第49話 選択
死者たち同様、凍りついたように動かないアーに向かって、ブガンがいう。
「よく聞きなさい。私に、くだらぬ情などないのです。人ならぬものがいかに心があるようにみえようと、それはまやかしです。ふるまいだけで何かを測ってはなりません。おまえは、たまたま運良く生き残ってきたにすぎない。存在しようとしまいと、どちらであれ意味のないもの。私と同じ塵芥でしかない。おまえなど必要ありません」
「そんな……」
立ちあがりかけていた死者たちが、その場にくずれおちた。ぼろぼろと、ただの腐肉と骨に戻っていく。
ふらふらと塵の塊へ近づいて、アーのやせた手が伸ばされる。
「ア、アーは、人ではないと祠の檻で、そ、そだてられました。ブ、ブガンさまは、ア、アーを必要と……」
「していません」
「ブ、ブガンさま、で、では、もうアーを必要とする人は、い、いません。ア、アーの精気をすべて、さ、さしあげます」
塵の塊のなかへ、みずから歩を進める。けれども、泣きそうな顔のまま、たおれることもない。
蚊柱に飲みこまれたようなアーのもとへ、背の高い痩せた人影がむかった。塵に包まれた少女の胸ぐらをつかんで乱暴にひきずりだす。そのまま地面に投げつけるようにすると、グレゴは、怒りを込めて、はきすてるようにいう。
「わからんのか。ブガンは、おまえを自由にしようとしているのだ」
ソフィアが、寄り添うようにしてアーの身を起こし、その場にすわらせた。そのまま少女をレナにたくし、ラキとともに塵の塊に近づく。
「選択をしたのですね?」
「いいえ。私の未来には、もともと破滅しかありませんでしたよ」
「だれであれ、未来の選択肢はそう多くない。そのなかで、あなたはあなたの望む破滅の道を選択した。自分自身の結末が同じでも、アーに未来が残されました。敬意を表します!」
「未来など、くだらないものです。現れると同時に消えていき、いつか観測者とともに消えていくのですから。さあ、私の気が変わらないうちに……」
カチカチカチ、ラキが双剣を打ち鳴らす。
ばちばちばち、ラキの双剣を火花が覆う。
わずかに残っていた〈塵の王〉が、いきおいよく燃えあがった。
「ブ、ブガンさま!」
悲痛な声をあげて、アーが手をのばすけれど、その手には炎のきらめきと熱とが伝わるばかりだった。
押し殺した泣き声を聞きながら、俺は、足もとに近づいてきたクロ《=大魔法使い黒猫ver》に問いかけた。
「これで終わりなのか」
『おわったな。あとは待つだけだ』
「なにを?」
『ブガンそのものが燃え尽きるのを』
「なにを言ってるんだ。もう……」
燃えつきたじゃないかと言いかけた俺の目に、屋敷をかこむ荒れ地に炎があがるのがみえた。つづけて、大地が破裂するかのように、あちこちで炎が吹きあげ、目にみえるはるか彼方へと広がっていく。
『この荒れ地すべてがブガンだ。ここへ来たときに言われただろう。荒れ地へ足をつけた人間は精気をうしなって塵となると。〈塵の王〉が本気になれば、狂戦士だろうと暗黒神官だろうと敵じゃなかったさ』
どちらの味方かわからないようなことを言いながら、焼けこげていく荒れ地の匂いを、スンスンと嗅いでみせる。
『けっ、いじけた干物やろうめ』
落ちてきた灰を、しっぽで振りはらう。炎が起こした風に乗って飛んでいくそれを見つめながら、悲しそうにつぶやくのだった。
『まわりから吸って吸って吸いとって、それでおまえはなんだ。からっぽのまま満たされもしない。あわれなやろうだ』




