脱出ゲーム
何もない小さな村で俺達は、何も無いながらに楽しく遊んでいた。
貸し切りの状態の道路を、駆けっこに使い。草むらが生い茂る場所で、かくれんぼや、鬼ごっこ、ボールがあればサッカーやドッチボール・・・。
両親は、汚れてもいいように、ランニングシャツに黒い短パンを子供達に履かせ、子供達はお揃いの服で、村を駆け巡っていた。
「豪ちゃん。あれ・・・」
気の小さい少年、笹谷 仁志が、リーダー格の真西 豪に話しかけ、指をさしていた。
その方向にいたのは、俺達のように汚れた服で村を走り回る村っ子ではなく。
純白のワンピースを着て、帽子を被り、見知らぬ村にやって来た所謂、都会っ子だった。
「誰だべ?見ねぇ顔だな」
思わず見とれていた豪に、隣の家に住む加畑 淳が話しかけてきた。
「さ、さぁ・・・でも綺麗な人だな~。」
「「そうだな~」」
男五人が、ボケ~っと見つめる中、少女はこちらに気付き、男五人は気付かれた事に体を強張らせる。
少女は、そんな汚れた五人に微笑みかけ、五人はまるで蕩けるかのような微笑みに蕩けてしまった。
「ホラっ、早く昇ってこいよ。」
気が付けば、その綺麗な少女も、汚れた五人の仲間入りを果たし、今は木登りに挑戦していた。
「そこに足を置いて、手ぇ伸ばせ・・・俺が引っ張ってやる。」
白いワンピースは、すでに草や土にまみれ、都会っ子も村の仲間入りを果たしていた。
少女の伸ばした手を取り、豪は勢いよく引っ張り上げた。
「ここに腰掛けて・・・どうよ。凄くね?この木に登れば、村が見渡せるんだ。」
少女は恐る恐る、目を開くと、田畑や集落が広がる光景に「すごーい」と声を洩らしていた。
「ここ、俺達の秘密基地なんだ。・・・由美ちゃんもだから、みんなには内緒だよ。」
仁志が、豪や鷲田 由美が座る枝の上から頭を逆さまに出し、由美に話しかけてきた。
「うん!・・・お父さんに言ったら、きっと腰を抜かしちゃうもん、きっと。」
「・・・お父さん、まだ仕事には戻れないの?」
村では、情報漏えいはかなり早く、少年達の耳に入るのも時間の問題だった。
親から聞いた話だと、かなりいい話ではなかったが、少年達にとっては理解できない内容だった。
「うん・・・でも、私、ここの方がとっても楽しい。外ってこんなに気持ちいって知らなかったもん!」
足をばたつかせ喜ぶ由美に、五人も喜び、こんな時間がずっと続けばいいと思っていた。
小さかった少年達も中学生になり、進学の話や色恋沙汰が巡ってくるのは時間の問題だった。
「私・・・淳に、告白されたの。」
学生服を身にまとい、柔道で汗を流していた豪に、あの秘密基地で由美にそう告白された。
中学卒業と同時に、由美は親父さんの移動に付いて海を渡る事が決定したのだ。
「そうなんだ・・・。よ、よかったじゃん。淳はあいつ、野球部で部長もやってて、頼れる奴だよ。さすが、俺の親友って感じかな?」
「違うの。私は、そういう事を言ってほしいんじゃなくて・・・」
「それにさ・・・淳は結構女子の間でも人気あるだぜ。」
「もう!淳、淳、淳って・・・私は、豪の気持ちが知りたいの!私、もう離れ離れになっちゃうんだよ!もぅ会えないかもしれないんだよ!」
「お、俺は・・・・」
自分の気持ちに正直になれない豪は、体を震わせながら縮こまってしまった。
「もぅ!豪の馬鹿!」
由美は木から飛び降り「知らない!」と言い残し、秘密基地から去って行った。
引きとめようとする手が豪から伸びるが、その手は、完全に伸びきる前に、落ちてしまった。
好きだと言う言葉が、これほどにも重く、そんな単純な、一言で人を狂わせるとは思ってもいなかった。
その出来事は、由美が中学卒業と同時に襲いかかり、豪は唯一無二の親友を失ってしまった。
「ああああぁぁあっ!」
豪は、自分の片眼に激痛を覚え、目を両手で抑えながら、その場で倒れ、更に襲いかかろうとする淳を仁志や、他の二人に抑え込まれている光景を豪は生き残っているもう片方の目で捕えていた。
『本日は、当ホテルで知事の誕生祭を迎える事が出来、大変喜ばしく思います。』
