表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/125

第44話 墓標


「さて、そろそろ飽きてきましたな」


 連日、自分たちの訪問をうけてきたブガンが、ぽつりとつぶやく。


「ふふ、それで? どうするのです?」


 にっこりと問いかけながら、ソフィアが味のない紅茶を口にする。ざざざざざ、ちりかたまりがその眼前に迫り、


「あなたがたか、わたくしか、どちらかが消える。あなたがたは魔女を討伐したい、わたくしは魔女の下僕げぼくとして、あなたがたを抹殺まっさつせねばならない。相容あいいれないのですよ」


「だから、戦うのですか?」


 ざざざざざ、ちりかたまりがうなずくように音をたてた。さそうような音を無視して、ソフィアがティーカップをソーサーに置くと、陶器のふれあう乾いた音がした。


「あなたは、ほんとうにそうしたいのですか? 魔女の下僕げぼく? ほんとうですか? あなたは人間だったのでしょう?」


「どこでそんな話を聞いてきたのかしりませんが、わたくしは、魔女の命令には逆らえないのです。かつては人間だったなにか。それも、そのことを思いだすこともできないもの。わたくしは、この土地そのものであり、ここを離れることもできません」


「しかし、選択することはできます。えらべる道はすくないとしても。あなたは、わたしたちをすぐに殺さなかった。いくらわたしの魔力量が多くても、本気をだせば、やれないわけがない。それなのに、そのままにしている。アーちゃんを手元においているように!」


「あてこすりはやめなさい。わたくしは否定する者。なにものとも相容あいいれないのですから」


「ふふ、ほんとうは気付いているのではありませんか。選択すべきときがいたり、選択すべきは自分なのだと。人間の本質は見ためなどではない。選択にあります!」


「議論は無意味ですな」


 ざざざざ、ちりかたまりが渦をまき、窓のそとへむかった。


 さあ、こちらへ。


 との声をきいて、ソフィアは、ちらりとアーをみると、意味ありげな笑みをうかべながら立ちあがった。


 屋敷の裏側には、はるか遠く荒れ地をみとおせるテラスが設けられている。精気をすいとられた身には、そこまで降りていくだけでも、ひと苦労だ。アーとソフィアは、まだ余裕があるようにみえたが、レナと自分とは、たがいに支えあいながら階段をたどった。

 ちなみに、クロ《=大魔法使い黒猫ver》は、ちゃっかりアーに抱かれて運ばれていた。楽をしやがって、と思うが、クロ=大魔法使い=アーなのだとすると自分で歩いていると言えなくもない。


 ざざざざざざざざざざざざざざ、無数の虫の羽音のような不快な音が聞こえていた。


 不吉な予感を胸に、テラスへでると、そこには竜巻きのようなブガンのすがたがあった。屋敷のそと、荒れ地から、続々とちりが寄り集まってきていた。


 屋敷の裏側は墓地になっていて、一本杭いっぽんぐいの墓標がいくつも無造作に突き立てられている。これまで屋敷へ運ばれてきた供物くもつたる人々の成れの果てだ。


 頭上をみあげながら、ソフィアがよく通る声でブガンによびかけた。


「ここをあなたの最期の地に選ぶのですね?」


「ばかな。あなたがたの最期の地ですよ。そして、死体を運ぶ手間がいらないように」


「アーちゃんの死霊魔術ネクロマンシーなら、なにほどのこともないでしょうに。この墓標は、だれが、なんのために立てたのです?」


「……話は終わりです」


 ざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざ、ちりかたまりが風のようにはしり、ソフィアを包みこむようにして吹きぬけた。


 そのあとには、ひざをついたソフィアのすがたがあり、ぜいぜいとあらい息をしていた。


「ほう、この〈ちりの王〉の抱擁ほうようをうけて、まだ息をしているとは。それだけでも賞賛にあたいしますな」


「あ、あなたには、まだ自由が残されています。ゾフィア・フォン・デア・プファルツの名において、その選択を尊重すると誓います!」


「そのような有り様でも誇りを失わないことには敬意を表します。ですが、力なき者の誓いなど、なにほどの意味があるでしょう」


 ざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざ、と、さらに四方からちりが集まり、〈ちりの王〉がふくれあがっていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