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第80話 宣言


 目覚めた百人の半分強をしめる男性のまとめ役として、オルフェは十分に期待に応えてくれた。最初の印象としては、どうも頼りないような雰囲気もあったけれど、それは控えめな性格と、目覚めてすぐのせいだったらしい。


 ウーシスは変化魔法、なかでも日常的な目的につかわれる魔法の使い手だったが、オルフェの方は、領主の護衛をしていたというだけあって、みごとな剣の使い手であり、かつ戦いに役立つ魔法の使い手だった。

 と言っても、魔法そのもので敵をたおすわけではなく、あくまで剣術を補助するための魔法である。ささいな、しかし、そのささいなことが勝利の決め手となるような。


 たとえば、剣の長さを見誤らせるとか、剣先を二重にみせるといった幻術的なもの。あるいは、体力の限界にきたときに、ほんの数秒だけ全力で動けるようにするといったもの。ほかに、剣や鎧に特性を付与するなど、多様な魔法を使えるのだった。


 北の城塞都市までの道中で、レナはウーシスから日常魔法を習った。俺はオルフェから剣術を習ったが、補助魔法は学べなかった。ざんねんながら、魔力のマの字もないらしい。

 それを申し訳なさそうに伝えるオルフェに、かえってこちらこそ申し訳ないと感じた。日を経ても、ウーシスと違って寡黙かもくなままながら、やさしく真摯しんしな雰囲気はよく伝わってきていた。一方で、頑固かつ芯の強い男なのは間違いない。補助魔法を最大限に使えば、短時間とはいえ、魔剣を手にした俺と対等にやりあうことができるのは驚きだった。

 そんなオルフェの助言もあって、城塞都市にたどりついたころには、かなり自由に〈餓狼がろう〉を使えるようになっていた。


 季節は春へむかうころ。とはいえ、城塞都市は島の北端にちかく、街道には雪も残っているような状況だった。厳しい寒さが、あちこちに居座っており、後にしてきた地にも、行く手にも、希望があるとは思えない。

 それは、城塞都市の別名が幽霊都市であるからかもしれなかった。暗澹あんたんとした冷たい石造りの街、貧民街を流行はややまいごと生き埋めにした街だとうわさされ、あまり良い印象のない辺境の地だからだ。


 しかし、実際に城塞都市についてみると、幽霊都市どころではなく、街道から街道へ、通りから通りへ、ひっきりなしに人が行きい、その賑やかさは、大魔法使いさまと旅したときにみた街にも負けないほどだ。

 帝国軍が大陸を席巻せっけんする一方で、辺境のはずの都市が栄えているというのは皮肉な話だ。戦乱を逃れてきた大陸の住民も多いに違いない。これだけ大きな都市が息づいていることを嬉しくおもうと同時に、こんな大都市の統治者に助力を頼むことができるのか不安になる。会うことすらできないのではないか。


 と、そんな心配は不要だった。


 城塞都市の代表であり、辺境伯ともよばれる北方地域の協議会議長ディーガとの接見は、到着後数日を待たずに叶えられた。


 オルフェとウーシスのおかげだ。


 よく考えてみれば、これほど目立つ集団もない。百人の男女が、そろいの白い貫頭衣かんとういをまとって整然としており、街では、新たな宗教集団のように思われたらしい。


 さらに街中をながれる川沿いに野営している様子を、興味津々、街の住民も、市内の治安をになう衛兵も注視していたわけだが、人目を気にすることもなく、ウーシスらは日常魔法を使って調理したり、寝床を整えたり。どうもわざと目立つようにしていたようにも思う。

 火のないところに火をたて、チーズを乳に変え、乳をヨーグルトに変える。パンを小麦に変え、小麦を堅パンに変える。それを一瞬でしてみせるのだから、奇術のようにみえたに違いない。あるいは奇跡か。水をワインに変えることはできなくとも、ブドウをワインに、またそれをブドウにもどすことさえできるのだ。これで人目をひかないほうがおかしい。


 あげくのはてに、変化させた飲み物や食べ物を街の人々にふるまうのだから、ちょっとした騒ぎになる。解散させようと衛兵が集まってきたのも道理だ。もみあいのなかで、緋色ひいろの一枚布を肩からかけたウーシスと、そばにいたレナとがまとめ役だと気付いたのだろう。二人を乱暴に取り押さえようしてきた。


 思わず魔剣を抜きそうになる。


 衛兵は二十人ちかくおり、普通にやってはかなわないだろう。だが、まえに出ようとした俺を制止し、オルフェが首を振った。


「我々におまかせください。言葉に重さを加えるには力を示さねばなりません」


 そういうと、普段の優しくおだやかな雰囲気とはまた違う迅速さで剣を抜き、衛兵らに向かっていった。あとは、あっという間だ。相手の剣を受けとめては、素手で、あるいは剣のつかで倒していく。

 隊長らしき男を一人のこし、他のすべての衛兵を黙らせて剣をおさめた。全員、苦痛にうなっていても、死んだり切りつけられたりした者はいない。二十人を相手にしても手加減できるだけの腕前ということだ。俺の魔剣でも倒すことはできただろうが、ケガをさせずに治めるようなことはできなかったろう。


 最後に残された隊長は、逃げることもできず、オルフェの腕前に圧倒されていた。その眼前に立ち、宣言するようにいう。


「無礼者め! こちらは大魔法使いさまの名代、日月にちげつの名を冠するジュさまとレナさまだ」


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