大きなホールに大量のテーブルが置かれ、その上には見た事のない料理がぎっしりと敷き詰められていた。
「おぃ、あれ!・・・テレビで見た事あるぜ。」
「馬鹿!・・・そんな事より、これ燕の巣だよ。ぜってぇそうだ!」
人よりも料理に目が向く蒲原 正也。そして、芸能人を見て興奮する志村 幸助は、ホテルボーイの正装に象られた仁志に注意を受けていた。
「ちょっと、俺達はお客さんじゃないんだからな。・・・俺の紹介で、せっかくバイトさせてるのにそんなんだったら、給料払われないぞ。」
「わ~かってるよ。仁志~。」
そう言いながら、正也は料理を一つ取り、仁志の口に突っ込んだ。
「どぉ、おいしいだろ?」
「うん、おいしい。・・・じゃない、俺まで同罪にするつもりか!」
「ちょっとぐらい、女性を見てはしゃいだって罪にはならないだろ~。仁志」
そう言いながら、幸助までも仁志の上に乗っかってきて、バランスを失った仁志は、そのまま倒れ込んだ。
「いててて・・・何すんだよ!」
そう言ってテーブルクロスを掴んでいたつもりの仁志は、女性の悲鳴に驚き、掴んでいるのがテーブルクロスではなく、女性のドレスだと気付いた。
「わ、わわわ・・・申し訳ございません!」
仁志の謝罪に女性はビンタで返し、赤い後を頬に残した仁志は、原因となった二人を睨みつけるが、ちゃんとした接客を行っていて、怒るにも怒れない状況だった。
口を尖がらせて拗ねる仁志を見て、二人は駆け寄って来た。
「悪かったよ。お前のお陰で大学の生活費を稼げてるんだ。仁志、お前には感謝してるんだぜ。」
「そうだよ。仁志・・・ただ昔から、チョ(いじる)したりするのが、面白いからしてるだけでさ・・・」
幸助の言葉に「そうそう」と頷いて見せる正也。
「そのチョされるのが、俺は嫌なの!」
仁志の甲高い声の怒りに、二人は声を上げて笑い、二人の態度に怒る気も失せる仁志。
「あぁ~あ、豪や淳がいればな~。」
落ち込む仁志に、二人は笑うのをやめた。
「おぃ、仁志。・・・豪と淳を一括りにするのは、やめろ。」
「そうだ。淳がした事を、お前は許せるのか?」
「でも・・・・二人はすごく仲が良かったじゃないか・・・」
指をいじりながら、仁志がそう言うと、幸助が仁志の頭を軽く叩いた。
「だとしてもだ。・・・豪は、あいつは何も悪くねぇ。それなのに淳が・・・」
「おぃ、もうやめようぜ。そんな話・・・」
幸助の肩を叩き、正也が止めた。
「それに、豪が俺達がそんな話してたって聞いたら、悲しむぜ。」
「そ、そうだね・・。でも、豪も接客業に回されたりしないかな?」
仁志の言葉に、二人は一瞬黙るが、次の瞬間、大きな声で笑った。
「あいつが?・・・接客?」
「無理無理無理!・・・お前、あの顔で接客なんてしたら警察沙汰だぜ!」
笑いまくる三人に痺れを切らせたオーナーが「ちょっとこっちへ」と笑いながら案内されたが、心が笑っていない事に気付き、素直にお叱り部屋へと三人は入って行った。
静かな音楽が流れ会場は、静かなひと時を過ごしていた。
場所は一変し、厨房では新たな料理を急ピッチで作り、戦場と化していた。
「おぃ、パスタぁ!・・さっさと茹でろよ!」
「はい」
「注文入りました!」
紙を手渡されると、その注文を読み上げ、それに対し料理人は「おぅ」やら「はい」とか「なんで!」とかで返していた。
そんな戦場で、右目に大きな切り傷を作った真西 豪は黙々と、皿を洗いをし続けていた。
「注文入りました!」
「おぅ」「はい」「またぁ?」
皿を洗っても洗っても、次々と洗い物が増え、手が腱鞘炎を起こしそうになっていた。
洗い場には、豪を含め三人の作業員がいるが、どれも死にそうな顔をしていた。
「注文入りました。」
「おぅ」「はい」「勘弁してくれ」
料理人は、各々の担当料理を作り、大忙しだが、豪が目をやると、一人だけ暇そうにしている人がいた。
「おぃおぃ、なんで俺の所には注文来ないんだよ!」
そう言いながら、男は自分の前に置かれている調理台を蹴っていた。
