第38話 またも王女さま
ソフィアの方も、自分とレナの髪色が同じことに気付いたらしい。あら、そっくりですね、と微笑み、フードをとって頭を振ってみせた。ながれるような長いかみが、さらさらと日の光をはじく。
「この髪のせいで、なにも食べられなかったのです。むらさきの髪は魔女なのだそうです。バカみたいですよね。わらっちゃいますよね。でも、この島ではそれが常識なのですよ?」
あ、パンの代金を払いますね。お金はあるのです。魔女に売るものはないって断られちゃって……。と、ソフィアが荷物をあさっているあいだに、黒猫があしもとに近寄ってきた。
『未来の英雄のひとりだ。ソフィアと一緒にいれば、ほかの三人にも会える』
「未来の巨人殺しねぇ……」
『みために騙されるなよ。ある意味、こいつが一番やっかいだからな。本名は、ゾフィア・フォン・デア・プファルツ。大陸の王家の出身だ。かんたんに言えば、レナの先祖みたいなもんだ。こいつも王女さまってことさ』
「王女さま?」
おもわずつぶやいた言葉が耳に入ったらしい。荷物をあさっていたソフィアの手がとまり、顔をのぞきこむようにしてくる。
「あらあら、バレちゃいましたか。たしかに、大陸では王女といわれることもあります。ですが、この島では、ただのソフィアです。むしろ、魔女よばわりされる可哀そうなソフィアなのですよ。これまでどおり、ソフィアちゃんと呼んでくださいね!」
いや、呼んでない。と思いつつ、黒猫、つまり大魔法使いに、これからどうすればいいのかたずねる。その返事は、
『知らん』
「こら、あんたが連れてきたんだろ。どうやって呪いをとくんだ?」
『何百年も続いた呪いが、そう簡単にとけると思うなよ。まずは四人の英雄と会うことだ。あとのことはそれから説明してやる』
「あいかわらず偉そうに。いまは無力なネコだということを忘れるなよ」
と、耳をひっぱり、ひげをひっぱり、しっぽをひっぱってやる。
『や、やめろ。卑怯だぞ』
「もったいぶらずに、さっさと説明するのだ」
『んぐぐ、や、やめろ。やめんか』
などと遊んでいると、ほほえましそうに、ソフィアがこちらをみていた。
「ネコちゃんとおしゃべりなんて、かわいい男の子ですね!」
「え?」
と思っていると、黒猫がニヤつきながら説明してくれた。ここは魔法でつくられた世界だが、我の言葉がわかるのは、おまえとレナだけだと。つまり、ソフィアからすれば、さっきからずっと、にゃあにゃあ言ってるだけのネコと遊んでいるようにしかみえていなかったということだ。うう、穴があったら入りたい。
にくらしいことに、大魔法使いは本当のネコのように振るまい、にゃんにゃんと、レナやソフィアにじゃれつくのだった。
ネコの名前をきかれたが、名前はまだないと応じた。そこで、ソフィアに、シュバルツと格好いい名前をつけられそうになったところを、こんなやつはクロで十分だと阻止してやったのが仕返しといえば仕返しである。
だが、そんなことをしている場合ではなかった。みつけたぞ! と俺を指さしていうのは、だれあらん、パンを盗まれた店の者である。市場の自警団かなにか、盗人をとりしまる連中も一緒のようだった。
さてはて、はてさて、どうしたものか。もとの世界では、パン盗人はムチ打ちか百叩きといったところだが、こちらの世界での刑罰が、手を切りおとすとか、しばり首にするとかだったらどうしよう。
こんなところで終わるわけにはいかないと、レナとソフィアに目で合図をして逃げ出そうとしたところをあっさり捕まった。自警団の連中などにではない。俺の襟首をつかんで離さないのは、ソフィアだった。
「わるいことはいけません。パンを盗むなど、しばり首になっても仕方ありませんよ。盗んだものを食べたわたしも同罪ですね!」
さあ、どうぞ。つかまえてください。と、いわんばかりに手を差しだす。つかまえにきた連中も、めんくらってはいたが、ソフィアとレナの髪色に気づいて、盗人の仲間か、冒涜者か、と口々にわめきながら、その両手を縄でしばりあげた。ソフィアは関係ないと声をあげようとしたが、
「いえ、よいのです。なにごとも流れにさからってはなりません!」
と、ソフィアに止められた。黒猫からも、
『心配するな。幸運おばけだからな』
と、暴れたりしないように忠告された。このときの俺はまだ、それがどういう意味なのかは分かっていなかった。




