第45話 カベ
つぎの一撃で、とどめを刺すつもりだ。
無数の塵が引き起こす唸り声が、暴風のように立ち昇り、もはや竜巻そのものと化していた。とても人の太刀打ちできる相手とは思えないが、
「クロ、どうにかならないのか?」
『クロいうな。大魔法使いさまだぞ』
「大魔法使いさまなら、なんとかしてくれよ。あんたがつくった世界なんだろ?」
『そうだ。だが、いまはラブリーなネコちゃんにすぎん。おまえがなんとかしろ』
「むちゃいうな」
『いいのか。レナも死ぬことになるぞ』
それを聞いたとたん、勝手にからだが動いていた。アーと一緒にいるようレナに伝え、ソフィアのもとへ走る。と言っても、衰弱しきった体で、よろめくような足取りでしかなく、背後でクロがつぶやいた言葉の意味を考える余裕もなかった。
『もう来るころだがの』
ひらひらと空からカラスの羽が落ちてきていた。その意味するところを、ブガンは気づいていたのだろうか。いや、そうでなければ、ソフィアに声をかけるまでもなく、勝負が決まっていただろう。
だいじょうぶか、と声をかけると、おや、ジュくん、おねえさんを助けに来てくれたのですか。ほれちゃいますよ? などと軽口を叩いていたが、その顔色は悪く、ひざをついたまま立ちあがることもできない有りさまだった。
ざざざざ、と不快な音がひびき、〈塵の王〉が動きはじめていた。意志をもつ塵の塊が押しよせてくる。ざざ、ざざざ、それらが体をなぶって吹き過ぎていくたびに、全身が粉々に砕かれていくような感覚があり、せめてこの一撃だけでも耐えてと思う意識すら朦朧としてきたとき、不意に風がやんだ。
目のまえに黒いカベがあった。
よくみると、それは黒い羽で出来ていて、さらによくみると、何十羽ものカラスが寄り集まり、風よけになっているのだった。
「まったく無様なものだ」
「そういうなよ。姫さまとは相性が悪いからな」
言葉をかわすのは、ソフィアより年配の男性二人組だ。助けが来るといっていたのはこの二人のことで、無礼なほうが暗黒神官、やさしげなほうが狂戦士だった。
「もう、遅いじゃないですか!」
ちょっと怒ってみせながらも、安心した様子でソフィアがいう。
「仕方がなかろう。勝手に迷子になって、勝手に街へもどって、勝手にブガンの屋敷へ行ってしまうのだからな」
「わるかったと思ってますぅ。でも、暗黒神官的には自由奔放は美徳ですよね?」
「まったく違うな。神にも悪魔にも、何者にも縛られぬゆえに自らを厳しく律し、自らの責任において立つ。それを至高とするのだ。ただの愚者といっしょにするな」
「ラキぃ、グレゴが虐めるのですぅ!」
「まあまあ、そのあたりで。姫さま、おひとりで、よくがんばりましたね」
抱きついてきたソフィアを支えながら、ラキがその頭をなでる。本当に狂戦士なのか疑わしい優しさだ。なにやら聞きおぼえのある声だったが、ふりむいたソフィアが、グレゴにむかって、べぇ! と舌をだしているのに気をとられてしまった。こちらのほうは、まさに暗黒神官にふさわしく、こめかみをピキピキさせていた。
俺たちのまえでは、おねえさんぶっていたけれど、どうもソフィアは、ちょっと子どもっぽいところのある人らしい。が、そんなことを考えている場合ではなかったわけで。
「おい、そこの愚者ども。さっさとブガンを葬るぞ」
グレゴの声に応じて、ラキがまえへ出る。
〈塵の王〉は、新手の二人を警戒してか、その動きを止めていたが、再び、ざざ、ざざざ、と唸るように動き始めていた。