もちろん、注文が来ていない訳ではない。まわりの人と同様に、注文は来ている。だが、彼はそれを難なくこなし、驚異的な速さで、料理として出してしまうのだ。
「注文来ました」
「おぅよ」「はい」「もう嫌だ!」
「あぁ!暇だ!・・・お前、そんなに嫌なら、俺と変われ!ちょっと休憩して来い!」
勘弁してくれと叫んでいた料理人を蹴飛ばし、男は上に張られている料理の品を作り始めていた。
そして、彼の驚異的な調理法に、周りからは嫌な目線が飛び、だが、彼の腕を誰もが認め、料理長ですら、彼の言動を注意することが出来ずにいた。
「君、手止まってるよ」
「あっ、すみません」
豪は、料理の方に目が行き、自分の仕事を少々放棄していた。
「君、バイトだよね。」
「えぇ、友人の紹介で・・・。他にも二名、接客の方に行っています。」
手を動かしながら、新米の料理人は、黙々と皿やフライパンを洗っていた。
「でも、君・・・凄い傷だね。その・・答えたくなければいいけど。・・あぁごめん、気を悪くしたかな?」
「あぁ、いえ・・・餓鬼の頃、転んじゃって。その時の傷です。・・・このせいで結構、高校時代は大変でした。」
「へぇ大学生なんだ。」
「えぇ・・・まぁ三流大学ですけど。」
「恋人とかは?」
おそらく場を和ませようとしているのだろう。だが、その言葉に一瞬、由美と淳の顔が思い浮かぶ豪。
「この顔ですよ。いる訳ないじゃないですか」
なんて笑って見せるが、心から笑っているのかは正直、自分でもわからなかった。
和やかになった洗い場だが、豪以外の新米料理人が何故か、蹴飛ばされた。
「どけっ、休憩に入ってろ。」
もう料理、完成させたのかよ!
豪の心の叫びが、見上げるほどの男に通じたのか、男は豪を見下ろしてくる。
「あぁ?・・おぃお前」
「は、はい・・・なんでしょう」
野太い声に圧迫感を覚える豪。豪もかなり長身の方だ。それなのにこの男は、豪をまるで小物扱いのように見下ろしてくる。
「いい匂いがするな・・・」
「へぇぇ?」
まさか、そっち系?
「名前は?」
「あっ、真西・・・豪です。」
「そうか・・・俺は、真城 築地だ。よろしくな」
「は、はい・・・。」
「お前等は、休憩行ってこい」
そう言われた二人は、急ぎ足で厨房から逃げていった。
待って!見捨てないで!
豪の叫びも虚しく、二人は厨房から逃げていった。
「おぃ、さっさとやるぞ。」
「はい・・・・」
豪は、隣の巨人兵に身を震わせながら、作業を続けた。
「おぃ、どうするよ。」
「好都合だ。俺達は作業に移るぞ」
先ほど出ていった新米料理人は、そんな事を口に出し、休憩部屋から出ていった。
「もうすぐだ。・・・この場所は地獄へと変わる。・・いや、地獄にしては生ぬるい。」
黒いレインコートを身にまとった人が、廊下を歩き、白い純白のドレスを身にまとった女性はその男と、すれ違い変な言葉を呟く奴だと首をかしげ、広場へと向かっていった。
白いドレスを身にまとい、螺旋階段を下りてくる女性はかなりの絵になる。
お叱り部屋から出てきた三人を励ますにはちょうどいいものだった。
「あれ?・・・・由美じゃね?」
幸助の言葉に二人は頷き、全員が由美だと確信した。
「おぉ~ぃ、由ぅ!」
仁志が手を振り、由美に声をかけようとするが、幸助と正也がそれを止めた。
「馬鹿か!呼んでどうする!」
「そうだよ。もし来たらどうするんだ!何て言うんだよ。絶対に豪や淳の事聞いてくるに決まってんだろ!」
「そ、そうだったね。ごめん」
落ち込む仁志。そして、螺旋階段から姿を消した由美を見て、一難去ったとため息を漏らす二人。
「あっ、もしかして、仁志と幸助と正也?・・・ウッソ、久しぶり~」
あぁ・・・神様~。
天を仰ぐ二人と能天気に手を振る仁志。
「えっ、えっ?なんでここにいるの?」
「俺達、ホテルボーイのバイト中なんだ。」
「そうなの?じゃぁもしかして、他のパーティの時もバイトとかしてたの?」
そうです。・・・だけど、由美にばれないようにコソコソしてました。と心の中で呟く二人。
「ねぇ、豪と淳は?・・・元気にしてる?」
やはり来た!どうする?どう対処する?
