第98話 迷宮4
広間にいた骸骨らを燃やし尽くす勢いで王女さまの魔法が炸裂した。ごうごうと炎が立ちのぼり、あたりを埋めつくす。
たしかに骸骨系の怪物は炎に弱いのかもしれない。さきほどまで動いていた骨が炎のなかでくずれていくのがわかる。
しかし、ここは地下なのだ。燃えさかる炎の熱と煙から逃げ場がない。案の定、魔法をつかった当の本人が煙にまかれてむせていた。そのえり首をつかんで、来た道を急いでひきかえす。下方から追ってくる煤をはらんだ熱風に目をあけていられない。すぐに息も苦しくなってきた。このまま自滅するかと思ったとき、不意に熱気が薄れ、息が楽になった。
振り返ると、通路を壁が塞いでいた。ウーシスが機転をきかせて、魔法で通路を塞ぎ、熱気をさえぎってくれたらしい。
とりあえず助かったものの、王女さまが他の三人から厳しく叱られたのは言うまでもない。特にウーシスからは、「おとなしくしててください。大魔法使いさまからお二人のことを頼まれているのですから」などといわれていた。
……目覚めた百人の面倒をみているつもりだったけど、もしかして、俺たちの方が頼まれてる? と思いながら、俺からも気をつけるように王女に伝えた。
しょんぼりした様子の王女をみていると可哀想になってくるが、もうすこし思慮深くなってもらわないと困る。
十分な時間をおいて広間へもどると、あたりは完全に炭と化していた。黒コゲであり、ぼろぼろである。
そのさき、暗黒神官の居所に至ったが、そこには誰もいなかった。机とイス、寝台があるだけの小さな部屋だ。
「ここで間違いないのか」
との問いかけに、眉をひそめながらもウーシスがうなずいてみせた。
「はい。大魔法使いさまから聞いていた迷宮の主の部屋はこちらのはずです」
「どこかへ出かけているとか?」
「どうでしょう。ほとんど外へ出ることはないと聞いております」
「さらに深部にいるってことかな」
「おそらくは……。ただ、大魔法使いさまからは、レナさまがいつものようにやれば勝手に会える、と言われております」
「いつものようにねぇ」
さきほどのことを思いだして、そこはかとない不安に襲われるのだった。
ウーシスもオルフェも、この先の道はわからないというが、進むほかなく、さらに迷宮深部へと足を踏みいれた。
とはいえ迷ってしまっては困るわけで、糸玉の代わりにウーシスが魔法で印をつけてくれている。日常生活に役立つ魔法のひとつで、夜に廻廊の足下を照らす燭台代わりらしい。いやはや便利なものだ。
あとは暗黒神官を探すだけ、と気を抜いてしまったのか、あらたな怪物の出現に直前まで気づけなかった。
それは、急襲してくるようなこともなく、ふわりと陽炎のように行く手をさえぎってきた。ゆらゆらと形のない影。ほとんど反射的に動いたオルフェの剣が影を薙いだけれど、手応えはなさそうだった。
「オルフェ、退がって!」
と、ウーシスの鋭い声が響いた。はっとしたように影から距離をとるオルフェのまえに、影がひとつの形をとった。現れたのは、服装からなにからオルフェそのものの男だ。
「神話にあるシャドー。触れた者の見ためを真似る厄介な相手です」
ウーシスが短刀を手にしてオルフェに並んで立ち、シャドーと対峙する。
「なにより、嫌らしいのが……」
と言いかけたウーシスの言葉をさえぎり、
『危ないから、短刀を下ろしてくれ』
と、シャドーが言う。その声は、オルフェの声そのものだった。




