第48話 冷たい言葉
すでに翳りはじめた日のひかりを拒むかのように、小柄な人影が顔をふせて立っている。無造作に突き立てられた墓標の群れに囲まれているのは、アーだ。
大魔法使いの過去にして、〈塵の王〉ブガンの屋敷にすまう野良魔女。死体をあやつり、死体に語らせる死霊魔術の使い手でもある。わずかに焼け残った塵の塊をその背中に庇うようにしている。
ぐっと屋敷の影が伸びたように思え、なかほどまで暗く覆われた墓場において、ぐらぐらといくつもの墓標が抜け落ちはじめていた。
「まずいな」
と、グレゴがつぶやき、なにがまずいのかという俺の問いかけに、うるさそうに応じた。
「あの娘は死霊魔術の使い手だろう。屍鬼は厄介な相手だ。残念ながら姫君の細剣もあまり有効とは言えんし、ラキの双剣も効かぬ」
「神官なら、屍鬼をやすらかな眠りに帰す魔法がつかえるんじゃ?」
「ふん、祝福か。あんなものは魔法でもなんでもない。己以外の力ある存在にすがり、御慈悲を垂れんことをねがう物乞いの所業だぞ」
「しかし、それが有効だと……」
「写本にでも書いてあったか。マスカキの修道士どもが穢れた手で記した文字などに用はない。そもそも、暗黒神官は呪詛こそすれど、祝福などせぬ」
などと話をするまに、みるみる日はかげり、夜の領域がひろがりはじめていた。
ぐらぐらぐらぐら、墓標がぬける。
つちのしたから、この世ならぬものたちが、うでをつきだし、おちくぼんだ眼窩をのぞかせた。いまにも外へでてくるだろう。
レナがアーの名を呼ぶが返事はない。影に覆われて表情のみえないその首をふるばかりだ。
焼け残った〈塵の王〉の残骸に、アーが話しかけた。
「ブガンさま、ご、ご指示を。さ、際限のない魔術の行使を、きょ、許可すると。この者たちを、ほ、葬れと、アーが必要だと言ってください。そ、そうすれば、こんな連中……」
との言葉をつづけるさなか、わずかに顔をあげるも、レナと目が合い、再び顔をふせた。
ぼこぼこと土の盛りあがる音がして、くらい影の底から死者たちが戻ってくる。いくつも、いくつも、いくつもの人ならぬ影が立ちかえってくるのだった。
が、その動きが、凍りつくように止まった。
ブガンが容赦のない冷たい言葉を吐いたのだ。それは俺たちに向けてではなく、アーに対しての冷たい言葉だった。
「……おまえなど必要ありません」




