表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/125

第68話 拳の下


 巨大な岩が飛んできたさきに目をらすと、遠くに人影がみえていた。


 まだ遠く、比較するものもないからか、その大きさは実感できない。同行する仲間たちも、とまどったように岩と人影をみくらべていた。だれもが足を止めるなか、にゃんにゃんと黒猫が軽快なステップで先導する。


 空も土も、どこか不定形で流動的な。ぐにゃぐにゃの地面が、しかし、踏みしめると一瞬だけ固まって、足をのけるとすぐにとろけてしまう。不安で、奇妙で、ふわふわとした感覚。


 楽観動物であり軟体動物であるネコのリズミカルな足取りを追い、さきへ進むにつれて人影が大きくなってくる。


 足もとの地面が固くなり、空に雲と太陽とがもどってきていた。草木の一本とて無いけれど、岩ばかりの風景が心地よい。視界いっぱいに門と巨人とが映る。


 それらは思ったほど大きくはなかったが、みあげるほどの高さではあり、古い遺跡の一部、岩に刻まれた彫像のようにみえる。目を凝らし、耳を澄ますと、わずかな動きと音が感じられ、ぎぎ、ぎぎ、と扉が動いていた。


 わずかに揺れるような動きだが、はっと息をのむほど張りつめたものだった。激しい力と力のぶつかりあいが危うい均衡を保っている。


 そのせめぎあいは、門と巨人の周囲に影響をおよぼしているのだろう。ほんのすこしだけ開いた扉から目にみえない何かが流れだし、岩をとろかそうとする。だが、そのすきまを閉ざすように巨人が扉を押しこみ、流れを断つ。


 わずかに入りこんだものは霧散むさんし、大気にとけていった。


 ぎぎぃ、ぎぎぃ、と、かすかに音がする。


 門と巨人の無言の闘争にわってはいることができず、圧倒されていたところへ、王女ソフィアがトコトコと足をすすめた。


「巨人さん、巨人さん、さあ、果たし合いをしましょう!」


 さわやかに戦いを申し入れるのであった。それを、意外なほど常識人の暗黒神官 《グレゴ》が押しとどめる。


「ばかもの。本気で戦うつもりか。あいかわらず馬鹿正直なやつだ」


「王命は絶対なのです!」


「そんなものは犬にでも喰わせておけ。西の果てへ来たという事実さえあればいい。

 〈ちりの王〉を倒し、〈魔女〉を倒したのは確かなのだ。貴様のような無自覚な魔法使いにはわからぬかもしれんが、この〈門と巨人〉に手を出してはならん。人間がどうにかできるようなものではない。

 かつては肥沃だった西の地が、異界じみたありさまとなったように、この世のありかたを変えてしまうかもしれんのだ」


「最初から止めるつもりだったのですね?」


「それは状況によりけりだ。自分の目で……」


 言い終えることなく、言葉がとぎれた。ソフィアの眼前、グレゴが立っていた場所に巨大なこぶしが落ちていた。一瞬のをおいて鮮血がほとばしり、王女に降りそそぐ。ねちゃりと持ちあがったこぶしの下には、つぶれて岩と同化したグレゴの死骸だ。


「……っ!」


 言葉にならない声をあげて、王女ソフィアが巨人をみあげ、息をつくまもなく襲いかかった。狂ったオオカミのような雄たけびが聞こえ、彫刻のような巨人のあしもとから駆けのぼったソフィアが、どこか悲しげな表情をした巨人にむかって細剣レイピアをくりだし、くりだし、くりだしながら着地した。


 巨体がぐわりとゆれて倒れると同時に、ほとんど閉まりかけていた〈門〉が勢いよくひらいた。ごう、と音を立てて、とびらの向こうから白い霧のようなものが流れこんでくる。あたりは、ごつごつとした固い岩に覆われていたが、それが触れた場所は、とろりととろけて色も形もさだまらない半固体状になってしまう。


 ただ〈門〉と〈巨人〉の周囲だけは霧の影響をうけず、もとのままだ。倒れた巨人が半身を起こし、ソフィアにむかって手を伸ばした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