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「眼球運動は問題なさそうだけども」
と、眉間にしわを寄せるアイシャ。顔が近いので、まつ毛なんかもよく見える。
一方、コレットのストレス値は爆上がり中。何かに怒り心頭なのは間違いないのだ。穏やかな表情──のように見えて、瞳孔拡大の具合が、ちょっと怖い。怖すぎる。
こっちはアイシャとコレットを相互に見やっている。何か、何かつかめそうな気がしてきた。なぜコレットのストレス数値が駆けあがっているのか、その謎を解き明かすヒントが。
このときアイシャの視線が右に動き、窓から外を見る。
「あっ! そこの市民Aさんが、いまにもリザードマンに首を斬り落とされようとしている!」
市民の危機に、市役所から駆けだすアイシャ。
さらに間に合わないとみて、装備武器〈華槍〉を投擲し、鎧装着のリザードマンの頭部にぶちあてる。しかし頭部を護っていた兜によって、殺すには至らない。だがとりあえず注意を引いたことで、市民Aさんが逃げる隙を作ることに成功。
「アイシャ。考えなしに武器を投げる奴があるか……らしいといえばらしいが」
そのとき。おれは奇跡を見た。
コレットのストレス数値が、ついに70さえも越えようとし、破滅の98へ、終焉の時までヨーソローしていたストレス数値が、なんと下がり始めている。
しかも結構な速度で。あと瞳孔も戻っている。
コレットのストレス要因が取り除かれたのか? しかし、何か変わったことがあったか?
「大丈夫か、コレット?」
「はい? わたくしは問題ありませんが、お兄さま」
「そうか……でもいまストレスを感じていなかったか」
「いえ、そんなまさか。ところでお兄さま。あちらのアイシャさんというかたは、とても素敵なかたのようですね」
「え? そういえば、アイシャとは初めて会うんだったか。こんなときだから、ゆっくりと紹介できなくて悪いな」
うーむ。いまコレットが『素敵なかた』と言っていたとき、その口調に何か棘があったような。地獄にある感じの無限の棘が。
いやぁ、勘違いだな。うちの可愛いコレットに限って、他人に悪感情を抱くはずがない。ましてや、アイシャのような陽気な奴に。
「そうなんだよ。アイシャは最高の副官なんだ」
「ええ、そうなのでしょうね」
うふふ、と笑うコレット。
あれ。いま何か凍結しなかったか。空気か何かが。
「……と、とりあえず市役所周辺の魔物を一掃してくるから、コレットはほかの職員と一緒に、ここで待機していてくれ」
アイシャの加勢のため、おれも市役所を出る。とはいえ、そこはS級冒険者の副官。リザードマンを素手で屠ってから、先ほど投げた〈華槍〉を回収。それを振り回して、さらに周囲に蔓延る魔物たちを蹴散らしていく。
おれが駆けつけると、アイシャがにやっと笑う。
「遅いよ、リーダー」
「あまり先走るな。怪我しても知らないぞ。うちの回復職は、まだ防衛第二ラインにいるんだからな」
パーティの仲間に、そっちは陽動だと伝えないとなぁ。アイシャのペガサスを連絡役に飛ばすしかないか。
「この程度の魔物たち、たいしたことないって。メデューサでも出てこない限り、余裕だよ」
確かにメデューサは困る。こっちは物理アタッカーが二人。他の仲間がいない以上、メデューサのような必殺の石化攻撃持ちとだけは戦いたくないものだ。ふむ。
刹那。地中トンネルから、無数の蛇の頭を持つ魔物がはい出してきた。メデューサが。
「アイシャ。お前、フラグ回収の天才か」
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