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第87話 呼び方


 翌朝、ひとつの知らせがもたらされた。


 帝国軍が大陸へひきあげていったというものだ。大魔法使いさまは死んだといううわさもあったが、真偽のほどは定かではない。


 やがて、第二報、第三報と知らせが入り、帝国軍の主力部隊が壊滅したことが確認された。戦場に赤き竜が舞っていたとの証言もあり、大魔法使いさまが勝利したに違いなかった。

 しかし、その消息は不明となっていた。

 壁の一部がくずされ、領地へ入ることができるようになっていたが、丘のうえに建つ石造りの城内へは誰も入れないらしい。


 大魔法使いさまが生きているのかどうか、そこにいるのかどうかも分からない。


 確かめに行きたい旨を伝えると、ディーガ辺境伯は、しぶい顔をしていた。


「気持ちはわかるが、これから遠征だぞ。帝国軍の力が大きく削がれたこんな機会はもうない。我々は、ただ大魔法使いの救援だけを目的としているわけではないのだ」


「大陸への遠征ですか」


「そうだ。王都を取り戻し、帝都をおとす。もちろん、必ず勝てるとはいえん。だが、勝てるとしたら今だ。時をおけば、帝国は部隊を立て直してしまうだろう」


 では、俺とオルフェだけで行くならどうか。そんな方向で話していたところに、王女さまが、わたしも行くと言い出してきかない。辺境伯からは何度も自重するように言われていたが、意外と頑固なレナが折れることはなく、最終的に、遠征の準備を進めておくあいだに限ること、目覚めた百人とともに行くこと、北方の連合協議会からお目付け役を同行させることを条件に承諾を得たのだった。


 必ず無事に戻ってくるように念押しされながら、その日のうちに出発した。


 一緒にいくお目付け役が誰なのか、すこし心配していたのだが、まったくの杞憂きゆうだった。なぜなら、


「また一緒だな」


と、ハインラが声をかけてきたのだ。お目付け役に志願してくれたらしい。


 辺境伯やほかの領主、族長らがいる場では抑えていたらしく、城塞都市を出ると、すぐに以前のように打ち解けた。レナの両手をとって、ぴょんぴょんと跳ねているところなど、本当にウサギのようだった。

 本質的に人なつっこいところがあるのか、ウーシスともすぐに仲良くなっていた。オルフェとは特に言葉を交わしてはなかったが、互いに武人的な親しみを感じているようだった。


 なんとなく寂しい思いで、大魔法使いさまの領地がある南方へと目をやった。


「兄さん、どうかした?」


 城塞都市の外で自由にできることが嬉しくて仕方がない様子だ。だが、


「レナ、呼び方は気をつけた方がいい」


「どうして?」


「王女さまだからさ」


「そんなの……」


 どうだっていいと言いかけた王女レナの言葉をさえぎる。どうだっていいわけじゃないんだ。レナが王女であると多くの人に知られてしまった以上、これまでのような呼び方はできない。特に、兄さんなんて呼ばせるわけにはいかないんだ。そして、俺自身も、


「もうレナとは呼ばないし、呼べない。だって、俺は王子さまじゃないんだからな」


「いまならいいでしょ。ハインラやウーシス、オルフェといるときくらいは」


「いや、慣れておいた方がいい」


 首を振って応じると、王女は、ほっぺたを膨らませて不満そうにしていたが、俺の意志が堅いのを知って、


「なんて呼べばいいの」


と聞いてきた。呼び捨てでいいというと、ジュ、ジュかぁ、と、なぜか嬉しそうにしていた。俺自身は、レナのことを王女と呼ぶことに違和感はなかったが、自分で言いだしておきながら、呼び方ひとつで心のありようが変わってしまいそうで怖かった。


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