表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/125

第9話 月読み


 狩人かりうどでなく渉猟者しょうりょうしゃたれと告げたのは宝石のためか、いや、レナのためか。旅をしながらまもってほしいと、あれはどういう意味だったのか。ひとところにいては危険なのか。


 疑念を振りはらうように、あたまを振る。そこへ、おさないころから変わらず、いきおいよくレナがとびこんできた。言葉を発せないゆえに、犬ころのような愛らしさがある。

 一方、狩だけでなく、細工もの、料理など、なんでもこなすしっかり者、と言いたいけれど、わりと抜けているところもあって、いまもとびこんできた勢いで炉端ろばたに足をとられて盛大にころび、あたまを打って泣きだしたところだ。そこへ、


「おまえ、レナになにをした!」


とリップが責めてくるのもいつものことだった。


 ひきしまった体つきはあいかわらずで、俺よりも背がたかく、女の子らしさというよりは女性らしさを感じさせる。美人でスタイルもいいが、性格はきつい、というのも俺にだけで、ほかの者には優しくほがらかだ。

 もっとも、何年もきつい言葉をぶつけられてきて、多少の罵倒ばとうにはなにも感じなくなっているあたり、なれとは恐ろしいもの。リップがタギの実子ではなく、両親は屍肉しにくあさりに殺されたのだときいてからはなおさらだ。罵倒ばとうも、あまんじて受けようじゃないか。しかし、落ちこむでなく、言いかえすでなく、無視するでなく、ただ従順に悪態に耳をかたむける態度が好意的にうけとられることはなく、リップとの仲も、あいかわらずなのだった。


 ところが、不変のものなどなく、自分たちをとりまく何もかもが変化したあの日をまえに、彼女との関係もかたちを変えていった。


 狩人かりうどは月の女神を信じている。森と狂気と狼の神であり、通過儀礼として月読つきよみの儀がおこなわれ、月が満ちるまでの十数日を森ですごす。狩の技量を試され、たえられない者は一人前とみとめられない。

 くわえて、この儀式では、としごろの男女同数がえらばれ、くじびきでペアが決められるのだった。つまり、狩人かりうどとしての独り立ちと同時に、あらたな家庭をもつことを求められてもいる。

 とはいえ、かならず婚姻が成立するものではなく、破局するペアもあれば、最後まで、よき隣人、狩のパートナーにとどまるペアもある。ちなみに狩人の女に安易あんいに……この場合は、腕力にものをいわせて、ということだが……手を出そうものなら、いついかなるときに矢がとんでこないともかぎらないし、それが露見すれば、集団を追い出されてスカベンジャーになりさがるしかないため、そうしたことはまず起こらない。


 ふたをあけてみれば、俺のペアはリップであり、リップのペアは俺だった。で、どうなったかというと、


「ついてくんなよ!」


と冷たくあしらわれている。婚姻はともかく、ひとりよりふたりのほうが安全だし、獲物も狩りやすいというのに。


「あたしは、ひとりで大丈夫だ。おまえの手をかりるまでもない。屍肉しにくあさりと一緒になるなんざ、ついてないぜ」


「ちかごろ森がさわがしい。過ごし方は自由だが、ルートは外れないほうがいい」


「はっ、ちょっとは怒れよ。つまんねぇやつ」


 ふりかえりもせずに、ずんずんと森のおくへ進む。これみよがしにルートを無視だ。いっそのこと、本当にほうっておいてやろうか。しかし、タギとレナからもらった石打ちの矢をおもい、その心尽くしと込められた祈りをおもうと、そのままにもできなかった。


 意地になって先行するリップを、やみくもに追っても疲労するだけであり、すこし離れてあとを追うことにした。雑把な性格だから、痕跡を消していくようなことはないだろう。嫌われていようと、ながい付き合いなのだ。


 と、ひさしぶりに死の気配を感じた。


 もうすっかり忘れたようにおもっていた感覚。屍肉しにくあさりとして、どこにゆけば死体があるか、不吉さをよびこむ気配の読み方を自然としていた。


 しかし、あまりに久しぶりすぎたのか、森のあちこちから気配を感じ、どことも、なにとも、ほんとうともウソとも特定できない。

 ただ、リップが姿をけしたほうから濃厚な死の気配がただよってきていた。のどがかわき、動悸どうきがはやまり、さびた鉄の味が口中にひろがる。なにかあったのではないか。まさか、そんなことはありえない。そうおもってしまうのが人のごうであり愚かさだと、おばばなら言うにちがいない。


 そう、だからこそ、なにごとでも起こりえるからこそ備えなければ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