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第83話 キメラ


 静まりかえった議場に、ぱちぱちと手をたたく音がひびいた。あまり上品とはいえない格好で、ハインラが手をたたいていた。


「さあ、話を。私たちはきく」


 独特の発音といいまわしに、やはり人違いなどではなかったと思ってみつめていると、視線に気づいたハインラが、こちらをみて片目をつぶってみせた。最初の冷たい態度には、なにか理由があったのだろう。


 すぐにウーシスが話し始める。帝国が求めているのは西方の果てにある〈門〉なのだと。


 魔法の力をみせつけられたあととはいえ、出席者のだれも〈門〉の存在を信じていないのは明らかで、にわかには受け入れがたいようだった。彼らにとっては、ただの伝説、おとぎ話にすぎないのだ。ウーシスは、もっと切実な話をしましょうと続けた。


 ディーガ辺境伯に目で合図をし、議場へ小さなおりを運ばせる。会議のまえに頼んでいたものだ。なかにはネズミが3匹。


「さて、みなさんにちょっとした魔法をおみせしましょう」


 立ちあがり、説明をくわえながら、ネズミに魔法をかけていく。


「まず2匹を選びます」


「古代にも禁忌タブーとされていたものです」


「帝国軍には、さまざまな生き物を融合させたキメラが何匹もいます」


「選んだネズミ2匹を融合させてみましょう」


「このように……」


 会議の出席者が見守るなか、2匹のネズミがそれぞれ形を失い、溶けあうようにして1匹のキメラとなった。まわりから、非難とも驚きともつかない声がもれる。


 現れたのは、もとのすがたと特徴をのこしつつ、不自然かつ不快、醜悪な獣だ。手のひらに乗るほどの小さなキメラは、ぐっ、ぐっ、と潰れたカエルのような鳴き声をあげながら、おりのなかを這いまわっている。

 均衡がとれていないのか、どちらが上肢とも下肢とも判別のつかない奇妙な体で転げるようにして進む。その折れ曲がった手足の一端が、残る最後のネズミに触れたとき、突然、狂おしいほどの唸り声があがった。


 ブシュッと血しぶきが飛び、つぎの瞬間には最後のネズミは、ただの肉塊と化していた。


「不自然な生命だからでしょうか。必ず、もととなった種族を殲滅せんめつしようとするのです。それが知性ある生物であればどうでしょうか。人であればどうでしょうか」


「帝国は生きた人間をキメラの材料としているときく。本当なのか?」


 だれかの問いかけを否定もせず肯定もせずに放置して、ウーシスが小首をかしげた。


「人を使ってのキメラ化は、古代にも禁忌タブーとされていたものです。人間というものは魔力的に不安定なもの。精神の作用、知性、感情、すべてが不確定要素となるからです。

 しかし、帝国は多くの犠牲者をだしながら、それを克服したようです。大魔法使いさまの見解によれば、決して魔術的に、この場合は、技術的にということと同義ですが、方法を確立したのではなく、これからも多くの犠牲者を伴いながらと」


「つまり、どういうことなんだ?」


 難しい顔をして腕組みをしながら、ディーガ辺境伯が問いかける。


「おわかりでしょうに。私から申しあげたほうがよろしいですか」


「いや、それにはおよばない。ようするに、帝国の支配を受けることになれば、領民はキメラの材料にされる、そういうことだな?」


「おそらくは。大陸の民と、島の民と、どちらを選ぶかは帝国次第ですが」


「まず間違いなく、島の民を犠牲とするだろう。そして俺たちは、領民のために降伏するつもりで逆に犠牲をしいることとなり、いずれ、保身のために民を売った卑怯者あるいは臆病者として歴史に名をのこすだろう」


 苦々しげに言ってだまりこむ。すぐに口をひらく者もおらず、静寂がつづいたが、出席者の一人が立ちあがり、


「しかし、そうはならないかもしれないではないか。なぜ我々が戦わなければならない。ここでの話はそれでよくても、領民らに説明してまわるわけにはいかない。勝てもしないいくさに民を駆りたてるには大義がない」


と言い切った。それを聞いて、そうだ、大義がない、という声が広がり、騒然となる。


 それぞれが好き勝手にしゃべりだしたため、辺境伯が会議の進行を止め、一次散会を宣言した。休憩をはさみ、同日中に再開して結論をだす旨を伝える。


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