「うん、二人とも元気だよ。・・・最近、淳には会ってないけど、豪なら厨房でバイト中。」
おぉ!さすが能天気野郎!難なくすり抜けやがった!
「そうなの?私、豪に会いたいな・・・。」
そう言って厨房の方へ歩もうとする由美。
「「あっそれは・・」」
二人は、何て理由をつけて由美を引き留めようか、悩むがその前に能天気が「駄目だよ」と答えた。
「駄目だよ。今厨房は、大忙しなんだから、迷惑掛っちゃうよ」
「それもそうね。」
あぁ!神様、能天気野郎に神の御加護を・・・!
天を仰ぐ、二人・・・その時、
パァン
乾いた癇癪玉が、破裂する音が広場に鳴り響いた。
「おぅ、豪。ちょっとこの紙に書いてある物を、冷蔵庫から持って来てくれ」
巨人兵築地にそう紙を手渡され、皿洗いだったはずの豪は少々戸惑っていた。
「えっ、でも俺・・・肉の種類とかわかりませんよ。」
「大丈夫だ。肉は部位分けしてあるし、野菜は名札が貼ってある」
「わ、わかりました。」
巨人兵築地に気に入られた豪は、周りの痛い目を感じつつ、冷蔵庫へと歩いて行った。
休憩に入ったまま帰ってこない新米料理人の代わりに、調理をしていた料理人が築地に蹴飛ばされ「お前等、洗い場」と指示され、文句をグチグチと言いながら皿洗いをしていた。
「ったく、洗い場なんて何年ぶりだよ」
「くそっ、バイトのくせに・・」
そんな料理人に「ごめんなさい」と呟きながら、豪は大きな冷蔵庫へと入って行った。
さすがは、有名ホテルの冷蔵庫と言った感じで、大きな部屋にいくつもの肉の塊や、新鮮な野菜が並べられていた。
「うわっ・・・すっげ・・」
豪は少しくらいかじってもばれないよな?・・・とか思いながら、紙に書かれた食品を探していた。
「えぇっと・・・羊のもも肉って・・どれだ?」
寒い部屋で、目的の品を探しながら、冷蔵庫を行ったり来たりを繰り返す豪。
ようやく、全ての品を揃え、冷蔵庫の外へ出ようとすると、最悪な音が冷蔵庫内に響き渡った。
バタン・・・ガチャ。
「えっ?」
豪は、駆け足で出口に向かい、押し戸の扉を開けようとするが、開かない。
「えっ・・・マジで!嘘!」
扉を挟んで聞こえてくるの声に豪は身の毛もよだった。
「ったく、誰だよ。冷蔵庫開けっ放しにしてた奴。」
「まったくだ。衛生管理に悪いだろ。」
いやいやいやいや・・・ヤバイって!
「すみませ~ん、まだ中にいるんですけどぉ!」
何重にもなった保温室で、どんなに叫ぼうが、外には全く聞こえなかった。
「嘘でしょ!馬~鹿、馬~鹿!お願いだから気付いてください!」
閉じられた冷蔵庫は、上昇した室温を下げようと稼働し始め、その音に豪は「ヤバイ・・死ぬ」と呟いた。
「申し訳ありません」
一人のホテルボーイが、サプライズで準備していたクラッカーを中央で破裂させてしまったと頭を下げ、炸裂音の原因を説明していた。
「なんだ、びっくりした」
由美は、ホッと胸をなでおろし、幸助と正也もため息を漏らしていた。
「でも、おかしいな・・・今日はそんなイベント無いと思うけど・・。」
事実、クラッカーは最初に知事の挨拶が終わると同時に、全て鳴らし終えたはずだった。
首をかしげる仁志に幸助が飛びついた。
「一個残ってたから、間違ったとか言ってワザとあいつが鳴らしたんじゃねぇの?」
「いててて、抱きつくなよ」
「何を言うか、俺達、親友だろ。」
そう言いながら正也も仁志に飛びつき、倒れる様を見て「相変わらずね」と由美は笑っていた。
久しぶりに見た由美の微笑みに、三人は少年時代を思いだした。
「でも、懐かしいな。・・・中学卒業からだから・・・3年、4年振りか?」
指を折って数える正也。
「そうね。そんなぐらいかもしれないね。・・・みんなは高校時代どうだったの?」
「あぁ・・・みんな同じ高校に入学してな。」
続きを言おうとする幸助だが、淳の事を思い出し、言葉がつまった。
「何?どうかしたの?」
「いや・・・なんでもない。相変わらずのお調子もんで、高校生活も過ごしてました。」
正也の助言に幸助は救われた。
「あぁ、なんだか、簡単にみんなの高校生活が想像できそう。」
