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第34話 城と王女


 大魔法使いさまに連れていかれたのは、十字路に建つ石造りの家だ。寝台を裏返すと扉があり、最初から出口はここだったらしい。


「もし、合格してなかったらどうなっていたんだ。もとの小部屋へ戻されていたのかな」


「いや、ちがう。領内へむかう途中で、そいつらの末路がわかるだろう」


 案内されるまま扉をぬけると、ながい廻廊かいろうへでた。無数の寝台がならんでおり、人々が眠りについている。


「ゆめに喰われた連中だ。ゆめのなかで年老いて死んでいく。領内のゴーレムを動かしているのは、こいつらの生命力なのさ」


「ひどいな」


「なにがだ。自分たちが望んだことだ。現実にもどったところで、死んだように生きてきた連中だからな。どうせ死ぬまで死んだままだ。この大魔法使いさまが善人だなんて、だれが言った。正義の味方でもなければ、聖者、聖人でもない。ただの魔法使いだ」


 抗議しようとしたとき、大魔法使いのさびしそうな目にぶつかった。


「おまえたちからは懐かしい匂いがする。おまえは呪いを受けているが、多かれ少なかれ、だれもが呪いをうけているものさ。言葉には気をつけるんだね。トゲのように突き刺さり、ときにはそこへ根をはってしまう」


 どういうことなのか、呪いとはなにかと尋ねたが、またあとでな、と流され、そうこうするうちに領地へ入っていた。


 一面に整然とした農地がひろがり、山肌にそって牛や羊も放牧されている。みえる範囲に人の姿はなく、ゴーレムたちが黙々と働いていた。人がいないわけではなく、かつてのペテロのように領内で暮らしている者もいるという。農地のむこうではならの森に囲まれた石積みの城が高台から四方を見下ろしていたが、威圧的な感じはなく、不思議と見守られているような印象をうけた。


 レナが城内で待っていると聞き、会えるのが待ち遠しかった。どれだけ待たせたのだろう。数ヶ月は離れていたように感じる。


 謁見えっけんの間ともいうべき部屋に入ると、そこにレナがいた。上品なドレスをきて豪華なイスに腰かけている様子は、高貴な王女さまのようだった。


 よだれを垂らして寝ていることを除けば。


 楽しい夢でもみているのか、にこにことした表情をうかべている。どこでも寝られる子だとは思っていたが、こんなところでこんな寝方をするとは。兄として、少々はずかしい。起こそうとしたが、がくがくと首がゆれるだけで目を覚まそうとしない。


「ゆさぶってもムダだぞ。魔法のねむりをかけてあるからな」


 との言葉に、はっとさせられる。そんな驚きに気づいているのかいないのか、大魔法使いが寝顔を眺めながらいう。


「レナといったな。おまえよりよほど優秀で、すぐに見破って出てきたが、にいさんを探しにいくと言ってきかないから眠らせておいたんだ。もともと眠るのが好きなのか、体質なのか、異常によく効いたわい」


 では、起こすとしようか、と大魔法使いは斜めになったレナの首をもどし、よだれを拭いて襟もとを整えながら言った。


「やはり、よく似ている」



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