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恋愛小説集【企画ものも含まれます】

宰相の息子と将軍の娘

作者: ありま氷炎
掲載日:2024/12/27

 歴代宰相を輩出しているクレバン家の長男と歴代将軍を輩出しているブロリアン家の長女の婚約が結ばれた。これは最高の組み合わせと歌われもてはやされた。


 しかし、当事者からしたら堪ったものではなかった。


「だ~か~ら、親父無理だって。あいつ、めっちゃ頭いいから。わたしには無理!」


  武闘派一家であるブロリアン家の長女サイナは、婚約が決まってから毎日、父親に抗議していた。


「うん。わかるぞ。俺だってジョージが何を言っているかいつもわからん。あいつ難しいことばかり言うから」

「だったら!」

「これは王命なのだ。許してくれ、サイナ」


 サイナの父、将軍サエキは娘の肩を抱きながら、諭す。

 ちなみにジョージは現宰相で、クレバン家の当主だ。


「許せるか!」


サイナは父の手を掴み、ひねあげる。


「いたいぞ、サイナ!やめろ」

「じゃあ、婚約解消しろ」

「それはできぬ。王命なのだ。死んでもできぬ」

「親父は娘の気持ちより王命をとるのか!」

「すまぬ!」


手を捻られた痛みに耐えながら、サイナの父は譲らなかった。

国の軍部の頂点である将軍職のサエキにとって王命は絶対。それは多くの将軍を輩出してきたブロリアン家の娘であるサイナにはわかりすぎること。しかし、この婚約については何度でも父を問い詰めてしまっていた。

 クレバン家の長男ジョシュアは頭脳明晰、容姿も美しい才色兼備で、学園一モテる男だった。

 パンテル学園は十四歳から十七歳の貴族子女が通う学校だ。三学年で構成される。ジョシュアもサイナも最終学年三年生の十七歳。ジョシュアの場合、その年まで婚約者がいないのはおかしいと噂になるくらいだった。

 ちなみにサイナは勉強嫌い、武芸のみ得意というブロリアン家なら普通。しかし一般の女子とはかなりかけ離れたタイプであり、婚約者がいないのも当然かと周りに受け入られているくらいだった。

 現にブロリアン家の女子で独身を通す者も多く、サイナも卒業したら騎士団に入り、限界まで騎士として国のために尽くすつもりだったのだ。

 それが突然湧いた婚約話。

 聞かされた時、気を失うかと思うくらい動転した。何度も父を問い詰め、殴り合いに発展しそうになり、兄が止めたくらいだった。

 サイナは長女であるが、二つ上の兄がいて、現在騎士団に所属。毎日先輩方に扱かれてた。婚約が決まり、サイナに伝える際に母が兄に要請して、家に戻ってきてもらっていたのだ。


「……隣国へ逃亡しようかな」

「何を言っている!ブロリアン家の者、国を捨てることは許されない!」

「わかってるよ。そんなこと!」


 サイナは父の手を離すと肩を落とし、とぼとぼ部屋に戻る。


「食事はいらないから」

「サイナ!」

「一食くらいいいだろ!明日は食べるよ!」


 明日は春休みが終わり、二学期が始まる。

 婚約の話が出たのは、一週間前。

 休み中でも真相を知りたいと手紙を寄越す同級生たちがいた。それをサイナは全部無視をしていた。


「ああ、行きたくない」


 サイナはベッドの上に座ると、天井を見上げる。

 目を閉じれば、脳裏に浮かぶのは、クレバン家の長男ジョシュアの顔。


 誰にも話したことがないが、サイナはジョシュアに淡い想いを抱いていた。しかし、ジョシュアは頭がいい。自分と話すのはつまらないし、きっと彼の話は理解できないだろうと、彼に積極的に近づいたことはなかった。

 宰相と将軍の息子と娘なので、会う機会は沢山あるが、言葉を交わしたことは数回しかない。それも全部挨拶程度だった。


「どうにか婚約解消してもおう」


 それしかない。昨今流行りの婚約破棄だ。

 そう拳を握りしめた。

 サイナは意外に乙女で、恋愛小説が大好きだったのだ。



「君は本当にそれでいいのですか」

「はい」


 こちらはクレバン家。

 ブロリアン家と違い、激しい言い争いはそこにはない。


「サイナ嬢は嫌がっているようです。把握してますか?」

「はい」

「君はそれでも婚約をすすめるつもりですか?」

「はい」

「王に相談して王命という形で婚約を進めております。君はそれでいいのですか?サイナ嬢の意志を無視するのですよ」


ジョージの言葉に息子のジョシュアは答えなかった。


「サイナ嬢が望まない限り、この婚約はじきに解消します。この事を知ったら将軍サイカは君を殺しかねないですからね」

「父上!」

「期限をつけましょう。三ヶ月、三ヶ月間でサイナ嬢の合意を得なければ、婚約は解消します」

「父上!」

「わかりましたね」

「はい」


うつ向いて、ジョシュアは答えた。

ジョシュアは初めて会ったときから、サイナに惹かれた。

出会いはお茶会。虫を見つけていたずらをしようとした子どもを殴った。

彼女の小さな拳が問題児の顔にめり込み、一メートルほどその子は吹っ飛んだ。

場面は騒然となっていたが、ジョシュアは凛として佇むサイナの姿を忘れらなかった。それからも彼女を見かける度に、問題を起こす彼女を彼は憧れの目で眺めていた。

ジョシュアのそんな様子に気がついていたのは、クレバン

家の者たちのみ。周りに興味を持たない彼にしては珍しいと見守ることにした。

学園生活が始まり、二人の関係が近づくことを期待したクレバン家。しかしジョシュアは本気の恋にはヘタレであった。

だから、彼たちの最終学年、王に相談して婚約させることにしたのだ。この事で異議を申し立てたのは、クレバン家の夫人。ジョシュアの母はサイナの意志を無視することに反対した。そこで、ジョージは期間をもうけることにしたのだ。


