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第47話 熱


 ふきすさぶ風のほかには何もない。〈ちりの王〉がべる地など比べものにならないほど荒涼とした大地が延々と連なっていた。ここではないどこかとこことがとけあうようにして、つなぎめが失われたような感覚。だれか別のものの目をとおしてその世界をみているようだった。その目が、ゆっくりと閉じ、妙な高揚感とともに、全身に力がみなぎってくるのがわかる。どくどくと心臓が激しく脈打ち、いまにも破裂しそうなほどだ。


 ぐるりと舞った〈ちりの王〉が、一瞬、ひるんだような様子をみせながらも、こちらへ向かってきた。


 双剣のかたわれが、熱をもつようにあかくなり、ばちばちばちと音をたてる。ばちばちばちばち、ばちばちばちばち、と火花が炎となり、燃えあがった。


 激しくうずをまくちりのあつまりが、ごうごうと燃えあがり、焼失していく。そらがあかく夕焼けのように染まり、重い熱気が落ちてくるのだった。


 それでもなお双剣のかたわれは熱を発しつづけ、くらくらと身のうちが焼けてしまいそうだ。なぜか手を離すだけのことができず、〈ちりの王〉を焼き尽くすだけでは足りないとでもいうように、さらに熱をもちはじめた剣から力が流れこみ、俺のからだがあかく熱を発しはじめていた。


 このまま自分も焼き尽くされるのではないか。もうろうとし始めた視界の端にレナの顔がみえ、すこしだけからだの感覚をとりもどす。わずかに手の力がゆるんだとき、かつん、と乾いた音がして、手もとから双剣のかたわれが弾きとばされていた。


「ふぅ、びっくりしましたね!」


 ソフィアが細剣レイピアをおさめ、ひたいの汗をぬぐうようなそぶりをする。以前にもみたその仕草しぐさが落ちつきをあたえてくれたが、身のうちに入りこんだ熱は、燠火おきびのように体をほてらしていた。


 その場にへたりこんだ俺のまえに、グレゴがしゃがみこみ、刺すような視線をむける。


「不思議だ。その魔剣は、だれにでも扱えるものではないはず」


 好奇心と疑念とをないまぜに、ほそい目をみひらき、ゆっくりと手をのばしてきた。その手が俺のひたいにのせられ、ぽわりと淡いひかりをはなつ。


「すでに魔力の道ができているな」


 不思議だ、不思議だ、と、くりかえしながら、ぐいぐいと顔を近付けてくる。そのグレゴのあたまをソフィアがはたいた。


「よしなさい。まったく、あいかわらずの探求バカですね!」


「あたまをはたいたな。人類史上最高の頭脳に狂いが生じたらどうするつもりだ」


「もう狂ってますよ。いつか、ろくでもない魔術をうみだして人さまに迷惑をかけそうで不安です。この探求バカ!」


「だれが探求バカだ。この世のことわりを知りたいと純粋にねがっているだけだ」


「そんなことより、いまは〈ちりの王〉です。まだ終わっていませんからね!」


 ソフィアの視線の先にあるのは、墓場を背にして立つ小柄な人影と、わずかに残ったちりかたまりだった。


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