第96話 迷宮2
その後も司教服をまとった牛頭の怪物や、修道女を模した人型の怪物がでてくるあたり、グレゴの性格があらわれていた。
ちなみに、それらの怪物は、ほぼオルフェだけで対処してくれていた。ほとんど時間もかけず、あっさりと屠っていく。その様子からは、さして強くない相手とも思えたが、オルフェが強すぎるだけかもしれなかった。
また普通であれば暗闇のなかでの戦いに苦労しなければならないところ、松明を使うまでもなく、ウーシスが前方に魔法のあかりをとばし、奇襲をうけることもなかった。
たいして語るほどの事件もなく、中間層あたりまでたどりつく。
ひとやすみしてお茶を飲むこととした。
こんなところで呑気にお茶を飲めるのも、もちろん二人のおかげである。オルフェは周囲の警戒に余念なく、ウーシスはあたたかなお茶と焼菓子を準備してくれるのだった。
「二人とも、本当に助かるよ」
そう感謝を伝えると、オルフェは、このようなこと気にかけていただくまでもありませんと淡々と返してくるし、ウーシスは、お役に立ててなによりですと、心底うれしそうだ。
「いや、本当にありがたい。この分じゃ、俺たちの出番はなさそうですね」
わらいながらレナに声をかけたが、不満げな様子だった。王女あつかいが気にくわないのかもしれない。まあ、そのうち慣れるだろう。
休憩を終えて、しばらく進む。
これまで天井は低く、足もとも凸凹で、やっと人ひとり通れる幅だったりと、人工的な建造物としての印象はまるでなかったが、思いがけず、開けた空間にたどり着いた。
そこは、地下墓地だった。
磨きあげられた大理石の床が広がる一方、壁と天井は無数の人骨で覆われている。それが本物なのか、本物に模したものでしかないのかは分からないが、頭蓋骨の虚ろな眼窩の奥から何者かに見つめられているような気がする。
壁際の壇上には、兵装をした骸骨たち、また骨だけの馬にまたがった骸骨騎士に、きらびやかな祭服をまとった骸骨司教が立っていた。骨のシャンデリアが吊りさげられ、鬼火のような青白い光を発している。
悪趣味な光景に顔をしかめながら広間に足を踏み入れようとしたところ、すっとオルフェがまえに出た。続けて、ウーシスも白い貫頭衣をひらめかせて広間に入る。
「すこし、手間取るかもしれません」
わずかながら声に緊張があった。もっとも、御主人様のお手をわずらわすまでもありません、と続けるが、
「まあそう言うなって。暗黒神官がどう出てくるかわからないし、準備運動くらいしておかないとな」
と、余裕ぶって俺も広間に入った。王女さまには、その場でおとなしくしているようお願いする。さきほどまでの戦いをみるに、レナの力に頼らずとも、準備運動程度で済むだろうとの甘い考えでいたのだ。
しかし、最近、〈餓狼〉の力を使いこなせるようになってきて、知らぬまに慢心していたらしい。
準備運動程度では済まなかった。
予想どおり、骸骨兵、骸骨騎士、骸骨司教らが動き出し、それらを片付けるまではうまくいったものの、倒しても倒しても、それらの骨は迷宮に取り込まれることなく復活してくるし、骸骨司教は魔法までつかってくるのだ。
祈りや奇跡を模して作られているらしく、治癒の奇跡やら、天の意思とされる雷の魔法など、いちいち神聖な演出が施されているあたり、グレゴの皮肉がきいているように思う。
そのうえ、骸骨まみれの柱とみえていたものまでが動き始めていた。それは柱ではなく、いわゆる被造物の一種で、倒されるたびに、周囲の壁や天井、シャンデリアなどから骨を取りこみ、徐々に大きくなっていくのだった。




