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 市民避難の流れのしんがりに行く。魔物たちからしたら、これは羊の群れのようなものだろう。いつ襲撃があるか分からないので、しんがりから見張ってやらんと。


 と、振り返ると、おしとやかに目を伏せて、妹のコレットの姿が。


「コレット? ついてきてしまったのか」


「はい。やはりお兄さまの近くにいたいのです。わたくしのワガママを許してください」


 と、妹に必死に言われれば、それはもう兄としては、


「いいんだよ。一緒にいよう」


 と答えるわけだ。可愛い妹を拒絶できる兄はこの世には存在しない。


 にしても……ずっと後ろに張り付いていた、ということだよな。まったくコレットの気配を感じなかった。

 おれも、腐ってもA級冒険者。たぶんS級の実力もあると思うが──昇級テストがだるくて受けていないので明確には分からないにしても。

 それでも気づけなかった、と。

 コレットも、ここまで素で気配を消せるとは。さすが、うちの可愛い妹。天性のジョブ《バーサーカー》。二歳のとき、はぐれフェンリルをひとにらみでショック死させただけのことはある。


 コレットが髪の毛を指先でくるくるしながら、少し遠慮がちに言う。


「お兄さま、わたくしがあえて申し上げることもないと思いますが」


「どうした?」


「後ろから魔物が」


「おおっ!」


 振り向きざまに、安物の片手剣を一閃。飛びかかってきたリザードマンを腰部で両断。可愛い妹に気を取られて、こんな雑魚魔物の接近にも気づかなかったとは。


「コレット。次から、遠慮しないで、がんがん言ってくれていいんだぞ。お兄ちゃんも、うっかりすることはあるからな」


 ところでリザードマンの後続が続いてくる。これは連戦か、と覚悟したが。上方から闇の斬撃が飛んできて、リザードマンたちを一掃した。唯一無二のジョブ《闇黒騎士》の戦技だ。つまり、これはパーティ仲間の、やたらと無口なダンではないか。


 近くの建物の屋根から、身軽にダンが飛び降りてきた。


「おお、ダン。来てくれたか」


「うす」


「お久しぶりですね、ダンさん」

 と、コレットが笑顔で挨拶する。


 うちのパーティメンバーの中で、ダンだけが唯一、コレットと面識があった。

 コレットはダンを見据えながら、親指の爪を噛み、ふいに独り言を言い出す。


「てっきり、お兄さまのパーティは、ダンさんのように男性のかたしかいらっしゃらないと思っていました。迂闊でしたね。ですが、男性だけでは、それはそれでお兄さまが、あらぬ方向性に行ってしまう懸念もありました。とすれば、最低限の女子要員も必要ということでしょう。生まれながらに悪魔の貞操帯を装着しているようなかたでしたら問題ありませんが」


 コレット、何をぶつぶつ言っているのだろう。たまにあるんだよな。盗み聞きはしないでおこう。


「しかし、ダン。クロエに言われて第二ラインから向かってきたにしては、やけに時間がかかったな。何していたんだ?」


 ダンは腕組みし、


「実は……来る途中……」


 ダンとの会話の場合、行間を読んで何を言いたいのか理解するコツがある。


「なんだって? 防衛第二ラインから都市中央に向かう途中で、怪しい集団を見かけ、様子をうかがっていた? それって魔物たちのことか?」


「違う……奴らは……」


 しかしダンによると、それは人間の集団だったらしい。ダンが『怪しい』というのだから、ただの市民でもなさそうだ。調べてみるべきか。しかし避難民の護りもあるしなぁ。


「ダン。お前は避難民のしんがりを務めろ。おれは、その怪しい集団とやらの身元を確かめてくる。コレットは──」


「わたくしは、お供しますわ、お兄さま」


「だと思った」

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