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さてさて。魔物側の陽動作戦にまんまと嵌った防衛部隊。
都市中央まで地中トンネルを掘って、精鋭の魔物どもが送り込まれてきた。
《飛兵》のアイシャは、さっそく相棒のペガサスとともに臨戦モード。いまにも飛びだし、魔物たち相手に大立ち回りを演じようとしている。
こういうとき、おれは冷静沈着──他のパーティメンバーと比較すると。
だからリーダーの重責を任されている。
「アイシャ。お前は、なんとしても妹をここから避難させるんだ。魔物襲来によって、ストレス値が跳ね上がる前に」
「優先順位がおかしくない、リーダー? 身内贔屓って、あとから叩かれるよ」
「お前は、あー、何も分かってない。何も、分かって、ない」
妹のコレットがストレス値98に達したことは、これまで三度。三度とも、国家規模の戦略魔術攻撃が起きたかのような破壊と衝撃。
ようは、皆殺し祭り。
この世には、バーサーカーを気取っている輩は多いが、本物の鬼畜無双は、洒落にならん。兄のおれが言うのだから、これは正真正銘。
ところが会話を聞いていたコレットが、おれの右手を握りしめる。そして健気なアイスブルーの瞳で、おれを見上げてくる。
「お兄さま、わたくしのことは気になさらないで。何よりまずは無辜の市民の避難を最優先にして。お兄さまが冒険者として責務を全うしてくれるのが、妹としての幸せです」
「コレット! なんて心の優しい妹!」
おれの胸は妹への誇らしさで一杯。
ちなみにコレットのストレス数値を、〈ストレス鑑定眼〉でチェックしたが、3は変わらず。魔物襲来くらいでは、コレットの穏やかメンタルは不変ということか。お兄ちゃんも安心だ。
と、アイシャがおれの肩を叩き、
「こらこら、妹とデレデレしている場合じゃないよ、リーダー。早く市民たちを避難させないと。ここには戦えるのは、あたしたちだけだよ」
アイシャは、おれに対してボディタッチが多い。ただ、これは男女を意識しているわけではなく、仲間ゆえに距離が近いということだ。クエスト成功したときの勝利のハグとかも普通にするしな。
ふと見ると、コレットが奇妙な眼差しを向けてきている。なんというか、眼が爛々と輝いている。というか、瞳孔広がりすぎではありません?
そして、なぜかストレス値が爆上がり中。
あっという間に、30を超えている。
やばい、やばい。なんか知らんけど、可愛い妹のストレス値がガンガン上がっている。なんだ? 何が、いけないんだ、これは。さっきまで3だったのに。え? え?
冷や汗をどばどば流していたら、アイシャが心配してくる。
「どうしたのリーダー。突然、顔色が悪いよ。まさかさっきの戦闘中に、毒を受けていた? あたしに見せて」
毒状態かを確かめる方法はたくさんあるが、眼球運動を見るのもひとつだ。そこでアイシャが自然な流れで、おれに顔を近づけてくる。
顔が近い。
これが相手がアイシャじゃなかったら、ドキドキするところだな。むろんアイシャも美少女といって差し支えないが、パーティの仲間として、共に死地をこえてきた身。すでに異性とかを意識する領域は越えた。
「アイシャ。おれは大丈夫だ。いや大丈夫ではないが、少なくとも毒ではない。そうでなくて、コレットが、」
アイシャと顔は近いまま、ふと視線を戻すと、コレットのストレス値が60を超えていた。そして、いままで見たこともない速度で、破滅の数値まで駆け上がろうとする。
あーー、終わる! 世界が、あっけなく終わってしまうー!
誰かどうにかしろー!
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