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第78話 食事


 食事の準備ができたと、うやうやしく頭をさげながらウーシスがいう。


 よくわからないまま案内されていくと、どこにあったのか、簡易ながら作りのしっかりしたテーブルとイスが準備されていた。また、そのうえに焼きたてのパンとチーズ、よい香りのする飲み物に、いくつかの果物が入ったカゴが二人分置いてある。

 出発まえに見た限りでは、テーブルなどはなく、食料も水と堅パン、干し葡萄ぶどうくらいしかなかったはずだが、どうやって用意したのだろう。疑問に思いつつも、空腹を思いだして席につき、食事に手をのばした。


 ひとくち食べてからは、レナとともに無言だった。おいしくて手を止めることができなかったのだ。パンは堅パンとは違ってやわらかく、とろけたあつあつのチーズが載っているし、飲み物はリンゴ酢に蜂蜜を入れたものらしく、疲れがふきとぶようだった。


「ご満足いただけたでしょうか。ワインも準備できますが、飲まれますか」


 ひと段落したところで、心配げな様子でウーシスが声をかけてきた。


「ワインはいいよ。それより、どうやって準備したんだ?」


「お気に召さなかったでしょうか」


 いまにも泣きだしそうな様子に、


「いや、そんなことはない。すごく、おいしかったよ。ありがとう」


と、あわてて手を振って応じると、よかったです、と心底うれしそうだ。俺とレナにしっかり尽くせ、との言葉が効いているらしい。

 オルフェと同じ金髪を肩までの長さにそろえており、ウーシスも遠目には中性的な雰囲気がある。物おじせずにみつめてくる大きな瞳は、人を魅了せずにいられない。思わず、みつめあったまま黙りこんでしまった。


「にいさん?」


 ちょっと冷えたようなレナの声が聞こえて我に返った。内心の狼狽ろうばいをかくして、テーブルや食事のことをたずねてみた。


「どうやって準備したか、ですよね。種を明かしますと、簡単な変化魔法を使ったのです。

 大魔法使いさまから、いまの時代には魔法が失われつつあると聞きました。そしてそのとおり、たしかに使いにくくなっています。

 けれど、すべての魔力が枯渇こかつしたわけではありません。無から有を生成することはできませんが、堅パンや干しブドウに水をくわえて変化させたり、逆にリンゴから果汁のみを分離させたりといったことは可能です。いまの人々が手間ひまかけてやるところを、ほんのすこし楽にやれるというだけですが」


「いや、十分にすごいよ。驚いた」


「お役に立てて光栄です」


 すっと姿勢よく頭をさげる。ほつれた数本の髪がウーシスのほおを流れ、月の光を弾いた。顔をあげ、うれしそうに見つめてくるその目から、視線をそらすことができない。


「にいさん?」


 ふたたび、ひやりとするようなレナの声がした。あわてて目をそらして、


「ながい眠りのなかでいろいろなことを学んだらしいが、この島のことはどうだろう。たすけをもとめるとしたら、ここからどこへ行けばいいか、わかるかな」


「わかると思います」


「じゃあ、教えてくれ」


「おのぞみでしたら」


 深くあたまをさげ、島の情勢について語ってくれた。大魔法使いさまの領地から北へむかっているわけだが、島で最大の王国直轄地があり、それを囲むように親王国派の部族の支配地がひろがっているらしい。


「そいつらは帝国軍の侵攻について知っているはずだよな。どうして、たすけに来ない?」

 

「大魔法使いさまは、王国側にとって微妙な立場におられるようです。領地も王国の飛び地とされておりますが、西への道を閉ざすほかは国に貢献することもなく、島の諸勢力とも、ほとんど没交渉になっています。沈黙の独立地とも呼ばれていると聞きました」


「しかし、過去にはソフィア、いや王国とふかい関係があって〈門〉を守っているはず」


「それを知る者、実感できる者は少なくなっております。我々と御主人さま方くらいかと」


「そうか……」


 どこまでが実際の過去と同じだったのかわからないが、〈巨人殺し〉の伝説が伝説として流布するだけの時が経っているのだから、大魔法使いさまと王国の因縁を知る者は、もうこの世にいないのだろう。自分たち以外には。


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