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第73話 敵襲


 さて、尊敬すべき大魔法使いさまによって、人狼ルーガルーと認められたわけだが、これで魔剣の力を自在に扱えるようになったかと思いきや、まったくそんなことはなかった。


 たしかに〈餓狼がろう〉を手にしても、例の声も聞こえず、意識がとんだり、暴走するようなことはなくなった。


 けれど、全身にみなぎる力に、頭と体がついていかないのだった。腕力や脚力が常人の数倍となり、人の背丈せたけよりも高く跳躍できるが、その力に振りまわされ、蹴りを入れると自分で自分を支えきれず、跳躍すれば着地に失敗して顔面を強打するといったありさまだ。あげくに〈餓狼がろう〉から手を離したとたん、すさまじい疲労と痛みに襲われる。


 そんなことを繰り返していたら、ある日、高熱が出て、身動きひとつできなくなってしまった。ひどい負荷に、からだが耐え切れなくなってしまったらしい。


 ベッドから起きあがることもできなくなったころ、レナも同様に寝込んでいた。どうしたのか尋ねても首をふるばかりだ。


 また話せなくなっていたわけじゃなく、話したくなかったらしい。にいさんには内緒に、という頼みをあっさり無視して、体調不良の理由は大魔法使いさまが話してくれた。


「おまえの妹も大人になったということさ。もう言葉を恐れることもないだろう」


 なんだか気恥ずかしいような、感慨深いような感じだった。それをまぎらわすためというわけでもないが、体調が回復次第、魔剣に慣れるための訓練を再開した。

 いずれ帝国の追手があるかもしれないのだ。

 また、自分の身を守れるよう、レナにも魔法を教えてほしいと大魔法使いさまに頼んでみたが、あっさり断られた。


「いやだね」


「そんなこと言わず」


「なにも意地悪でいっているわけじゃない。我は寛大だからな。やさしくなんでも教えてやりたいところ、教えてやれるのは、ろくでもない魔法ばかりさ。もとが野良魔女かつ死霊魔術師ネクロマンサーだからな。もっと適したやつを紹介してやろう。そいつは……」


 と、言いかけた口を閉じ、さっと空をみあげた。その視線の先、遠くから黒いカラスの群れが騒ぎ立てながら近づいてきていた。


 カァカァカァカァ


 鳴き声にまじって、カラスたちは、敵襲! 敵襲!敵襲! と叫び続けていた。


 ローブのすそをはらって立ちあがり、大魔法使いさまが、くちびるを噛みながら、黒い群れのむこうをにらみつける。領地をかこむ壁にさえぎられて見えないが、そこには何か不吉なものが感じられた。


 隊列を組むようにして飛んでくるカラスが、一羽、また一羽と落ちてくる。


 その黒い羽は、色鮮いろあざやかな中庭の雰囲気にはそぐわない。どさり、どさり、花々を押し潰し、しみのように横たわった。

 あるいは矢に貫かれ、あるいは獰猛どうもうな獣に食いちぎられたような様子だった。なかには首のないカラスもいた。もちろん、普通ならばすでに事切れていて当然だ。それが空を飛んできたのは、大魔法使いさまの死霊魔術ネクロマンシーによるのだろう。


 地に落ちたカラスのうち首のある一羽が、いまいちど首をもたげ、


 敵襲!


と叫んで動かなくなった。心地よい花の香りに、腐敗した死臭が混じり始める。

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