第63話 野営
魔女の森をぬけ、西の果てへ。
ブガンの領地とはまた別種の荒れ地がひろがっていた。かつては肥沃だったという西方の地は、不毛の大地へと姿を変えている。といって、動くものがいないわけではなく、みたこともない虫や動物が徘徊していた。
いや、そいつらは、どこかキメラじみていて、虫か動物かもわからない。あるいは、生き物かどうかすらはっきりしなかった。
ある者は攻撃的で、ある者はそうでもない。
大地もまた、固い岩盤のようかと思えば、沼地のように足をのまれてしまうこともあり、ぽつんと緑が残っていることもあった。
オオカミに、ムカデやコウモリをまぜて千切ったような不可解ないきものを射倒したが、それは息絶えることなく、魔女の首のようにしぶとく動いていた。
まともな生き物のいるべき場所じゃない。
しかし、魔女の言う門と、守人の成れの果て、つまり巨人のもとへゆくには、この地を越えていくしかなかった。
牢馬車をつかえるような場所ではなく、そもそも馬が足を踏み入れようとしない。仕方なく歩いて西の果てを目指しているのだった。途中、ぽつんと取り残されたような緑地をえらんで野営をすることになり、交代で見張りをしながら食事をとる。
干し肉や水くらいしかなく、味気ないものだが、生き物かどうかすら定かじゃないものを獲って食べるわけにもいかない。
ほとんど義務的に口を動かして咀嚼していると、怪我人の世話をするアーのすがたが目にはいってきた。そのかいがいしさと、大魔法使いの傲岸不遜さとがどうしても一致しない。本当に、黒猫と同一人物なのだろうか。
そして、眺めやったクロ《=大魔法使い黒猫ver》は毛づくろいに余念がない。
このさきのことをいろいろ聞いておきたいのに、ネコ化が進行しているのか、巨人の領域に入ってからは話に応じないのだ。ニャンニャンとしかいわない。……って、待てよ。レナなら、ネコ化した大魔法使いとも話ができるのでは? そう思ってきいてみたが、ニャンニャンを通訳してもらっても意味がなかった。
ニャンニャン。 = はらへった。
んニャー。 = ねむいにゃー。
ニャ? = 虫だぁ。
といった具合で、思考自体がネコ化していた。さて、どうするかにゃーというわけで、ぼうっとグレゴたちを眺めている。
いまはラキとソフィアが見張りをしており、わずかな緑地というか、わずかに残ったまともな土地で野営中なのである。
魔女の森で〈首のない夜会服の女〉に吹き飛ばされ、グレゴは首もとをかばった戦鎚ごと両腕をへし折られていた。添え木をした両腕をだらりとさせて座りこんでいる様子は、どこか愛らしくもある。
すわりこんでいても、立っている少女と背丈が変わらない。そんな大きなからだで、さしだされるスプーンをおとなしく口に含んでいるのだった。命にかかわるケガではないとしても、不可解な土地で両腕が使えないでいるというのに、当の本人は、
「暗黒神官の腕力よりも、その知力こそが必要であろう」
と平然としていた。なかなかに何を考えているのか分からない癖のある人物だ。この人が黒いナイフに呪いをかけることになるのか、などと物思いにふけっていると、
「なぁに、にいさん、二人のほうばかりみちゃって? うらやましいんでしょ?」
と、にこにこしながらレナがいう。
「ばかを言え。いまはそんなときじゃない」
「ふーん、いまはね。わたし、知ってるんだから。きれいな人に弱いってこと」
「ああ、きれいな人って、ハインラやリップのことか? あいつらは、しかし……」
最後までいうこともできず、ひらいた口に、スプーンをつっこまれていた。まだ熱いスープが入っていて、おもわず声をあげてしまう。それを聞いたグレゴが、なにをやっとるんだ、と呆れたような調子でいった。
「まったく、ケガ人をまえに、おとなしくしておれ。見張りがあるとはいえ気を抜くでない。戦鎚が折れ、両腕も折れたこの状態では、自分は戦いの役には立たないのだぞ」
なぜか、えらそうに宣言する暗黒神官であった。




