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 おれとしては冗談で言ったつもりだったが、アイシャは本気にした。そして陽性な性格のくせに、時たま思い悩む。今のように。


「ううう。あたしがフラグを立てたせいで、強敵であるメデューサまで現れるなんて。副官として、責任を感じるよ。だから、あたしが単身で戦って、倒してみせる!」


 いまにもメデューサに突進しそうだったので、おれはアイシャの襟首をつかんで引き止めた。


「そう慌てるな。援軍が来たぞ」


 第二防衛ラインの方角から、20代の碧い髪の美女が疲れた様子で走ってくる。疲れているのは大剣を背負っているからであり、ジョブは《クルセイダー》。聖職系なので支援魔法を使えるし、近接戦闘もできる。

 彼女の名はクロエ。ただ普段着なのは、鎧なんか着たら身動きが取れないから。そもそも近接戦闘しているところを見たことがない。ジョブ、間違ってない?


「クロエ! 走ってきたのか」


「見れば、分かる、でしょ」


 と肩で息しながら答える。


「正面から来ている魔物群は陽動だと、どうして分かったんだ?」


「いや、それは君さ。ちょっと考えれば分かるでしょ。今回の魔物襲撃の裏で誰が糸を引いているのかは知らないけど、正面から来ているのは雑魚ばかり。ただ数の暴力で来られたから、防衛側も苦戦はしているけども。

 それにしても、ここまで用意したのに、強い魔物がホブゴブリン程度しかいないのは、筋が通らない。となれば、本命の精鋭たちは別ルートで襲ってくると見るのは当然。

 とはいえ、別ルートだと空か地中。上空には飛行系の魔物の影はないので、これは地中トンネルを掘られているな、と。で、そうなると、わざわざ都市外縁に出てくることはないから、都市の中央にトンネルの出口は現れ、そこから精鋭魔物たちが侵入してくる。

 すると防衛ラインは挟みうちにあい、瓦解する。それを止めるため、わたしは、大急ぎで走ってきたんだよ。なーぜか、他のメンバーとはぐれたけども」


 腕の立つ仲間は、方向音痴。これって、世の常識だろ。

 とはいえ、さすがに地元の都市で道に迷うとは思えないので、何かトラブルがあったのだろうか。


「とにかく、クロエ。お前だけでも来てくれてよかった。さすが、うちの参謀。さっそくメデューサを──あれ、メデューサどこ行った? ああっ!」


 長話している間に、メデューサが市役所に襲いかかろうとしている。

 妹が、待機しているのに!


 あとアイシャが、「蛇女、覚悟!」と走り出している。


「クロエ、支援魔法!」


「はい、はい。〈防魔〉ね」


〈防魔〉。デバフ魔法を防御できる支援魔法。これをアイシャにかけたので、メデューサの石化魔法に対抗できる。あとはS級《飛兵》のアイシャに任せよう。まぁいまは地面走っているけど。


 おれはクロエを連れて、市役所内に戻った。表ではアイシャが戦っているが、とりあえず市民の避難をはじめよう。他のパーティ仲間も、そろそろ駆けつけてくれそうだし。


 コレットを見つけたので、〈ストレス鑑定眼〉。ストレス数値は3で安定中。


「コレット。他の職員たちにも声をかけてくれ。これから脱出するぞ。あ、そうそう。彼女はクロエ。わがパーティ【フィネガンズ】の頼れる参謀」


「よろしくー」


 と、気怠そうに挨拶するクロエ。

 対して、満面の笑みで答える、可愛いわが妹。


「いつも兄がお世話になっております」


 それからおれを見て、コレットの微笑みの──どこかひび割れている気がするのは、気のせい?


「お兄さま。また女性のかたが増えましたのね」


 ストレス数値が30まで跳ね上がっている。いや、なんで?


 ううむ。妹の心は、兄には分からないものだ。

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