奴等。みんな聞け!」
後ろのグループで、立ち止っていた奴等にブルーソルジャーの一人が、やってきて声を上げた。
「とにかく、ここを脱出することが先決だ。俺達で武装するんだ。この中に銃を扱える奴はいないか?」
男は自分の持つサブマシンガンを地面に置き、自分はハンドガンを手に取った。
「あのヤロ・・・」
正也は幸助が死んだ事や由美を拉致ろうとしていた奴に怒りを表すが、仁志と由美がそれを抑えた。
「止めよう。今は感情に流されちゃ駄目だ。・・・それに俺達もあの人に助けられたんだ。」
正也は、仁志の言葉に怒りを抑え、誰も手を上げない中、正也が手を上げた。
「猟銃なら、扱った事がある」
「そうか・・・。名前は?」
「梶原正也だ」
「俺の名前は、藤原 真矢だ。真矢と呼んでくれ。」
「止せよ。俺は、仲良くなんかなりたくない。その背中に背負ってるライフル銃をよこせ。」
頭に迷彩柄のバンダナを巻いた藤原は、正也の態度に顔を歪ませながら、背中に背負っていたライフルを正也に渡した。
「他にはいないか?・・・女子供を守ろうとする奴はいないのか!」
その言葉に、スーツ姿のおっさんが名乗り出た。
「わ、私は・・1年間、自衛軍に所属していた。主に医療が専攻だったが、・・他にいないのなら仕方あるまい・・・」
「名前は」
「に、西田・・・正弘だ。」
「銃の扱い方は?」
「か、かじった程度だ。・・・銃が怖くて、自衛軍から去った。」
藤原は、西田にサブマシンガンを渡し、扱い方を教えた。
「よし、先行は正也・・頼めるか?」
「・・・あぁ。」
「後方は、俺と西田さんでする。・・・とにかく、上を目指そう。」
藤原の指示で、ライフルを持った正也が、前に立ち、その後ろに仁志や由美と言った非戦闘民が、集まり、後ろには西田とハンドガンを持った藤原が立った。
正也の先導で地下に掘られたホテルの上を目指す中、後ろでは藤原と西田が話をしていた。
「すまないな。後ろに付かせてしまって・・・おそらく、あの化物が先に来るとしたら、後ろからだ。」
「いえ、・・・私も、46です。若い人が、生き残った方がいい。」
「そうだな・・・俺も30だ。ブルーソルジャーに入って、知らない間に、こんなに年を喰ってしまった。」
藤原は、自分の胸に装備していたナイフを取り出すと、前を歩く仁志に声をかけた。
「おぃ、そこの。」
「はい・・・。」
「受け取れ」
そう言って藤原は、仁志にナイフを投げ渡した。
「あの・・・これは?」
「持っていろ。気休めぐらいには、なるだろう。・・・横にいる彼女を守ってやれ」
「えっ?」
カップルだと勘違いされた仁志と由美は、なんとか誤解を解こうとするが、その対応が後ろを歩く二人には、仲睦まじいカップルに見えていた。
そんな中、先方で何やら悲鳴が上がるのが聞こえた。
正也は、足を止め、銃先をまっすぐに伸びる廊下へと向けた。
廊下の突き当たりから聞こえた悲鳴は断末魔に変わり、突き当たりの廊下から転がって来た女性が、緑色に化けた人間に襲われている所だった。
「そんな・・・前にはいないはずだ。」
悲鳴を聞きつけやってきた藤原は、正也同様、銃を先に構えた。
「なに勘違いしてんだ。あんた?」
正也は、横で銃を構える藤原に声をかけた。
「何を勘違いしてるって?」
「あの黒カッパが言ってただろ。・・・これはウイルスなんだ。」
「何が言いたい。」
「わかんねぇのか?・・・感染してんだよ。」
突き当たりの廊下からからは、四足歩行をする緑の人間、二体が、こちらに気付き、両頬が垂れ下がった化物からは赤く滲んだよだれが、垂れ流されていた。
「・・・わかった。正也の推測があっているとすれば、この後も発生する者が出ると言う事か?」
「前の奴を見て、わかるだろ。・・・推測じゃねぇ、確証だ。生物学専攻を舐めんなよ。」
緑の怪物は、一気に駆け出し始めた。
「その事については、後回しにしよう。・・・・撃てるか?」
「撃てなきゃ、銃なんて貰ってねぇよ。」
そう言って正也は、怪物に向かって引き金を引いた。