第46話 かちゃり
ざざざざざざ、塵の塊が風となって吹きあれる。その風のなかへ、黒光りする双剣を手にしたラキが飛びこんでいった。おだやかな青年といった風貌ながら、彼を狂戦士足らしめているのは、その剣だった。
ソフィアが言ったように、すでに粉々になっている〈塵の王〉に剣など無意味だ。しかし、ラキの双剣は塵を払い、塵を刈りとっていく。
斬りつけた相手から力をうばい、その力を持ち手にあたえ、死なないかぎり、永遠に戦い続けることができる。その双剣こそが狂戦士たる所以であり、〈餓狼〉の二つ名をもつ魔剣だと、あとで知った。
左の剣に触れた塵は存在を掻き消されるようにして失われ、右の剣に触れた塵は火花を発して破裂する。
双剣の脅威を知った〈塵の王〉がラキから距離をとり、代わりに俺の方へ迫ってきたが、グレゴがカラスの盾で防いでくれた。勢いよくぶつかってくる塵に精気をうばわれ、カラスたちは屋敷の家具や食器と同じように色褪せていく。
そのままでは、盾がくずれおち、塵の仲間入りをするのも時間の問題だったが、グレゴが落ちついた様子で、
「強制回復」
と一言となえると、灰のように精彩を欠いたカラスたちが、つややかな黒色をとりもどしていった。ただ、その魔法は決して善なるものとは言い難く、何羽もの鳥のからだが溶けあい、いびつな肉塊と化していった。まるでキメラの体表につきだしたクチバシのように。
これまた、あとで聞いたところでは、もともとは拷問のために使われていた魔法らしい。傷を癒やすためではなく、死なせないために。魔力を流しこみ、対象の肉体を強制的に回復させるが、その過程で、さまざまな歪みが出るのだという。
さらにグレゴが強制回復をラキにむけて放ったが、ラキのからだが、ぐにゃぐにゃに溶け、というようなことはなかった。〈餓狼〉が魔力を吸いとり、発せられる火花が増し、ばちばちと炎をふきあげるように塵と塵とに伝播していく。
だが、〈塵の王〉も黙ってやられていたわけではなく、次々と燃えあがりながら〈餓狼〉にぶつかり、火花とともに弾きとばしたのだった。
〈塵の王〉がラキを包みこむ。
塵の塊が吹きすぎ、その場にラキが倒れこむのと、弾きとばされた剣が俺の足もとに落ちるのと同時だった。
ほとんど反射的に、黒光りする剣を拾いあげようと身を屈めた。
「よせ! さわるんじゃない!」
グレゴの警告が聞こえたときには、すでに双剣のかたわれを手にしてしまっていた。ばちばちばち、と、からだのなかで火花が散っている。がつんがつん、あたまのなかのドアをだれかが滅茶苦茶にたたいている。ひらいてはいけない扉を、だれかがこじあけようとしている。
はじめて黒いナイフを手にしたときとおなじような感覚があった。あのときは、そのまま気を失ったけれど、今回は違った。
かちゃり、どこか遠くで扉がひらいた。




