第74話 帝国の意図
広大な領地をかこむ壁のうえに立つ。
遠く大陸の方を眺めやると、おびただしい数の帝国兵が進軍してくるところだった。いびつな地平線が生き物のように蠢いている。大半は歩兵で、一部に騎兵もいる。そして、ところどころ隊列がみだれているあたりには、キメラがいるようだった。
「どうして、こんな……」
「こんな大軍で乗りこんできたのか」
言葉をひきとって、大魔法使いさまがいう。
「安心しろ。おまえたちを連れ去りにきたわけじゃない。あれは、西方への障害となるこの城を攻め落としにきた軍隊だ」
「帝国は〈門〉を目指しているのか?」
「そのようだな」
しかし、王国を滅ぼし、キメラを駆使して大陸の支配者にもなれるだろうに、なぜ〈門〉などを目指すのだろうか。そんな疑問に、大魔法使いさまが応じていう。
「大陸の制覇よりも辺境の攻略を優先した理由はなにか。島で沈黙をたもつ大魔法使いさまへの恐れ、反抗や略奪の根絶、王女の捜索、王国残党の殲滅。
最後に、魔力に係わるもの。
ちらっと話したが、この世界の魔力は枯れつつある。〈門〉が閉まっているからな。戦争の火種もそこにあったのだぞ。
もはや魔力など不要と考える王国と、東からの侵略に備えて魔力の維持は必須と考える帝国とのあいだには、埋めようのない溝があった。むろん、侵略に備えるという言葉の裏には、東の果てまで斬り従えようという野望もうかがえる。盟主たる王国の意向に反して、帝国は禁忌の魔術の研究をつづけ、キメラを生み出した。一方で〈門〉についての研究も行い、宝玉の存在を知ったのだろう。滅びた王都でおまえが受け取ることになったやつさ」
「帝国は、宝玉が〈門〉のカギだと知っているのか」
「そうだ。それを奪いとるために、王国を滅ぼした。そしていま、そのカギは帝国のもとにある。ゲドウだったか、おまえの昔の仲間が売りに出し、奪われてしまったからな。
とまあ、帝国の動機というのは、わからんでもない。幼帝を擁して実権をにぎる審問官らの欲望のたれながしといったところか。
だが、それなら目障りな盟主たる王国を滅ぼし、実質的な権力を手中にしたことで満足しそうなものではある。あえて危険をおかして竜の尾を踏みにくる理由はない。なにかまだ見えていないものがあるのかもしれん」
考えこむようにして、大魔法使いさまが口を閉じる。そこへ、一体のゴーレムがやってくると、聞き覚えのある声で伝言を口にした。
「私は帝国の審問官、アリと申します。西方の赤き竜、または西方の守護賢者たる方へ、最後のお願いにまいりました」
ゴーレムに託された皮肉で自嘲的なその声は、キメラに噛み殺され、レナの言葉に焼き殺されたはずのアリの声だった。