と由美は笑っていた。
「由美の方は、どうだったんだ?」
「私は・・・・女子高だったから、活発的な女子が一人だけ浮かれてた感じかな?」
「うわ~、浮いてたんだ。」
「まぁ・・ね。」
胸を張りながら、由美はそう言い、明らかに嘘を付いている事がバレバレだった。
本当に村の情報網は、どうなってるのだかわからないが、由美が高校生活を楽しめていないという情報は三人の耳にも届いていた。
「そういや、今度の夏休み、俺達村に帰るんだけど。由美も来ないか?」
「えっ?・・・あぁ、そうやって私にお酒飲ませて何する気?いやらしい。」
「馬~鹿。そんなことしないよ。」
正也は軽くあしらい。
「あっ、それはそれで、ちょっと残念かも。」
「じゃぁやってやろうか?」
との幸助の言葉には、
「それは、嫌」
と由美が答えた。
そんな中、会場の照明が全て落ち、会場はざわつき始めた。
「おぃおぃ、サプライズってこの事だったのか?」
正也が立ち上がりながら、辺りを見渡すと、会場の上のギャラリーで人が忙しく動くのが見えた。
倒れている幸助に手を貸して、正也は上の会場を指差していた。
「でも、おかしいよ。・・・そう言うイベントがあるなら、僕達にも伝わるはずだ。」
一番下になっていた仁志が、辺りを気にしながら、立ち上がった。
「だから、考えすぎだって・・・大体、仁志はな・・」
能天気なんだから、と言おうとする幸助の言葉を遮るように、癇癪玉が何発も会場に響き渡り、あまりの大きな音に、その場にいた四人は耳を抑えて、頭を反射的に下げた。
会場の人達は、イベントだと思い込み、面白おかしく叫び声を上げる声や、何やら思わしくない事が起こっていると思った人達はその場に伏せていた。
「みなさん。こんばんわ・・・・正義のブルーソルジャーです。」
スピーカーからは、そんな声が会場に響き渡り、ブルーソルジャーと名乗るレジスタンスを四人は思い出していた。
「ブルーソルジャーだって?」
「まさか・・なんでレジスタンスがここに?」
二人は、暗がりの会場で話し合い「まさか、ここに本拠地を置こうと・・」と連想する仁志に「ないない」と答えた。
「大体、知事はもぅここにはいないんだから、意味がないだろ。」
「もしかして、他にも政治に関係する人がここにいるのか?」
仁志は、袖をまくり上げ、コンピューターを立ちあげると、名簿記録を探した。
「・・・あっ、いる。北海道水産大臣の保住と、・・・金田知事の補佐、鷲田の娘。」
「由美・・・」
仁志の言葉に、三人は由美の方を見ると、由美は体を震わせ、その場に腰を付いていた。
その頃、厨房にも武装グループが突入し、料理人を確保し、その武装グループの中には新米料理人の二人も含まれていた。
「会場に集まってもらおう」
全員が、両手を上げ料理を中断し、武装集団に従う中、巨人兵築地だけが、料理を黙々と続けていた。
「おぃ、何をしている。・・さっさと歩け」
「あぁ?ちょっと待ってろ。今ようやく忙しくなったんだ・・・この料理が終わったら、すぐに行く。」
「おぃ、ふざけるなよ。」
「ふざけるぅ?・・・ふざけてんのはてめぇの脳味噌か?こっちは料理に命張ってんだよ。邪魔すんな。」
巨人兵に圧倒され「どうする?」と指示を仰ぐブルーソルジャー。
「仕方ない。・・・そいつが料理を終えるまで、お前はそこで待ってろ。」
側にいた二人に指示を出し、二人は嫌々、それを了解した。
一方、冷蔵庫に押し込まれた豪は、ブレーカーが落ちた事に、鼻水を垂らしながら喜び、外で一体何が起きているのかわからず。
呑気に卒業式に歌わされた蛍の光をうたっていた。
「ヒヤッホぃ、なんでか知らんけど、電源が落ちたって事は、これ以上、空調で温度が下がらないってことだ!・・・ってあれ?空調止まったら駄目だろ!窒息しちまう!」
糠喜びに終わった豪は、再び扉を叩き「誰か助けてーー」と叫んでいた
最後まで読んでいただきありがとうござます。
いかがでしたでしょうか?
これからも更新頑張ろうと思いますので、よろしくお願いします。
ご意見ご感想があればお待ちしています。