「今日は食事はいりません」


ジョシュアはそう言って、自室へ戻る。ベッドの上に腰掛け、天井を眺める。

脳裏に浮かぶのは愛しのサイナの勇姿だ。

自分の心に正直で、悪いものには鉄拳を下す。ジョシュアは彼女のそんなところが好きだった。

だから婚約できると聞き、喜んだ。


「父上のいうことはもっともだ。だけど、私にできるのか?サイナ嬢に声をかけることすら難しいのに。いいや、やるしかない」


ジョシュアはそう決め、明日から始まる新学期で、どうサイナにアプローチするか計画を立て始めた。



翌日から、ジョシュアは積極的に動いた。

彼女を見かけると声をかけ、お昼にも誘ってみた。


お昼はカフェテリアではなくお弁当持参で中庭で食べているのを知っていたいるので、ジョシュアもお弁当を作ってもらった。


「……よく食べるだろ。わたし」

「はい」


そんなあなたが好きです。

そう言いたいのにジョシュアは言葉を出せなかった。


二人はそのまま無言で食べ続けた。



サイナは新学期に入り、ジョシュアが頻繁に話しかけてくるのでドキドキしていた。

嬉しいのに、照れ臭くて無愛想に対応してしまう。

ある時、お昼を一緒に食べることになり、自身のお昼をつめたバスケットがジョシュアの持ってきた箱の三倍あることに気がついて、思わず聞いてしまった。

そしたら、沢山食べることを肯定されサイナは恥ずかしくなった。

その日からサイナは彼に避けることにした。恥ずかしいからだ。同時にこれによって、婚約が解消されることを願った。



ジョシュアは困っていた。

サイナに避けられていることに気がついたからだ。

父によってもうけられた期間があと一ヶ月しかない。

避けられているということは嫌われている証拠かもしれない。

そう思い、ジョシュアはサイナを誘うのをやめてしまった。


このすれ違い、このまま終わるかに見えた。

しかし、そこで立ち上がったのが、サイナとジョシュアの友人たちだ。二人は回りに気が付かれていないつもりかもしれない。

けれどもそれは間違い。

婚約を結ぶことを知り、やっと二人の想いが通じたと涙するものもいたくらいだ。


二人のすれ違い、友人たちは結託して計画を立てた。

作戦は「好きな人を教えないと出れない部屋」だ。

アホらしい作戦とジョシュアの友人たちは感想を漏らしたが、それ以上に有効な計画が浮かばず決行されることになった。



「サイナ嬢」

「ジョシュア様」


それぞれ友人に呼び出され、部屋に入った瞬間、鍵をかけられた。


「この部屋は好きな相手の名前をいわないと出られない部屋だ。さあ、話して。話したら出してあげる」

「お前、ユーナだな。いたずらはやめろ!」


声に反応して叫んだのはサイナだ。


「だめです。正直に話してください」

「話せるか!」


イライラして叫ぶサイナの向かいで、ジョシュアは冷静だった。

これを最後の機会ととらえたのだ。あと数週間で婚約は解消される。卒業も迫る。そうしたらこうして話す機会もない。それであればここで気持ちを伝えてしまおうと、ヘタレな男が決心した。


「サイナ嬢。わたしの好きな人を教える」

「聞きたくない!そんなの!」


サイナのジョシュアへの思いは仄かなものからしっかりとした恋心に育っていた。

失恋確定。でも今ではないと耳を塞ぐ。


「サイナ嬢。聞いて」


ジョシュアはサイナに近づき、耳を塞いだ手に触れる。


「泣きそう。どうして。そんな可愛すぎる」

「え?」


思いがけない言葉を聞いてサイナは放心状態で耳から手を放す。


「サイナ嬢。私が好きなのはあなただ。サイナ・ブロリアン」

「え?嘘だ。そんな嘘をつくのは卑怯だ」

「嘘じゃない。あの婚約もわたしが望んだものなんだ」

「嘘。嘘だ」

「あなたには好きな人がいるんだろう。教えてくれ。そして私を諦めさせてくれ」

「諦めるなんて、嫌だ。本当に、本当に。わたしのことが?」

「本当だ」

「わたしの好きな人はあなただ。ジョシュア・クレバン」

「本当に?あなたが私を?」

「そうだ。私は嘘はつかない」

「そうだった。そんなあなたを私は好きになった」


拗らせたヘタレ男、それでも色々知ってるジョシュアはサイナを抱き締めるとキスをする。


「ジョシュア様」


二人が盛り上がった頃で、時間切れ。教師がやってきて、扉は開けられた。とっさに離れた二人だが、真っ赤な顔の二人をみて教師は悟った。


「リア充め」


教師のつぶやきを理解するものはいなかった。


こうして三ヶ月以内に、ジョシュアはサイナの気持ちを知ることができ、二人の婚約は続けられることになった。

ジョシュアの意向で、卒業後二人はすぐに結婚した。けれどもジョシュアはサイナの意志を尊重し、彼女の騎士団入団に賛成した。けれども毎日ジョシュアは騎士団まで送り迎えをする。

過保護というか、重い愛情は城で評判になり、王命で婚約という噂を信じるものはいなかった。


めでたし、めでたし。


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