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 商業都市オルスを魔物の群れが襲撃したとき。

 A級冒険者として防衛クエストに参加しながら、今日は大変だぞ、とおれはつくづく思っていた。


 いや魔物の群れのほうではなくて。

 妹のコレットが16歳となり、本日から市役所のほうで初出勤なのだ。果たして、妹はちゃんとやれるだろうか。世の兄は、みんな可愛い妹のことが心配で悩むものだ。


 世の兄代表として唸っていたところ、視界いっぱいにホブゴブリンの不細工面が迫る。

 おれが配置されていたのは防衛第二ラインなので、第一ラインは突破されたらしい。


「あぁ、妹が心配だ。なぜならば、」


 おれのジョブは《グラディエーター》。

 得意な戦技〈破砕の槌〉。物理攻撃全振りの一撃で、ホブゴブリンの頭部を粉砕。

 脳症が飛び散った。うーむ。気持ち悪い。


「妹のコレットは上品で、小動物に優しく、お茶と刺繍をたしなむよくできた子。しかし清らかな心すぎて、ちょっとストレスに弱い。

 ストレスに弱いというか、ストレスがたまると我を忘れて、バーサーカーモードに入ってしまう。

 するとレベルカンストしたS級冒険者が束になってかかっても止めることができないのだ。


 そんな、ちょっとだけ欠点はあるが、あとはまったくもって可愛い妹コレットも、ついに新社会人。しかしこれまで箱入り娘だったコレットに、はたして社会の荒波が耐えられるのだろうか。

 しかも就職先が、市役所なんて! くそ、理不尽なクレームが、可愛い妹に襲いかかると思うと! それがコレットの健気なストレスメーターを振り切ると、思うと……背筋が寒くなってきた。お兄ちゃんは心配だ! 

 おーい、聞いているのか、アイシャ」


 うちのパーティの副官であり、《飛兵》のアイシャは、天馬に騎乗して上空で旋回、全体の戦況を俯瞰していた。そこから地上の味方に指示を出していたのだが、おれがしつこく呼んだものだから、降下してきた。


「え、何か言ったの、リーダー? もしかして妹が可愛い、という話をだらだらしていたの? 魔物の群れに都市攻撃を受けて、みんなで防衛している、いまこのときに?」


「そういう批判はよくないぞ。だいたい、うちのパーティ、リーダーのおれ以外、みんなS級じゃないか。放っておいてもいい仕事をする。そんなことより市役所のほうが心配だ」


「市役所? だけど市役所は都市の中枢で、防衛第三ラインの向こう側。いまはまだ第二ラインでせき止めているし、安全でしょ」


 コレットがバーサーカー・モードになったら、竜を素手でへし折る……

 性格の悪い上司に大量の仕事を押し付けたられたり、先輩のブス女に嫉妬からイジメられたりしたら。

 可愛いコレットが血祭りカーニバルを開催してしまうだろうが。


「新社会人一日目から殺戮していたら、妹は傷ついて、寝込んでしまうだろうが!」


「リーダー、何を意味の分からないこと言ってるの!」


「市役所に急げ!」


 おれはアイシャの後ろ、天馬上に騎乗。

 パーティの指揮を寡黙な《闇黒騎士》のダンに任せ──「任せたぞ」「うす」──いざ市役所へ飛翔。


 第三ラインの向こうなので、市役所付近はまだ静かなものだ。ペガサスより降り、市役所内に飛び込む。

 すると見た、わが妹。雪のように白い肌、アイスブルーの瞳、華奢な肢体、プラチナブロンドのふわっとした髪、気品漂う所作。

 が、お茶くみさせられているのを。


「お茶くみ……妹がお茶くみさせられているのか。そんなことが許されるのか??」


「仕事だからじゃないの、それが仕事だからじゃないの」とアイシャ。


 コレットがおれに気付き、嬉しそうに駆け寄ってきて、可憐な微笑みを浮かべる。


「お兄さま、どうされたのです?」


 おれのパッシブスキル〈ストレス鑑定眼〉。

 コレットのストレス値は3で安定している。

 ホッとした。


「よし、お茶くみ程度なら、殺戮に至ることはなかった」


「いや、ほんと、なに言っているの?」とアイシャ。


 そのとき、謎の地響きが起こる。窓から外を見やると、どういうわけか都市中枢のこの地に、大穴があいているではないか。

 どうやら地中から掘り進められたようで、掘削用の巨大ワームが這って出ている。そしてキメラなどの脅威度の高い魔物たちが、地中より続々と現れる。さっそく手近の市民を貪りだした。


「ははぁ。実は、都市の正面から攻め寄せている魔物の群れは囮であり、真の狙いは地中トンネルによる、都市中枢への電撃攻撃にあったのか。しかも本命の地中部隊には、かなり強い魔物が混ざっているぞ」


 いやー、そんな展開、露ほども考えなかった。


「す、すごい、リーダー! 敵の真の狙いを見越して、先んじて都市中枢のここに来たんだね!」

 と、アイシャが輝く賞賛の目で見てきている。


 なに言ってんだ、こいつ。

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