第42話 衰弱
朝。
目覚めると、病あけのように体がおもく、自由がきかなかった。つねに精気をすわれ続けているようだ。
しかし、無益な戦いは好まないとのソフィアの言葉は本気だったらしく、ブガンと会って話をするだけで、連日死闘がくりひろげられるなどということはなかった。
「本当に変わった方ですな」
ふしぎそうにブガンが出迎える。「これで何日目でしょうか。道をあけよと、ただ説得するだけではありませんか。それ以外には、くだらない雑談とお茶の相手をしてくださる」
「わたしは平和主義者なのです。あなたも力を抑えていますよね。なぜです?」
「ただの気まぐれですよ」
「アーちゃんを手元にとどめているように?」
「その子は勝手に生き残っただけです。あなたがたの世界からつまはじきにされ、ここへ送りこまれた。祠と称する牢獄で育てられた野良魔女だったとか。ここで暮らしていても死なずに生きているからそのままにしているだけです。思い入れなどありませんよ」
「そんなことは聞いてませんけどね!」
「私と同じ、塵芥、無用な存在なのです」
言葉に怒りがこもり、すわった人のかたちをとっていたブガンが立ちあがった。ざらざらと塵の塊が揺らぐ。
「触れられたくないところでしたか。いつも悪気はないのに人を怒らせてしまいます。わたしには争う気はありませんよ?」
「そんな悠長なことを言っている場合ではないでしょう。私に、その気がなくても、あなた自身が大丈夫でも、おつれの方たちは衰弱していくでしょうな。その兄妹と黒猫とはね」
ブガンがいうとおり、みんな衰弱が隠せないほどになってきていた。
「おつれの方たちのために、そろそろ決めてはどうですかな。私と戦うと」
「やめておきます。わたしでは勝てません!」
「言い切りますな。では、どうするつもりなのです?」
「どうもしません。期限を切られているのは、あなたのほうですよ。どうするべきか、よく考えることをお勧めします。アーちゃんのためにも、ね?」
「なにか思い違いをしているようです。そして、そちらの期限はもうすぐでしょう」
塵の塊が笑ったように思え、その途端、俺はその場にくずれ落ちた。ずっと精気をすいとられ続けてきたのだ。そのまま、重い病の床にあるかのように、寝台から起きあがれなくなった。
みなで看病してくれたが良くはならず、だんだんと体が弱っていった。心配するな、大丈夫だなどと言う黒猫も寝床で丸まっていて、その姿をみていると、不安が募ってくる。
そんななか、敗北あるいは勝利をつげる使いがやってきた。
寝台で横になっているとき、部屋ではレナとアーがささやくように言葉をかわしていた。ふたりは年齢もちかく、いつのまにか仲良くなっていたらしい。体が弱るにつれて、逆に感覚は鋭くなってきているのか、その話し声が聞くともなくきこえてきた。
「アーちゃんは、いつから屋敷にいるの?」
「よ、よく、わかりません。い、いつのまにか、こ、こここ、ここにいました」
「でも、ながくいたら死んじゃうんでしょ?」
「ア、アア、ア、アーちゃんは、し、死にません。の、野良魔女デスから」
「野良魔女って?」
「う、うまれつき、ま、魔力をもった子どもデス。そ、そ、そ、それも、く、黒魔術の、ち、力をもつ、こ、こ、子ども、で、デス」
「アーちゃんは、どんな力をもってるの?」
「ネ、ネ、死霊魔術で、デス。はい。し、死体をあやつる、ま、魔術なのデス。はい。ブ、ブブ、ブガンさまが、ほ、ほめてくれマス。はい」
「ねぇ、もしかして、アーちゃんは〈塵の王〉のことを……」
言いかけたレナがアーに覆いかぶさるのと、部屋に何かが飛びこんでくるのと、ほとんど同時だった。




